なぜ障がいのある子を受け入れるか、保育園経営者として考えていること
現在、発達障がいのお子さんをお預かりしています。本人もほかの園児も互いにいい影響を与え合って成長できるのでは? と考え、お預かりを決めたのでした。ご両親はとてもお子さんに対し熱心で、病院のセラピーで「集団生活をさせることが本人に必要」と言われたことから、受け入れ可能な保育園を探していたのだそうです。私の娘が以前通っていた保育園にも一度は入れたそうですが、「『ほかの子とは一緒にできない』と言われ、1人部屋に隔離されていた」とのことでした。隔離という対応には大反対ですが、小さくはない年齢で体力もあることから、「お散歩で事故に遭ったらどうしよう」「意思の疎通ができない」などを理由に、受け入れを断る園側の気持ちも経営者としてはわかる気がします。うちの園でも、はじめ保育士たちは受け入れに迷いを見せたので、状況によって(日によって預かっている人数が違う)預かり時間をご両親と相談しながら決めるという条件で納得してもらいました。
有名人の子どもが多く通っていることでも知られる和光小学校では、クラスに1~2名障がいのあるお子さんを受け入れています。やはり、障がいのある子ども(障がいの種類や度合はさまざま)とほかの子どもが同じクラスで過ごすことが互いの成長のためになると考えているのです。この話を聞いて、うちも入園希望があれば受け入れたいと思っていたのでした。自分自身、温室環境で育てられたせいか、障がいのある方がこの世にいることを知ったのが、小学校中学年。失礼な話ですが、ショックでしばらく言葉数が減ったほどでした。自分の子どもには、見ただけではわからない障がいを抱えている人もいるということを含めて正しい知識を持ち、接してほしいと考えています。私のような温室で育ってしまうと、怖がったり驚いたりしてしまうことも考えられるので、それは避けたいのです。
■子どもたちの反応は……
その新しいお友だちの初登園。散歩に行った保育士は「すごく大変だった」と言っていました。そりゃ、同じ給与で働くなら、ラクな園児ばかりがいいに決まっています。どの保育園でも同じ反応でしょうね。幸いなことに、駒沢の森こども園はキャンセル待ちもいるほどはやっているので、経営者としてもお金のことだけを考えるなら、手の掛かるとわかっている子どもは入れないで、ほかのお子さんを入園させたほうがいい。でも、私はその子や他の子どもたちの成長に賭けました。とはいえ、園児全員の安全が絶対なので、その子の登園日は確実に余裕のある日にしていただくことにしました。
2回目の登園の日。4~5歳のお友だちに変化が表れました。初日は公園でいつものペースで各々遊んでいたのですが、「○○(その園児のあだ名)、そっち行っちゃダメ!」「危ないよ!」「車来るよ」と、なんと数人がその子を気にして、遊んでいたのです。「歩いている時は手を離しちゃダメだよ」「○○は自由人だから、どこ行っちゃうかわかんないからさー、みんなで守ろうよ」と、次々と子どもたちから意見が出たり、本人に声をかけたり、子どもたち自ら行動する姿を見て胸が熱くなりました。本人も給食を座って食べられるようになったり、公園までは手を離さず行くことを理解してくれたり、確実に前へと進んでいると感じました。
実は親戚に学習障がいのある子どもがいて、現在は公立小学校の支援学級に通い、得意な料理を家族に振る舞ったり、天才的に上手な絵を描いたり、生き生きと生活しています。支援学級に入る前は、私立の普通校に通っていて、放学になるなどいろいろあり、家族もたくさん悩みました。いま楽しく生活しているのは、周りの理解と本人を温かく受け入れる環境があるからだと実感しています。
角川慶子(かどかわ・けいこ)
1973年、東京都生まれ。「角川春樹事務所」会長・角川春樹氏の長女。自身も元アイドルという異色の肩書きに加えて、ビジュアル系バンド好きで、元バンギャルの”鬼畜ライター”としても活躍。2011年9月1日に「駒沢の森こども園」をオープンさせる。家庭では5歳の愛娘の子育てに奮闘中。