「婦人公論」に射した、笑福亭仁鶴のラブラブ夫婦対談という希望の光
今号の特集は「人づきあいで苦労するひと、楽しめる人」。冒頭では作家・阿川佐和子が「相手の心をゆるめるアガワ流会話術 世界中の人と仲良くなる必要はないのだから」と題し、対談で鍛えた“聞く力”の極意を語っています。「リズムよく相づちを/話をうながす『オウム返し』/自分のペースを押しつけない/視線は逸らさず、見つめ過ぎず」というのが“アガワ流、聞き方のポイント”だそうです。ふ~ん。内容とは関係ないのですが、本文中にも「アガワって○○じゃない? と言われる」など度々登場するこの“アガワ”というカタカナ表記。適度な親しみやすさ、適度なぶっちゃけ、適度な若づくり……この“アガワ”表記には、この方の万年お嬢さん体質が表現されているんですね。特に目新しさもないインタビュー内容ですが、「可もなく不可もないことを適度なユーモアを交えて話す=アガワ流」ということはよくわかりました。それでは今号のラインナップから!
<トピックス>
◎人づきあいで苦労するひと、楽しめる人
◎粗末な対応はしない これが私たちの身上です 笑福亭仁鶴×岡本隆子
◎上野千鶴子のニッポンが変わる、女が変える
■悲しくこだまするおちまさとのアドバイス
世界中の人と仲良くなる必要はなくても、半径5mの人と濃密な関係を強いられがちなのが「婦人公論」世代。ご近所、職場、PTAなどで適度な距離感を保つにはどうしたらいいのか。「対人関係の悩みにお答えします」では漫画家・エッセイストの柴門ふみ、プロデューサーのおちまさとが回答者となり、読者のトラブルにアドバイスを寄せています。相談内容は「義父母との関係に口出ししてくる近所の住人」「パート先のボスになぜかいじめられる」「PTA仲間が協力してくれない!」など、警察沙汰、生死に関わるなどの大事件ではありませんが、じわじわと心を侵食しそうな相談事4件。
このような人生相談は、相談内容よりも回答者の自意識や立ち位置が垣間見えて面白かったりツラかったりするのですが、おちまさと氏の「オレらしいこと言いたい」病もなかなか。「PTA仲間が協力してくれない」で悩む主婦には、「もし僕の周囲にこういうタイプの人がいたら『あなたはよくやってる』と励まして、もっとがんばって働いてもらいます(笑)。PTA仲間が評価してくれないなら、フェイスブックのようなSNSに投稿してみてはどうですか。『私はこんなにがんばっています』と全世界に向けて発信すれば、きっと同じような立場の人が『いいね!』と言ってくれるはず」という半笑い感漂う回答。
「万引き疑惑を当事者の親に注意すべき?」という相談には、「僕は失敗の許されない大きなプロジェクトに取りかかるとき、まず最初に『やってはいけないリスト』を書き出します。この部門に予算のすべてを注ぎ込むのはダメ、この人を怒らせたらおしまいだ、などなど。すると冷静になって、自分が今やるべきことが明確になってくるのです」と、自身お得意の仕事術を登場させてはみたものの、まったくもってハマらず。回答の端々に、感じるんですよ。PTAや子どものことなど“些末なことに悩む主婦たち”に対する小さな侮蔑が。おちさんには、柴門ふみ先生の締めの言葉「だいたい、人って、相手の話を真剣に聞いちゃいないんですよ。世間の人が自分の言うことやることを、いちいち気にかけていると思うのは自意識過剰」をお贈りしたいと思います。
■これが結婚43年目のチーム力
“変われない男という生き物を、女性が大海のような広い心で包み込むことこそが夫婦仲改善の秘訣”ということがあちこちで語られている昨今、正直「どうしてそこまで女がしなくちゃいけないのか……」という思いが拭い去れないのですが、今号の「粗末な対応はしない これが私たちの身上です 笑福亭仁鶴×岡本隆子」には夫婦関係に対する1つのヒント――夫婦という一番身近な“よそ様”とうまくつきあう秘訣がココにありました。
登場するのは笑福亭仁鶴師匠と妻・岡本隆子さん。結婚したのは隆子さんが吉本新喜劇に入団してまもなく。今でも「おニィさん」「タカちゃん」と呼び合う2人は“吉本一のおしどり夫婦”と呼ばれているのだとか。しかし学校の先生と生徒しかり、純然たる上下関係の中で夫婦になると結婚後もその役割をお互いに押し付け合いそうな気がするのですが、お2人はそれがいい方向に向いているのが羨ましいところ。
仁鶴「僕は母親を7歳の時に亡くしてたんやけど、花嫁衣裳を着たタカちゃんを見た時、雰囲気が母親に似ているなあと」
隆子「そうなの? はよ言うてくれたら逃げたのに。だって『母親に似てる』なんて言われても、女としては、諸手を挙げて喜ばれへんわ」
仁鶴「そうかいな。母親は家族のために生きた人でね。その肉体的、精神的な重圧が母の寿命を縮めてしまったかな、という思いが僕にはある。だから、女性に“お母さん”という役割を押しつけてはいかん、健康で朗らかに暮らしてほしい、と願っているんです」
このくだりだけでも、夫婦がお互いを思い合っているのがよくわかります。「タカちゃんはすごい。素晴らしい」を連発する仁鶴師匠に、「おニィさんは真面目で、この年齢になっても俗っぽさや、あざとさがない。そこを汚したらあかんと思って、ガードマンをしてきたところはあるわ」「とにかくおニィさんにはいい仕事をしてほしいし、無菌状態でいてほしいから、人づきあいや雑事は全部私が処理してきた。だからもともは私も純朴だったのに、だんだん人が悪くなってきたわ。あっはっは」と笑う隆子さん。
役割を押しつけ合うのではなく、それぞれの特性を生かして支え合う。その根底にある「好き」という気持ち。偶然とタイミングで結ばれた大人の男女が一緒に暮らすわけですから、何かしらのルールは必ず必要になる。それがお二人の場合は「粗末な対応はしないこと」なのでしょう。「だれの稼ぎで食わせてもらってる」系モラハラ夫や、「男っていつまでたっても男子だから」系お子ちゃま願望夫、そしてそんな夫を「話が通じない生き物」と自己暗示かける妻……「粗末な対応はしないこと」は、すれ違いがちな夫婦の気持ちをグイっと向き合わせるルールですね。
紹介しきれませんでしたが、不定期連載「上野千鶴子のニッポンが変わる、女が変える」今号のゲストは横浜市長の林文子氏。待機児童ゼロに向けた取り組みから女性リーダー論まで熱く語り合っています。学者の世界からフェミニズムを論じてきた上野先生と、現場叩き上げの林氏。意見のすれ違いに注視しながら読むのもなかなか興味深いですよ。「お言葉ですが、女性はこれまでそうやって相手の気持ちを汲んで、身を引いてやってきました。それではリーダーにはなれません(上野)」「上野さん、違います。身を引いていくんじゃないんです。相手の立場を考え、そして褒める。存在を褒めたら、男の人は信頼してきます。絶対潰しにかかってこない(林)」。男と女も、ヨソとウチも、120%の正解などないのだから、それぞれ一番いいやり方を模索するしかなさそうです……。
(西澤千央)