急拡大の街コンビジネス、成功の鍵は男女の「言い訳」にあり?
出会い&婚活のためのキラーコンテンツとして、2012年に大ブレイクした“街コン”。その中に、ネクストステージを感じさせる亜種、その名も“エンタメコン”なるものが登場し話題を呼んでいる。手がけるのは、映画監督、役者、脚本家などから構成され、人気バラエティ番組『逃走中』シリーズ(フジテレビ系)への参加や、遊園地・豊島園で約3000人を集めた体感型捜査ゲーム『サイコパス』など数々の体感型ゲームを仕掛けるPKシアターの総合プロデューサー伊藤秀隆氏。すでに飽和状態ともいえる街コンに参入する意図は? そもそも街コン自体の人気は今後も続くのか? 話を伺った。
――まずは、エンタメコンを思いついたきっかけを教えてください。
伊藤秀隆氏(以下、伊藤) 街コンが一気に盛り上がり始めた去年の夏に、僕も街コンに参加してみたんですが、初対面の相手と話すことが意外と難しいと感じました。「どこから来たの?」みたいな表面的な会話で止まってしまい、あまり盛り上がっていないテーブルもちらほらありました。それで、僕らがやっている“体感ゲーム”を使ったら、もっと盛り上がるんじゃないかと思いついた。去年の9月の『バイオハザード×謎解きコン』を皮切りに、今までに15回くらいエンタメコンを開催してきました。
――街コンには何が欠けていたんでしょうか。
伊藤 会場に放り出して、「はい、あとはご自由に」というのでは、シャイな日本人が恋人を見つけるのは難しい。どうすれば、もっと盛り上がるのか。思うに、異性との距離が最も近づくのは、共通体験を持つこと、特に協力して目的を達成した瞬間なんです。エンタメコンではその要素を濃く取り入れた。毎回コンセプトも設定も変えていますが、例えば、最近開催した『JUDGEMENT』は、男女全員がベネチアンマスクをつけて謎解きゲームをする中で、恋人を見つけるイベント。ハラハラ・ドキドキ、まるでテレビのようなバラエティ感も重視しています。具体的には、異性を1人加えた3人グループ(男2人+女1人、女2人+男1人)で行動し、1ゲームが終わるごとに、どちらがパートナーに相応しいか、数が少ない方の異性にジャッジされる。逆に次のステージでは、自分も異性をふるいにかけます。ラストに、ゲームを通じて最終的に気に入った異性を投票し、マッチングしたらカップル成立ですが、ほかのタイミングでも司会者が、「せっかくなので携帯番号、交換してはどうですか?」と援護射撃します。
――すでに飽和状態ともいえる街コンですが、エンタメコンが勝算を感じている部分はありますか?
伊藤 あらゆる場面で、“言い訳”ができる点でしょうね。例えば女性に、参加理由をアンケートすると、すごく面白い。決して「出会いを求めて参加」ではなく、「ゲームが好きで」「バイオハザードに惹かれたから」の項目にチェックされるんです。なのに、更に質問していくと、同じ人が「ゲームのことなんてよく知らない」と回答していて、矛盾が出てくる。要は、男性に対して前のめりになっていると思われたくない女性が、うまく「ゲーム」を建前に出会いの機会を得ることができるんですね。男性と距離を縮めるにしても、「私はあなたを恋人対象としてじゃなく、ゲームのパートナーとして見ているの」、仮にパートナーに選ばれなくても、「私の女性的魅力ではなく、ゲームの戦闘能力が劣るからだ」と言い訳ができます。その後、恋の発展がなくても「今日はゲームを楽しみに来たんだ」と自分の中で納得できる。
――言い訳を、至るところに仕掛けているんですね。エンタメコンは「男女の出会い」を演出するサービスとも感じられます。
伊藤 普通の街コンとの一番の違いは、参加者をゲームの世界観に案内するところ。司会者はじめ、うちのイベントスタッフはみんな舞台の役者なので、お客様に対してキャラクターで接することができ、世界観を強固なものにできるんです。例えるなら、ディズニーランド。一歩、夢の世界に足を踏み入れれば、恥ずかしがってる方が、恥ずかしいでしょ? みんな「ここでは弾けていいんだ!」と、解放されるみたい。
――ところで、今や街コン自体は毎週、日本のどこかの街で開かれているほどブームですが、今後も続くとお考えですか?
伊藤 街コンは、舞台が青山なのか、下町なのか、街のブランド力によって参加者数に差がついてきていますよね。街ならではの特徴や、企画自体のコンセプトで特色を出せないものは、淘汰されていくかもしれません。
――そんな中で、エンタメコンの立ち位置は?
伊藤 今はネットゲームやSNSも大人気ですよね。ネットでの関係も楽しいけれど、やはりリアルで出会いたい気持ちもあると思います。そこを叶えてあげることがエンタメコンの役割だと考えてます。日本にはアメリカのようなパーティー文化もないし、直接異性を褒めることもあまりしませんよね。だからイベントのシナリオを考える上では、できるだけ、異性のいいところを見つけ、口に出して褒められる場面を仕掛けています。たとえ恋人が見つからなくても、コミュニケーション能力や、恋愛力がアップするのでは。ひいてはエンタメコンによって、日本の恋愛事情が活性化すればいいなと。
――今後、未婚者以外の層へのアプローチなど考えていますか?
伊藤 シニア層が孫と一緒に参加できる『ウォーキング×体感型ゲーム』のような、ターゲットを絞った企画や、『大人の缶蹴り』みたいなものを企てたいですね。実際にシニア層向けイベント含め、他企業からもエンタメコンと組みたいというお話をいただいているので、未婚者以外にもアプローチしていきたいと思っています。
――最後に、女性が、エンタメコンで必勝する方法を教えてください。
伊藤 何より大切なことは、本来の目的を見失わないこと。たまに、いるんですよ。「ゲームしにきた」という言い訳の方が、いつしか本音になっちゃう方が。特に男性は、そんな時、素が出ますからね。女性はすかさずチェックです。
(取材・文=城リユア)
伊藤秀隆(いとう・ひでたか)
映画監督・舞台演出。1977年5月8日生まれ。文化庁在外芸術家研修員としてUSC南カリフォルニア大学映画学部で映画製作を学ぶ。桐谷美玲主演の劇場用映画『音楽人』、人気バラエティ番組『逃走中』シリーズ(フジテレビ系)のなど数多くの映像作品のディレクターを務める。2008年より劇団PKシアターを結成。「演劇に興味のない高校生が楽しめる作品」をテーマに、年1回のペースで公演。12年、映画・演劇の経験をもとにアメリカ時代に体験した観客参加型エンターテインメントをスタート。主なタイトルに、体感型学園RPG『ゆるゆり♪♪ 探してサマー大作戦』や、東京ドームシティアトラクションズ『ただのファンで終わるか、アイドルのヒーローになれるか? アイドルワンダーランド2012』など。
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