「母親は自宅でみてやりたい」親族4人の介護のため辞職した長男の3年後
■4人を見送った喪失感を埋めたのは新しい生命だった
母親を介護しながら、3つの施設に通い続けて3年。伯母、父、叔父が相次いで亡くなり、とうとう昨年母親も亡くなった。最期は肺炎を起こして病院で息を引き取ったという。
「母が入院すると、覚も入院してしまいました。鬱とアル中で、心身ともにボロボロの状態でした。4人の介護による重圧を、アルコールに逃げることで晴らしていたんでしょう」
母親の葬儀に、覚さんは病院から外出許可をもらい出席。静江さんの手を借りながら、なんとか喪主を果たすことができた。
「覚はずっと号泣していました。『これでやっと肩の荷が降りた』と。全部1人で背負ってきた分、最後に残った母を見送ったという安堵感は大きかったんでしょう。それだけにガックリきてしてしまうんじゃないかと、姉たちとも心配していたんです」
覚さんの体調を危ぶみながら、母親の百カ日法要に出席した西浦さんや姉たちは、ここで予想もしていなかった展開に驚くことになった。
「四十九日の時も、覚は病院から法要に出席したような状態だったので、百カ日法要は無理して行わなくてもいいからと言っていたのですが、どうしてもやりたいというので行ったんです。すると、覚が妙に元気なんですよ」
覚さんの心に空いた大きな穴を埋めたもの。それは、一人息子だった。
「甥はお爺ちゃん子で、小さい頃から農作業について行っていたので、自分が先祖代々の農地をどうにかしないといけないと思っていたようです。農業高校を卒業すると、荒れた田畑を精力的に耕し始めたんです。朝から晩まで働く甥の姿を見て、覚もさすがにボヤボヤしていられないと思ったようです」
さらに「法要の席で発表するのも何だけど」という前置きで、おめでたいニュースが発表されたという。
「甥の彼女が妊娠4カ月だと言うんです。まだ甥は21歳ですよ。田舎だから、できちゃった婚なんてみっともないと眉をひそめる人もいるでしょうが、4人の年寄りをこの数年で次々に亡くした小平家にとって、久しぶりの明るい話題でした。彼女は覚たちとも同居して、農業の手伝いもしたいって言ってくれてるらしいんです。こんないい話はないよ、って私たちは大賛成。おなかが大きくなるから式の準備も急がないといけないと、覚が俄然張り切りだしたってわけです。若夫婦のために、亡くなった両親の部屋をリフォームするとか言ってましたよ。鬱なんてどこかに飛んでいったみたい。お祝いとなるとお酒を飲みすぎるんじゃないかと、今の心配はそれくらいですかね(笑)」
去る者は日日に疎し。新しい生命の誕生ほど、生へのエネルギーを起こしてくれるものはない。未来があるから、生きられる。ま、未来のすべてが明るいとは限らないが。