北朝鮮帰りのデニス・ロッドマン、斬新な金正恩擁護で全米が唖然
派手で女装癖のある“NBA最強のリバウンド王”ことデニス・ロッドマン。マドンナと肉体関係を持ち、プリンスが見いだしたカルメン・エレクトラと半年間の結婚生活を送り、自叙伝のサイン会にはタトゥーだらけの巨体に純白ウェディングをまとい登場するなど、破天荒な生き方で注目を集めてきた彼が、今また全米から奇異の目で見られている。アメリカが警戒する北朝鮮をいきなり訪問し、金正恩第一書記の大親友となって帰ってきたからだ。
2011年末に金正日総書記が急死したことを受けて、後継者として北朝鮮の最高指導者となった金正恩第一書記。ロケットとミサイルと核実験の強行を続けていることから、世界中から危険視されている。アメリカを敵国だと挑発していることから、オバマ米政権は先月上旬、「北朝鮮が核実験を強行した場合の対抗措置の1つ」として、ブッシュ前政権時代の08年10月に解除した「テロ支援国家」への再指定を検討していると発表。強硬姿勢を打ち出し、圧力をかける構えを見せたばかりである。
そんな中、奇人として知られるデニス・ロッドマンがピアスだらけの顔面で北朝鮮を訪問。最高指導者となった金正恩に面会した最初のアメリカ人として、世界中のメディアを賑わせた。
デニスは今回、コミカルなバスケを披露するバスケットボールのエキシビションチーム「ハーレム・グローブトロッターズ」の一員として、米HBOチャンネルの『VICE』のスタッフを引き連れ、北朝鮮入りしたとのこと。『VICE』は、雑誌「VICE」のテレビシリーズ版で、世界で起こっている制御不能となった問題に迫るドキュメンタリー番組である。
北朝鮮を訪問したデニスは、金正恩と握手やハグを交わし、一緒にバスケットボールを観戦を楽しんだほか、アイススケートや水族館へも繰り出した。もちろん連日のように食事会が開かれ、酒を酌み交わすなど、この上ないもてなしを受けた。そんなデニスが、帰国後、米ABC局の日曜朝のニュース特番『This Week』に出演。金正恩のことを「グレート・ガイ。いい奴だぜ」と絶賛し、全米を唖然とさせた。
『This Week』冒頭で、「世界で最もミステリアスで危険な男、金正恩」に、ノーベル平和賞受賞者で元大統領の「ジミー・カーターを抑えて一番に面会した男」と紹介されたデニスは、元国家安全保障会議担当副次官補の「CIAの特別捜査員よりも、デニスの方が金正恩のことを知っている。これは恐ろしい事実だ」というコメントを聞くと、歯をむき出しにして大爆笑し「恐ろしくなんかねぇよ」とにんまり。「こんな大ごとになるとはな。ちょっと行って、楽しんで、帰ってくる予定だったのによ」と言った。
番組司会者はデニスに「あなたは金正恩のことを、素晴らしい人だと発言していますが、彼はアメリカを脅迫し、同胞に対してもひどいことをしている人だと知っていましたか?」と質問。デニスは、「あぁ、知ってるよ。嫌だなとも思うさ。でもさ、そういうんじゃなく、人間レベルで友人になったんだ。そんな話もしなかったよ」と答え、「ジイちゃんもオヤジも、って環境じゃあな。奴はまだ28歳なんだぜ」と、環境のせいだと擁護する発言をした(編註:金正恩第一書記の出生年は諸説あり)。
「あなたは、金正恩のことを、『素晴らしい最高指導者』とも言っていましたが、本気ですか?」との問いには、「彼の周りの人や家族を見ると、そう思えたんだよ」。「いやいや、彼らは強制されているのでは?」と聞かれると、「う~ん、ノーかな」と言い、突然話をチェンジ。「金正恩のオバマへのメッセージを受け取ってきたぜ。彼はな、オバマに受話器を取って、電話をかけてもらいたいんだよ。『戦争は嫌だ』、『戦争は避けたい』って言っててな」と、胸を張って言い放った。司会者が、「オバマ大統領から電話をしろと? なぜ、“あなたから電話すれば?”と提言しなかったのですか?」と突っ込まれると、「そりゃ、違うだろ。28歳だぜ。オヤジやジイさんとは違うんだ。28歳!」と、やたらに年齢を強調した。
