カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「AneCan」2013年3月号

「AneCan」の“ずるかわ”特集、ずるさが怖さを呼ぶ“ずるこわ”に!

2013/02/18 21:00
「AneCan」2013年3月号(小学館)

 先月号のレビューで、「AneCan」読者が女子会に効率化を求めている、という静かな変化をお伝えしました。「AneCan」読者は「効率化」「コストパフォーマンス」などの合理的な言葉を使うタイプじゃないと思っていたのでビックリしたのですが、今月も至る所に変化が見て取れます。

 例えば、「『サプライス!』ブランドで、なりきり! ミランダ! アレクサ! オリビアに!」というページは、その名のとおりZARAやTOPSHOPなどのリーズナブルなお値段のブランドで、ミランダ・カー、アレクサ・チャン、オリビア・パレルモになりきろうという企画。今まで「遠くのセレブより、近くのエビちゃん」を信条に、男ウケしない海外セレブのコーディネートにはまったく見向きもせず、そのジャンルは「ViVi」(講談社)に任せていたというのに、どういう風の吹きまわし? しかーし、よく見てみると“なりきりコーデ”にもほころびが……。容姿もファッションも日本人ウケしやすいミランダ・カーはさておき、アレクサやオリビアはバリバリなモードなので、ところどころにエッヂ(人はそれを辛口と言う)を効かせたコーデがお得意。一般ピーポーには「それってオシャレなの?」というギリギリのラインを攻めることが彼女たちの個性でもあります。が、「AneCan」の手にかかると、肝心かなめのエッヂが削り取られ、「AneCan」の甘いテイストに変換されています。海外セレブのコーデを歪曲してまで取り入れたいのか……という疑問を持つなんてまだ甘い! 今月号の「AneCan」、いろいろ飛ばしてますよ。

<トピック>
◎会う人が違うと、こんなに服が違うんです! 女子会は「攻め」、デートは「守り」
◎写真うつりは絶対ずるいほうがいい!
◎独身も、妻も、ママも。みんな、それぞれのHAPPYライフ

■女子会が重宝される理由がここにあった!

 今月号の大特集は「かわいくなるずるい方法100」。まずはじめに、「会う人が違うと、こんなに服が違うんです! 女子会は『攻め』、デートは『守り』!」を見てみましょう。今年の春は、派手柄や色ものが流行だそうで、誌面にもそれらのアイテムが溢れています。がしかし、「AneCan」読者の最大の“クライアント”である結婚相手の有望株としての“彼”は柄物・派手色を嫌がる。なのでデートの時は無難服、気が許せる女子会では攻めの服と、会う人によってコーデをがらりと変えましょう、というのがこの企画の趣旨。その二枚舌が「ずるかわ」ってことなんでしょう。

 デート服コーデのページには、無難服を推奨する男性の声も掲載されているのですが、それが最高に気持ち悪い。「シャツからのぞくVゾーンの吸収力にはあらがえません」「ゆるニットの肩からキャミがチラ見えした瞬間100%落ちる」「ウエスト~ヒップの美ラインは女の子の専売特許! すてきなレストランにエスコートしたくなります」と、安いAVみたいな男の夢を語っています。男のエロ願望を叶えるために好きな服を封印してまで着たくもない服を着て……とイライラしてしまう淑女のみなさんも多いかと思いますが、これでも「AneCan」の中ではだいぶ前進したはず。

 “女子会”という言葉が生まれる前は、「AneCan」読者のような男性依存タイプは「自分たちの手で男性が介在しない世界を作る」なんて夢にも見なかったし、着たい服もあきらめていたはず。読者の1人も、「派手柄は彼ウケしないし、オフィスでは浮くから女子会限定。トレンドを気兼ねなく楽しめて、おしゃれをわかってもらえるのも女子会だけ」と女子会がいい“逃げ場”になっていることを明かしています。会う人によってコーデを変えるというのは、小さな第一歩なのです。ゆくゆくは「AneCan」読者には、逃げ場を利用しつつも、“クライアント”との交渉術を身につけてほしいですね。“言いなり”になるだけがクライアントとの付き合いじゃないし、結婚前にクライアントとサプライヤーの関係を解消しておかないと、どんな未来が待っているのか……その答えは奇しくも今月号にあったのです。

■リアルな「ずるい」を喚起しちゃった

 「ずるかわ」特集でもう1つ気になったのは、「写真うつりは絶対ずるいほうがいい!」です。リードには、

「ブログやSNSにアップされた写真で『このコ誰?』って話題になること、よくありますよね。写真越しに出会う人の数は今や∞。写真うつりはいいにこしたことはないんです。いやもう、それは、21世紀に生きる女子の必須スキルなのかもしれません」

 と激アツな文章が載っています。あまりに熱すぎて「ネットに自分の顔を載せるって怖くない?」とか「アップされた写真で『このコ誰?』って話題になることは、ありません!!」とか「結局、愛されたい願望がSNSを通して肥大化しただけなんじゃ?」などの反論の余地を与えないほどです。

 読者から寄せられたテクニックを見てみると、「大ぶりピアスで小顔効果!」「ウエストマークワンピースでくびれ美人に見える!」なんてのはまだ子どもだまし、“女子会の中で使えるずるいワザ”として、「みんなとポーズを被らせないでさりげなく目立つ!」「隣の人の肩に手をのせると少し隠れて誰よりもスリムに!」「最も後ろのポジションキープで誰よりも小顔に」と、常に出し抜くことしか考えていません!!! ええ~~、女子会は逃げ場じゃなかったの? 女子会に精神的な癒やしを求めつつ、でも誰よりもかわいくありたいなんて、怖いわ。ずるこわ!

 ほかにも、タッチした部分がスリムになる携帯電話のカメラアプリを紹介したり、髪型やメーク術まで指南。じゃあ、そこまで努力してなにが還元されるのかというと、「友人経由であるアパレルの企画担当の方から『おしゃれな方なので、お話したい』と連絡が。共通の友人も含めてお食事に行ったり、特別なセールなどにもお招きいただけるようになりました」とは読者モデル。うーん、一見するとシンデレラストーリーなんですが、やっぱりしょぼい……しょぼすぎるわ。しかも、そんなしょぼいご褒美こそ、「なんであのコばっかり」と嫉妬の種となって、周囲の人々にリアルな方の「ずるくない?」という感情を抱かせそう。“ずるかわ”が“ずるこわ”になる瞬間はココですね!

 今月号の読み物ページには「独身も、妻も、ママも。みんな、それぞれのHAPPYライフ」という企画があります。超端的にまとめますと、独身は「30越えて周りからのプレッシャーが強いから結婚した方がいんだろうけど、不自由に耐える覚悟がない」、妻は「子どもを産むタイミングがわからないし、本当にほしいかどうかもわからない」、ママは「夫とのケンカは、営業先のクライアントのクレーム対応だと思ってひたすら聞く」ということで、どこをどう見て「HAPPYライフ」というタイトルをつけようと思ったんだろう、と不思議に思う内容でした。ママたちの嘆きを読んで、「AneCan」読者が“クライアント”対策を本気で講じることを願わずにはいられないのですが、だいたいのカップルは「私たちは、こうはならないもん!」と思っているんですよね。それもこれも、「結婚こそが女の幸せのゴール」と喧伝し、結婚とは何なのかを考えてこなかった女性誌の負の遺産があるからこそ。この価値観から脱却するには、まだまだ時間がかかりそうです。
(小島かほり)

最終更新:2013/03/28 17:52
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