男の「下に見てもいい」欲を満たす、女子アナ・中野美奈子の“ニブさ”
――タレント本。それは教祖というべきタレントと信者(=ファン)をつなぐ“経典”。その中にはどんな教えが書かれ、ファンは何に心酔していくのか。そこから、現代の縮図が見えてくる……。
「気が利く」と言われることは、独身女性の必修科目のようなものである。男性優位の日本社会では、男の痒いところに手が届くような女性の方が、評価が高いからだ。しかし、元フジテレビアナウンサー・中野美奈子の初エッセイ『ミナモトノミナモト。』(幻冬舎)は、“ニブい”という才能について教えてくれる。
中野のニブさは読者をハラハラさせる。
かつて林真理子は、「一緒に仕事をする人を友達とは言わない」と言った。女性の社会進出が進んでいなかった1980年代、男のチカラを借りずに自身の才能だけで今日まで上りつめたからこその説得力ある言葉だ。 が、そうは言っても、会社の同期というのは精神的距離が近い存在であり、中野も、さまぁ~ず大竹一樹夫人・中村仁美アナとのこんな“同期エピソード”を本書につづっている。
中村は入社直後に「10年後の美奈子へ」と書いた手紙をこっそり中野のデスクに忍ばせており、中野は2012年の退社直前にこの手紙を見つけることになる。
「22歳の美奈子は今日も元気だよ。そして大分滑舌が良くなってきたけど、まだまだかな。未来の美奈子はちゃんと濁音と鼻濁音の区別がついている!これからアナウンス人生がはじまるわけだけど、今わたしの横にいる美奈子は何も知らないで笑っています(以下略)」
中野は手紙の内容より、退社直前にこの手紙を見つけられて良かったと書いている。中村に「おまえは下手だ」と侮辱されていることにまったく気がついていないようだ。
これは決して、「言われのない侮辱」ではない。中野は大学1年時にアナウンサースクールに通っていたが、元アナウンサーの男性講師に呼び出され、「アナウンサーに向いていない」と勧告されたと冒頭で告白している。大学生の上手い下手などレベルが知れている。元アナウンサーは、技術面の問題ではなく、言語感覚や観察力などもっと根本的な資質について言及していると思われる。センスのない人間は努力しても一般人止まり、プロにはなれないというわけだ。