ゴリゴリにとがった自己顕示欲を隠す、「リンネル」の“ほっこり”白アイテム
「ふわっとやさしい暮らし&おしゃれマガジン!」というキャッチコピーでナチュラル系女子に支持されている「リンネル」3月号(宝島社)が、女性誌速攻レビューに初登場です。「ふわっとやさしい暮らし」というフレーズそのものがふわっとしてよくわからないのですが、欲しくもないトートバッグが付録として付いてくるなんて、地球にはちっともやさしくない雑誌です。いったい宝島社は世の女子にいくつトートバッグやポーチを押し売りすれば気が済むのでしょうか。モッタイナイての!
今月の表紙は宮崎あおい。不倫疑惑&離婚騒動を経て、いい意味でオンナくさくなった彼女ですが、「リンネル」フィルターにかけるといまだ処女のような雰囲気です。純白、清純、無垢。これは比喩ではありません。実際グラビアを見ると、あおいちゃんの面積よりも余白面積が圧倒的に多く、結果、いろんなモノが薄まって白く見えてしまうというマジックにかかっています。つーか、いくらなんでも余白が多すぎです。メモ帳が作れます。モッタイナイての!
あおいちゃんは、忙しくてもハッピーでいられる秘訣について「好きなことをして、好きなものを食べて、好きな人たちと一緒に過ごして。私は嘘がつけないので、好きじゃないと顔に出てしまう」と語ります。元夫に愛想が尽きて顔に出ちゃった時の状況を想像するだに恐ろしいのですが、そんなほの暗い部分など光で飛ばして見事に白~くクリーンにしてしまう「リンネル」、恐るべしですよ。
<トピック>
◎おしゃれに欠かせない私たちの「定番」選びました
◎女子たちのNew shop & New project
◎日々のルール、私の場合
■目指すところは白スーツの帝王E.YAZAWA
特集は、「おしゃれに欠かせない私たちの『定番』選びました」と題して、“長く愛していけるお墨付きのものをセレクト”しています。「定番」と銘打っているだけあり、ボーダーカットソーだの膝丈ギャザスカートだの、特に目新しさもトレンドもへったくれもありません。それはいいとして、この特集とそれに続くほかのファッションページに至るまで、白アイテムの登場率の高さが異常です! ワンピ、スカート、パンツ、トートバッグ、シューズ、スニーカー、シャツ、ニット、サロペット、各アイテムにいちいち白をかませてきます。白・白・ボーダー・紺・白・白・ボーダー・ベージュの無限ループ! ホワイト地獄!!
庶民のみなさんならお気づきでしょうが、白いアイテムは長く愛せば愛すほど、いつの間にか黄色か茶色に変わります。そのあたりどうお考えなのか問いつめたい思いにかられ、震えながらページをめくっていたら、「私のスタンダードアイテム」というコーナーで、クリエイティブディレクターのワキリエさんがこうおっしゃっていました。
「汚れることに慎重になるのもイヤなので、あまり値段の高い白いものは買いません」
そうなんですね、ホッとしました。と言いつつワキリエさんはお帽子からコートからグローブトロッターに至るまで白のコーディネートというホワイト上級者なので、とても庶民が真似できるレベルではありませんが……。
■やっぱり精神的にも永ちゃんっぽい
とにかくグラビアからファッションから、すべてに白をかませてくることによって、「リンネル」は清く正しく無垢なイメージを漂わせています。キャッチフレーズの「ふわっとやさしい」とは、つまりこういうことなんでしょう。しかし、「ふわっとやさしい暮らし」の「暮らし」がいまいち見えてきません。「リンネル」は他の女性誌に比べて、読者の年齢や属性(学生、OL、ママなど)が曖昧です。オーソドックスなファッションから見るに、学生が読んでいても、主婦が読んでいても不思議はないのです。いったいどういう暮らしをしているのでしょうか。
その答えが、「女子たちのNew shop & New project」、および「日々のルール、私の場合」という企画ページにありました。まず、「女子たちのNew shop & New project」では、「ファッションやジュエリー、食の分野など、自分の好きなことを形にして、ブランドやショップを立ち上げる女性たちが増加中」と説明し、「増加中」の女性たちの中から、帽子デザイナー、ファッションデザイナー、ジュエリーデザイナー、おにぎりユニットら10組の女性が出てきて、
「自分がいいと思うものを作り続けたのが、今の道につながったと思います」
「自分の感覚でプロダクトを作るようにやっています」
と、それぞれの経歴と仕事へのこだわりについて語っています。また、「日々のルール、私の場合」という企画では、文筆家、マクロビ企画代表、ショップ代表らが登場。
「いやなことはしない」
「スタッフは玄米の味で決める」
「人も自分の心も整理整頓」
「ペン一本とっても、どう置く(ディスプレイする)かを考える」
などと日頃大切にしている細かいルールを語っています。ああ、ゴールはここなんですね! 「リンネル」のゴールは、“代表”なんです。すなわち「プレジデント」(プレジデント社)とメンタリティは同じ。しかも、やさしくておしゃれなプレジデントです。強烈な自己顕示欲と強い精神力が土台にないとできません。ふわっとした白いワンピは緩衝材です。中身はゴリゴリにとんがってます。
自己顕示欲や野心は、おそらく多くの女性が持っているものでしょう。しかし、能力不足や環境的な要因のせいで叶えることができず、無自覚のうちに夫や子どもに転嫁したり、ブランド品や美容医療といった別の形で消費したりする女性は少なくありません。むしろ「リンネル」のように、隠しているようで実は直球勝負というタイプは珍しいかも。「リンネル」読者、すっごい気になります。勝手に応援したくなりましたよ!
(亀井百合子)