『おーすとりっぷ』の恥ずかしくなるほどの「上質で特別」感の演出
<おーすとりっぷ>。
番組表でこの字面を見て、一瞬我が目を疑った。おーすとりっぷ……?? 堂々としたエロ番組か何かと思った、「OH、ストリップ!!」的な。先にいってしまえば、この『おーすとりっぷ』は名前オチだったわけだが、12月9日放送の『おーすとりっぷ』(TBS系)をチェックしてみた。
♪シャンランラン~とかいう、ほのぼのした感じのBGMに乗って、30代ぐらいの夫婦らしき爽やかな男女が登場。そこに、「2人きりで、旅をしよう」という、しっとりした雰囲気の男性ナレーションがかぶる。続けて、
「行き先は、オーストラリア。君を笑顔にしてくれる場所へ」(ナレーション)
そして、
「オーストラリア政府観光局の提供でお送り致します」
政府観光局提供の番組なのか。そう。“オーストラリア”と“トリップ”、これを合わせて「おーすとりっぷ」。そういうわけだ。『世界の車窓から』(テレビ朝日系)をオーストラリアに限定させたような5分のミニ番組で、今回はシドニー郊外のボンダイ・ビーチを紹介していた。そういう番組なので、大体のつくりは想像がつくのだが、冒頭の夫婦がビーチ周辺を散策し、時折「わぁ~」とか「すごい」とか感想を漏らす。そして、オープニングと同じ、しっとりしたナレーションの声が、本編の随所に流れてくる。
「そうだ、今日は君のために、とっておきの海へ行こう」
「これはすごいねぇ」
「君の顔にも笑顔が浮かぶ」
「さあ、水上タクシーで街へ」
なぜ、どこか語りかけ口調なのか。なんだかちょっと恥ずかしく、懐かしの『ハートカクテル』(日本テレビ系)的オシャレ世界を思い出してしまう。そんなところへ、番組最後にテロップで、「篠原かほり」「篠原卓也」という役名(出演者名も)、そして「卓也の声」という表記が流れた。ああ、語り口調なのは、『ぶらり途中下車の旅』(日本テレビ系)みたいな、「おやおや『卓也』さん」的な第三者視点ではなく、「卓也」さん本人視点、モノローグ的なナレーションだったわけか。
番組HPを見てみると、こんな感じに内容が紹介されていた。
<そんなオーストラリアで過ごす“上質な時間” “リフレッシュ” をテーマ、大人の旅を提案します>
<結婚10周年の記念にオーストラリアの旅を選んだ夫婦、“妻の笑顔を見るために夫がプロデュースした特別な旅”として描いていきます>
(原文ママ)
なるほど、「上質」だったり「特別」だったりするのか。しかし、やっぱりタイトルはこれでよかったのだろうか。「オーストラリア」+「トリップ」という発想はわかるが、自分のようにヘンなところで区切ってしまう者もいる。「オージートリップ」じゃいけなかったのか。しかも、「おーすとりっぷ」という田舎の喫茶店かスナックみたいな、ひらがな表記が、その奇妙さに拍車をかけている気がする。
それにしても、会議で真面目に『おーすとりっぷ』と番組名を決めている光景を思うと、ちょっと楽しくなってくる。そこにオーストラリア政府観光局の人も交えていたりすると、なおいい感じだ。ナレーションの挿入感も含めて、このセンスは天然なのか確信犯なのか。もし確信犯だったら、すごい敗北感だ。何に負けるのかはよくわからないが。
(太田サトル)