美容家電・パナソニックのイオンドライヤーで“きれいなおねえさん”になれるのか?
薄型テレビをはじめ、軒並み家電製品の苦戦が伝えられる中、その勢いが止まらない家電製品がある。それは美容家電だ。その中でも不動の人気で女王と称されるているのが「イオンドライヤー」である。
何となく美容に良さそうな「イオン」という響き。森林浴を思わせるマイナスイオンがドライヤーからフワフワと溢れ出ていると思うだけで、髪が癒やされている気がする。忙しい日々の中で、バスタイムの後の自分へのご褒美としてマイナスイオンのシャワーを浴びたくなる気持ちはわからなくもない。
そんな癒やしを求める女子たちに現在ダントツの人気を誇るのが、パナソニックのヘアードライヤー「ナノケアEH-NA94」。各地の家電量販店の店頭に、「入荷待ち、申し訳ございません」の謝罪札が並ぶ羨望の品だ。同種の他社製品が真横で山積み在庫されているが、美容女子たちは見向きもしない。
そもそもドライヤーは女子にとって毎日自分の為に使う生活家電だ。商品は1万円前後で、欲しいと思ったら手が届き、スマホ等に比べてもお手頃感がある。そして、女子に「欲しい」と思わせるイメージとキャッチコピーがパナソニックはうまい。パナソニックが起用した歴代の美容家電のイメージキャラクター“きれいなおねえさん”は時代を代表する美女ばかり。「きれいなおねえさんは好きですか?」と男子に問いかけるような“きれおね”になろうと、パナソニック製品を買うことになる。
■実は大型ドライヤーとしては一般的?
しかし、パナソニックだけが優れた製品なのだろうか? 実際の製品のスペックから考えてみよう。
やはりなんといっても、ドライヤーは速乾性が高いほど使い勝手がいいとされている。では皆さんは、美容院等プロの現場で使われるドライヤーと、一般の家電店で売られているドライヤーの差がどこにあるか知っているだろうか? ワット数はほぼ同じなのに、何故かプロ用は早く乾く気がするのは気のせいではない。美容院のドライヤーは、けっこうな風量なのに音が静かなことに気がつくはずだ。これはズバリ、モーターの差。
多くのプロ用機種で、DCモーターという軽くて省電力&静かで大風量のモーターが使われているのが理由だ。ただDCモーターというのは、性能が良い分やたらと高い。業務用ドライヤーがイオン発生装置もついていないのに2万円前後もするのはそれが理由だ。1分でも早く客をさばきたい美容院なら早く乾くことは重要だが、一般女性にはあまり業務用はお勧めしない。
ではEH-NA94はどうだろう? 1,200W(TURBO時)という消費電力と1.3m3/min(TURBO時)という風量は、大型ドライヤーの中では特に目を見張る数字ではない。モーターの性能や騒音は一般的だ。となると、肝はやはりパナソニック自慢の「ナノイー」&ミネラルプラチナ発生装置の効果のほどだ。
■1,000円代のイオンドライヤーでも性能◎
メーカーの説明では「濡れた髪を乾かし、そこに空気中の水分を集めて補給する」ということになっている。それなら最初から乾かさなきゃ良いのでは? とも思うが、そう単純にはいかないらしい。効果をわかり易く説明すると、乾燥+潤いとは「エアコンをかけると乾燥するけど、同時に加湿器を置くと喉が痛くならない」という状況に近い。温風で乾燥させた上で適度な湿度を持たせる状態ということになる。この「喉が痛くならない」という状況を「髪が痛まない」と置き換えるとわかり易いかもしれない。
ただし、この潤い効果はマイナスイオン発生装置付きのドライヤーなら、どれも大差ない。しかも、EH-NA94を店頭で手に取ると、その巨大さと重量に驚くことになるだろう。
まるで金鎚のような存在感
美しいカラーとデザインにごまかされがちだが、セットノズルを加えると600g近くなる重量はヘビー級だ。これは小型のビデオカメラや一眼レフデジカメEOS Kiss X6iの重さにも等しい。普通の女子が5分間ビデオを構え続けることはかなりの重労働。しかも頭の上まで持ち上げてだ。毎朝毎晩これをやるとなるともはやダンベル体操だ。髪はキレイになっても二の腕はたくましくなるかもしれない。
同じく人気のテスコム「マイナスイオンヘアードライヤー TID510」は実情価格1,000円~と非常にお得感が高い。何より評価したいのは、EH-NA94と同等の強1,200Wのパワーながら385gという軽量さだ。身長150cm代の女性なら、こちらの方が快適に使えることは間違いないだろう。両機の差額約1万円が大きいこともいうまでもない。
■きれいなおねえさんは生まれるのか?
もう一度言うが人気のタブレットiPadでも重量は600g程度。自分が巨大なiPadで5分以上電話をかけている姿を想像してみてほしい。いくら高機能でも肥大化しすぎたドライヤーの存在を認めていると、いつか1キロをも超える高性能ドライヤーを買わされるはめになるかもしれない。
現在はコピーを「いそがしい人を、うつくしい人へ。」へと変え、朝の5分が惜しい“キレ気味のおねえさん”でも“きれいなおねえさん”になれますよと、パナソニックはきれおね需要の裾野を広げている。効果がコピー通りなら、近日中に日本はウクライナを超える世界一の美人国になるだろう。
一定の効果は認められるマイナスイオンドライヤーではあるが、ブランド以上に、店頭で自分に快適なサイズを見極めて選んでほしい。
近兼拓史(ちかかね・たくし)
元西宮エフエム放送代表取締役。米ハリウッドのインストラクターや、日米一流メーカーの商品開発アドバイザーも務める国際ジャーナリスト。NYとLAを拠点に、自身で世界を飛び回る取材には定評がある。著書に『80時間世界一周』(扶桑社)など