粋な70代男子のロマンは、「古民家を改造して蕎麦屋を開業」なのか?
「宍戸錠の自宅全焼」というニュースに、さりげなくビックリしていたのも束の間、今度は「かんだやぶそばで火災発生」だそうである。やっぱり、なんとなくビックリ。別に、池波正太郎よろしく、この店で粋に蕎麦なんて食った事もないのだが、「焼けた」とか聞くと、何故か「へぇぇぇっっ!?」という気分になってしまうのは、一体何なのだろう。この火事で、133年もの長い間、継ぎ足し継ぎ足し使ってきた、そばつゆの材料となる秘伝の「かえし」というタレも、全て失ってしまったそうで……なんていうか、諸行無常を感じざるを得ない。4代目の店主が涙をこらえながらテレビで謝罪してた姿は、なんだか本当に気の毒だった。
ところでこの、やぶそばの「火災現場からのリポート」映像は、ちょっと印象深いものがあった。というのも、「いやぁ、残念だねぇ」と、インタビューに答えてた人たちが、皆揃って、「60代とか70代を超えてそうな中高年男性」ばかりだったのだ。要するに「ジジイばっか」という事である。かんだやぶそばの客層って、一体どんなふうだったのだろう? 「やぶそばで女子会」とか、あまり想像つかないし、やはり、圧倒的に「ジジイ率」が高かったのでは? と、思ってしまう。それもなんとなく、「孤独を愛する系」みたいな、そんな、渋くて粋な70代男子とかが多そうである。「蕎麦・日本酒・板わさ」が織りなす世界では、どうしても「ジジイが圧倒的に一人勝ち」のような気がする。20代とか30代の男がコレをやっても、まだまだサマにならないというか。政治の世界じゃ「しじゅうごじゅうは鼻タレ小僧」と言うらしいけど、蕎麦の世界にも似たようなものを感じる。年齢を重ねるにつれて滲み出てくる渋み、深み……アブラっ気が抜けてスルメのように、旨味だけが凝縮されたような、そんな味わい深い男……そんな男に蕎麦が似合う……か、どうかは知らないが、そういう背景を感じさせるせいだろうか? トシをとると、男は「蕎麦に走る」ような気がする。
定年退職したおじさんが、やたらと蕎麦を打ちたがるのは何故か。以前から、ずーっと不思議だった。やはり、蕎麦は「男のロマン」なのだろうか。テレ朝で土曜の夕方にやってる番組『人生の楽園』。あの番組には、悠々自適に、好きな事に打ち込む中高年夫婦が毎回登場しているが、やはり、なにげに目につくのが「退職後に蕎麦に走った亭主」である。「古民家を改造して蕎麦屋を開業」という中高年男子の多さにビックリする。何故、蕎麦なのか? うどんじゃダメなのか? と、こんな風に書いたら「2位じゃダメなんでしょうか!?」と問い詰めていた蓮舫を思い出してしまったが、とにかく私はそんな風に思ってしまう。うどんじゃダメなんでしょうか!? ……ダメなんだろうな。うどんのあの、白くてツルッとムッチリなまめかしい感じが、あまり男らしくないんだろうな。それに、そもそもこの「うどん」って言葉の響きがもう、なんだか「男の渋さ・深さ・鋭さ」からかけ離れてるような気がするし。
ところで、私の中で「うどん」といえば「マンモス西」。やはりどうしても思い出してしまうのは、『あしたのジョー』の、あのシーンだ。減量中にもかかわらず、空腹に絶えかねたマンモス西が、ついこっそり食べてしまったのが「うどん」。コソコソとうどんを食ってる所をジョーに見つかって、思いっきり殴られて鼻からうどんを飛び出させていたマンモス西……。もしこれが、鼻から飛び出ていたのが「蕎麦」だったら、ここまで後世に残るほどの、悲哀に満ちた名物シーンにはなってなかったのではないだろうか? やはり、うどんからは、蕎麦のような「ストイックさ」がどうしても感じられない。腹をすかせたマンモス西を誘惑した、あの「ほっこりとした包容力とあったかさ」が、うどんの魅力じゃないだろうか。そう考えると、やはり「蕎麦は男性的」「うどんは女性的」という気がしてくる。
……しかし何故だろう? そうは言っても「退職後に、うどんを打ち始めました」なんてオバさんは、あまり見た事がない。どうやら女には「麺類」に走る傾向がないようである。どちらかといえば「天然酵母パン」とか「無農薬野菜」等に魅力を感じるようだ。『人生の楽園』に出てたオバさんたちは、自分で作ったそれらの食材を提供するカフェだの民宿を開いて、「素敵なおもてなし」に第二の人生を見出してるようだった。「パンとか野菜なんて私にはムリよ!!」というオバさんたちは、アクリルたわしだの、刺繍、ピエロなどの人形作成、いわゆる「おかんアート道」を爆走するみたいだが。
「蕎麦派の男」と「うどん派の男」、どっちがいいかと聞かれたら、これはちょっと迷うところだ。蕎麦男は、なんだか「男の美学とか語り出しそうで少々やっかい」な風に見えてしまうし、うどん男は……「悪くはないんだけど、なんだか危険な感じがしないからつまんなそう」とか、勝手なイメージがふくらんでしまう。なので。その間をとって、私は「ラーメン派の男がいい」という事にしておく。(そうめん派、パスタ派、やきそば派、色んな男がいるかもしれませんが、貴女はどんな男がお好みでしょう?)