火野正平の“テキトー”というおおらかさが光る『にっぽん縦断 こころ旅』
今回ツッコませていただくのは、NHK-BSプレミアム『にっぽん縦断 こころ旅 2012“秋の旅”』。最初は「なぜ火野正平で、自転車の旅?」と人選を不思議に思っていたのに、いつの間にかド派手なニット帽と個性的な上着+ゆる~いワークパンツやサルエルパンツ姿の「季節労働者」を見るのが、楽しみになってしまっている。
この番組を見ていて、まず驚かされるのは、火野正平の「人気」ぶりだ。おばあちゃんやおばさん、おじさん、小学生までも、握手を求めてきたり、話しかけてくる。こんなにも一般人が気安く話しかけまくる芸能人って、美川憲一ぐらいしか見たことがない気がする。
それに対する対応のユルさも見事で、時にはおばあさんに握手を求められ、「俺と握手すると、妊娠しちゃうよ」なんてギャグをぶちかます火野正平。にもかかわらず、相手はさらに上手で、「妊娠したいわ。あ~っはっはっ」なんて豪快な返しを浴びせられたりしている。
「なんでこんなおサルのようなオッサンがモテるのか」という積年の疑問も、こうしたやりとりを見るうちに、いつの間にか「このおおらかな性格のせいなのかもなぁ」などと思えてきて、勝手な分析により、モテるのも納得に変わりつつある。もしや、すでにファンなのか? そんな「人並み外れたおおらかさ」が、存分に発揮されたのは、例えば、「人違い」の場面だった。
握手を求めてきたおばさんに、「いつも『日本横断』見てますよ、堺正章さん」と言われた火野正平。普通だったら、多少はムッとするなり、そうでなくとも少し引きつってしまうなり、ツッコむなりしそうなものなのに、本人は表情も変えず楽しそうに「ハイ、堺正章です」と返答し、握手していた。「こう見えて実は傷ついていたりして……」なんて心配も無用で、この「オイシイ出来事」はその後、彼の持ちネタになったらしく、自ら「堺正章です!」と騙っている時もあった。
笑いはまた、別の笑いを生み、それに対するおばさんのツッコミが、また絶妙だった。
「声が正平さんだわー。『夜明けの停車場』(を歌っていた)」
これに対し、火野正平はカメラに向かってニヤリとし、小さくツッコミを入れる。
「それは石橋正次……(笑)」
さらに、スタッフに火野正平のニット帽や衣装を着せて電車に乗り込ませ、勘違いしたおばさんたちに話しかけられるスタッフを尻目に、自分は1人ゆったりと窓の外の風景を眺めていた時もあった。
握手を求めてくるおばさんたちは、「堺正章さん」と呼んだり、「グループサウンズにいた頃からファン」と言ったり、はるかに若いスタッフを火野正平だと思い込んで話しかけたりと、なんともおおらかな記憶力を発揮。しかし、それに対して嫌な顔ひとつせず、さらにテキトーに返す火野正平のおおらかさは、実に日本人離れしていると思う。
終始「テキトー」を貫けるという火野正平のおおらかさ・優しさに、ついつい「勉強になるなぁ」と真面目に感心してしまうのも、やっぱり真面目な日本人の性なのかもしれない。
(田幸和歌子)