「edu」の夫婦仲特集の結論:夫はクレーマーだと思えばいい!!
今月の「edu」(小学館)は「夫抜き子育てで大丈夫? 夫婦仲で決まる! 子どもの学力・自立力」。これまた生真面目「edu」ママをヒィィと言わせそうな特集です。さらにリードには「子育てでもっとも大切なのは、ママがいつも笑顔でいること」と昨今の子育て雑誌に必ず登場する、呪いのセリフ“笑顔のおかあさん”の文字が刻まれています。さらに「両親の仲がよい家庭の子どもは『学力』が高い傾向にあるそう」「子どもがスムーズに『自立』する力もまた、夫婦のあり方に関わってきます」など、そうでなくても不安でいっぱいのお母さんたちをリードだけでじりじりと土俵際に追い込む「edu」の横綱相撲が展開されております。きっとカリスマ先生たちがいっぱい出てきて経験と実績に裏打ちされたイイ話をたっぷりするはず。そして「edu」ママたちは「いい子が育つ羽毛布団」を買わされちゃうのです!
<トピックス>
◎夫婦仲と子どもの学力は比例します
◎夫婦仲があやしくなると、「モノ」が増え、家が散らかりはじめます
◎「私ひとりで子育てしている」と思ったことはありませんか?
■「男は追う生き物だ」論理、いつまで通用すると思ってる?
トップバッターに登場するのは、安定の花まる学習会・高濱正伸先生。あの『夫は犬だと思えばいい。』(集英社)で教育(ママ)界に一大センセーショナルを巻き起こしたお方です。先生も「夫婦仲と子どもの学力は比例します」と断言。「夫婦仲のよい家庭で育った子は、『根拠のない自信』を抱きながら成長できる。だから自分の人生に対しても前向きになれます」ということです。先生のおっしゃる「夫は犬。」論法は、かいつまんで言えば「男と女はまったく別の生き物。男とはもともと忠誠心が強く、家族のために一生懸命働きたい生き物だから、男の特色を生かせるように妻たちよもっと大人になれ」。
「edu」でも「お父さんの忠誠心をじょうずに引き出すことができるのは、一枚上手のお母さんだけなのですから」と、一見ヨイショに見せかけた過酷な要求をしてきます。例えば「ただ、いきなり『もっと子どものことを考えてよ!』と、妻側の価値観だけを訴えても、夫からいい反応は返ってきません。(中略)たとえば『エデュー』のこの特集を、夫の目につきやすい場所に置いてみましょう。そして、『何これ?』と気が付いたら、『何でもない』と、ササッと隠してください。これだけで、夫は興味津々。妻の姿が見えなくなったとたん、探し出してでも読もうとするでしょう。正攻法で来られると、逃げたくなる。それが夫の心理なのです」……。なんなんですか、超めんどくさいんですけど!! 何度も言うようですが、真面目な「edu」ママはやりますよ。食卓の上にこのページを開いて、夫という獲物が食いつくのを何時間でも息を殺して待っちゃいますよ。世のお父さん方こそここはひとつ一枚上手になり、何も言わずにこのデッカイ釣り針に喰いついていただきたいですね。
■「一緒に片づける」という提案がないのがまた……
続いては「夫婦仲があやしくなると、『モノ』が増え、家が散らかりはじめます」というこれまた衝撃的タイトルのページ。家は人を表すと言いますが、夫婦仲まで分わかってしまうとは驚きです。“幸せ住空間セラピスト”という、よくわからないフルコンボの肩書を持つ古堅純子氏が、快適な住空間と夫婦関係について語っています。
今まで数多くの“捨てられない”家庭を見てきたという古堅氏。依頼主たちの精神的な原因をカウンセリングから紐解いていくと「夫に対する不満が隠れていた」というケースが結構多いのだとか。「そういうお宅は、部屋に入った途端、ピンときます。まず共通していえるのが、『夫の気配が感じられない』という点」。子どもや母親のモノは溢れ返っているのに、夫の持ち物は極端に少ない。もしくは部屋の片隅でホコリをかぶっていたり、ぞんざいな扱いを受けていたりするそうです。
古堅氏によると「私は子どものことで手一杯だから」「夫は手伝ってくれないし」など、家が散らかることを「自分以外の家族のせい」と正当化してしまう傾向にあるのが、片づけられないオンナたち。しかしこの辺りから古堅氏の“幸せ住空間セラピスト”っぷりが暴走。「私がこうしてささやなかながらもたくさんの幸せを感じながら暮らせるのは、間違いなく家族のお陰、大黒柱を務める夫の支えがあったからこそ、なんですよね」「『ご主人が働いたお金で、ここに暮らしているんでしょ?』そんな気づきに少しでも早く出会ってもらいたくて、依頼主のママたちには、ときには厳しく叱咤することもあります」
「日頃の感謝の気持ちをこめて家を片づけ、夫のモノも大切に扱ってください。それだけで、夫婦仲はぐんと好転します」と語る古堅氏。やはりここでもがんばらなければいけないのは母親、妻、オンナ。どうしてそのお母さんが夫のモノだけ大事にしたくないのか。そこに至る紆余曲折を“幸せ”という刀でバッサリ断ち切ってしまっては、またすぐ元の木阿弥では……。どうやら夫婦仲というのは、どちらかがうっとりの魔法にかからない限り、好転することはないようです。
■「夫=クレーマー」という恐怖の図式
仲良し夫婦が子どもの成長に大きく影響すると言いながら、その変化を一方的に妻たちのがんばりに求める「edu」の夫婦仲特集。ラストを飾るのは、家族心理士・平木典子氏の「『私ひとりで子育てしている』と思ったことはありませんか?」です。リードにも「子どもを健全に育てるには、夫婦の連合が不可欠」とありますから、今度こそ「夫婦」での変化を促してほしいところ。
まず「あなたはこんなときどうしていますか? 子どもは両親の姿から学びます」と題して、さまざまなケースにおける妻たちの反応をタイプ別に考察しています。例えば「いつも遅い夫が連絡なしに帰宅、夕食の用意が遅いと文句を!」という夫に対し、1.言いたいことをがまんして、丸くおさめようとする、2.夫が折れるまで自分の主張を押し通す、3.自分の気持ちを伝えて、夫の言い分も受け止める、さああなたはどのタイプ?……あれ? どうやら「そもそも作らない」という項目はないようですね。「夫が自分の夕食を買って帰ってくる」もありません。それだけでも「edu」読者たちの夫婦仲は結構イイのではないでしょうか。
ちなみにこのケースの模範解答は「連絡をしてくれると予定が立つから助かるわ」だそう。昭和のホームドラマに出てくるお母さんのセリフみたいです。「帰りが早くて、びっくりした」という気持ちをまずは伝え、「予定がわからなかったから、ほかの用事をしていた」という状況や事実を話す。その上で「予定が立たないと、十分な対応ができない」ことを夫にわかってもらう。これって、お客様クレーム対応のマニュアルでは……。
同じように「子どもの話をしたいのに『あとにしてくれ』という夫」には「愚痴なんだけど聞いてくれる?」と前置きを、「夫は家事を手伝うどころか、自分の服も脱ぎっぱなし」に対しては「部屋が片づいて、きれいになるとうれしい」とお願いを……これこそ“夫は犬だと思えばいい”ならぬ“夫はクレーマーだと思えばいい”じゃないですか。予想はしていましたが「edu」の夫婦仲特集、策を講じるあまり、かえって夫婦の溝が深まりかねない危険な臭いがします。「いつも笑顔のお母さん」という非実在人物をめざして、「edu」母の逡巡は続きます。
(西澤千央)