司会者は話にならないと思ったのか、「アメリカに対して何か言っていましたか?」と別の質問を投げかけると、デニスは「いやぁ、彼はバスケットボールが大好きでね。その時、オレは言ったんだ。オバマもバスケ、好きなんだぜって。そして、『あの電話くれ』って話になったんだ」と手柄のように明かした。もっと掘り下げて聞きたい司会者は、「それは、ほんの世間話ですよね。『アメリカとの関係を改善したい』とかいう話は?」と聞くのだが、デニスは「奴は謙虚なんだよ。若いからな」「『アメリカを攻撃』とかっていうのはオヤジから来てる話。奴は若いから、そんなんじゃないよ」と、再び若さが免罪符のような発言を繰り返した。
金正恩第一書記のオバマ大統領に関する見解を知りたくて仕方ない司会者は、「何か言ってなかったか」と質問するのだが、デニスは「奴は権力とか好きだ。オヤジがそうだったし。でも、最高にいい奴だよ」としみじみ語るのみ。司会者が呆れ気味に「20万人の政治犯や家族を、強制収容所に収容しているんですよ」と言うと、「いやいや、アメリカにもあるし」と仰天発言を放ち、司会者から「えっ? アメリカに強制収容所があるんですか?」と聞かれると、しどろもどろに「政治的なことは言いたくない」とコメント。「金正恩を、かばいっぱなしですね」と言われると、「人間レベルの付き合いをして、友達になったから。オレに対してはいい奴なんだ。彼を弁護しているわけじゃないよ」「アメリカだって似たような国じゃねぇか。クリントンだって、秘書とセックスしても罪に問われず権力持ってんじゃねぇか」「友達としては、いい奴なんだよ」と言い続けた。
「友達ですか。じゃ、また北朝鮮に会いに行くんですか?」と聞かれ、「あぁ、もっといろんなことを知るために、戻るぜ」というデニスの言葉を聞き、司会者は「次に訪問される前に、ぜひこの人権問題に関する報告書を読んでください。本日は、お越しいただいてありがとうございました」と、これ以上聞いても無駄だという表情で言った。かなりきつい発言をした司会者に対し、デニスは報告書を手に取り、「ありがとよ。オレを嫌わないでくれよな」とキメの指さしをした。
その後、北朝鮮に2度訪問し3つのドキュメンタリーを制作したため、現在は入国拒否されている『VICE』の創設者でジャーナリストのシェーン・スミスが登場し、今回のデニスの訪問は北朝鮮のプロパガンダ的な宣伝ではないことを強調。「デニスとの対話が、北朝鮮とアメリカの何らかのダイアログになった可能性はあるのではないか」と言うにとどまった。
ベトナム帰還兵だった父親に捨てられ、テキサスで最も治安の悪いスラム街で育ったデニスは、プロバスケ選手を目指すも身長が低く、高校卒業後は空港警備員に就職。空港敷地内に寝泊まりするホームレスのような生活を送ったことがある。その後、急激に身長が伸び、妹の強い勧めで大学に進学。友人の支えもあり25歳で念願だったNBAプレイヤーとなった。天才的なプレーと奇抜な言動で注目を集めた彼は、引退後もハリウッドやプロレス界に進出。11年に殿堂入りも果たしており、まさしく波瀾万丈な人生を歩んできた。
NBA入団が夢だったとも伝えられている金正恩とデニスの間に、一体どのような友情が芽生えたのだろうか。デニスの北朝鮮訪問を追った『VICE』のドキュメンタリー・エピソードの仕上がりが、とても気になるところである。