上から目線の女優妻・小雪から浮かび上がる「幸せな結婚に理想の夫探しは無意味」説
■かつて浜崎あゆみに心酔していた夫・松ケン
小雪は女性に褒められたがっている。こう仮説を立てると、小雪の行動は筋が通ったものに見えてくる。小雪が身重でありながら、夫の実家である青森に帰省したことは話題になったが、その行動を褒めたたえるのは、主に姑世代の女性である。産後の母親のケアが充実しているとして、韓国の産後調理院を選んだのは、出産を控えた女性への先駆者的アドバイスだろう。小雪はすべての世代の女性の称賛を狙って生きているといっても過言ではない。
そんな小雪にとって、松山ケンイチは完璧な結婚相手である。年齢やキャリアが高くなると女性はモテないという風潮のある日本で、年下の人気俳優に熱烈に求められる姿は、ある種、女性の理想である。松山は、自身が主演したNHK大河ドラマ『平清盛』が、史上最低視聴率を記録するという不名誉を達成してしまったが、これもまた小雪には好都合だ。「気にするな」と小雪が上から励ませるし、今後、松山が大ヒットを飛ばせば「不遇時代を支えた良妻」と世間から注目を浴びるからである。
「上から物を言うと男のプライドを傷つける」という一般論があるが、松山にそれはあてはまらない。結婚記者会見時、松山は「ストレートに物を言うところに惚れた」「(尻に敷かれてる? と聞かれて)そうですね」と発言するなど、いわゆる男の沽券にこだわらないタイプであることがわかる。「下に見られる」ことにもこだわらないようで、時に侮蔑の対象になる方言を今でも使っており、一人称は「わい」である。成功したからといって過去を書き変えないこの姿勢は、「田舎者なところが好き」と小雪にも好評である。
松山は自著『敗者』(新潮社)において、10代の頃に「頭がおかしくなるくらい」浜崎あゆみが好きであったことを告白している。「灯油ストーブにもマジックで歌詞を書く位好き」というのだから、完全に心酔である。「上から」行きたい小雪と「下から崇めたい」松山はうまくはまったパズルのような関係である。
結婚後も仕事を続けてほしい、料理上手であってほしい、仕事の疲れを癒やしてほしい。メディアが報じる結婚したい女性像の条件を見て、独身女性は自分をその型にあてはめようとする。しかし、これらの条件を全部クリアしたからといって、結婚に至るとは限らず、また男性が口で言っていた理想とまったく異なる相手と結婚することは珍しくない。結局、結婚とは「できる競争」ではないということだ。
小雪と松山ケンイチを見ると、結婚とは組合せの妙味であることがわかる。できる役ではなく、やりたい役を。結婚とは、受容的で従順であることを強いられる日本の女性が、初めて選ぶ「役」なのかもしれない。
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。
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