本格的な復讐劇『リベンジ』の人気は、格差社会が生んだ「欺まんへの憤り」が要因?
物語の主人公は、裕福な家庭に生まれたものの、父親がテロリストの罪を着せられたため保護施設で育てられた、若く美しい女性。成長した彼女は、失意の底で死んだ父親が、信頼していた権力者たちに陥れられていたという驚愕の事実を知り、復讐を誓う。莫大な遺産を元に、彼女は情報収集をし、幼い頃に家族と住んだハンプトンズに戻る。髪をブロンドに染め、裕福な慈善事業家になりきった彼女は、父を陥れた憎き権力者やエリートたちに次々と制裁を加えていく。
全米で延べ1億8,000万人以上が視聴した“復讐ドラマの決定版”と言われるだけあり、この作品には、復讐がてんこ盛り。ターゲットは、インサイダー取引で大儲けしたウォール街で働くヘッジファンドの代表者、権力者に服従する悪徳政治家、金持ち御用達のうさんくさい精神科医など、誰もが嫌うタイプの金持ちたちだ。シーズン1の前半は、毎回のように悪者たちが復讐を受ける。情け無用に打ちのめしていく制裁が痛快だと、人気を集めたのだ。
番組のクリエーター、マイク・ケリーは、この作品の大まかなストーリーラインは『モンテ・クリスト伯』を基にしたと明かしている。『モンテ・クリスト伯』は、無実の罪を着せられた主人公が脱獄した後、巨万の富を手に入れ復讐していくという、有名なフランスの18世紀の古典小説。パリの社交界に颯爽と現れ、富と知恵と金を使って復讐を実行していくというストーリーであり、『リベンジ』は、この名作のバックボーンをしっかりと受け継いでいる。復讐ドラマには、現実的ではない突拍子もないシーンがありがちだが、軸がしっかりしている本作は、リアリティあふれるシーンがスピーディに流れていく。この点が、厳しくなりがちな本物志向の視聴者たちを満足させたのだろう。
■キャスティングと演出も本物志向
そしてなんといっても真田広之の存在が、この作品をより一層リアルなものに演出していることを強調したい。
アメリカのテレビドラマやハリウッド映画に登場する日本人キャラクターは、実に長い間、ひどいものであった。『ティファニーで朝食を』に登場した“神経質な出っ歯に眼鏡のチビ”だったり、『刑事コロンボ』によく登場していた真面目な庭師や芸者であったり、アメリカ人が持つ漠然としたイメージを基に、アメリカ人から見た日本人が描かれていたのだ。『HEROES/ヒーローズ』にレギュラー出演し、人気を集めたマシ・オカはイメージを大きく変えたが、ドラマのストーリー上、コミカルな要素が強すぎ、お笑い担当のようになっていた。
『リベンジ』では、映画『ラストサムライ』『ラッシュアワー3』で高い評価を得て、人気ドラマシリーズ『LOST』終盤で鍵を握る役を熱演した真田が、主人公に復讐の心得や武術を伝授する師の役として登場。投資会社の日本人CEOという顔を持つキャラクターを演じる彼は、ニューヨークの社交会が凝縮したハンプトンズにも溶け込む、ハイソな日本人をサラリと演じており、見ていてとても安心する。武術の特訓シーンも大げさではなく、やり過ぎているという印象は受けない。真田は出演契約を結ぶ際、大げさな演出はしないでほしいと注文をつけたそうだが、それがしっかり守られている。アメリカ人にとっても、真田広之は見たことがある日本人俳優。彼がキャスティングされたことで、ドラマに興味を持った視聴者も少なくないはずだ。
ドラマはシーズンが進むにつれ、主人公の心に変化が表れたり、陰謀が思った以上に複雑であることが判明するなど、一度見始めたらやめられなくなる。日本でも長く不況が続いており、自身の属性のせいで「勝ち組」になれないと嘆く人々が増え、「欺まん」に対し過敏になっている。『リベンジ』はそんな殺伐とした時代に快感を与えてくれるドラマとして、日本でも人気を得る可能性が大である。
堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。