大久保佳代子、『アナザースカイ』のお約束演出を逆手に遊ぶ
『アナザースカイ』(日本テレビ系)は、タレント、俳優、モデルなどが海外に赴き、その街の空気に包まれながら人生を語る、ちょっとカッコいい紀行トーク番組だ。
11月23日放送回で旅したのは、オアシズ・大久保佳代子。行き先は、インド。旅のダイジェスト映像が流れ、<ずっと内に秘めた思い><初めて明かす意外な過去><笑いを生業とする女の宿命、そして生き様とは?>というテロップが付く。直球でカッコいいのにふざけてる感満載だ。当然、MCの今田耕司は失笑するわけだが、当の大久保さんは、
「何か問題とか発生してます?」
と、しれっとした顔をしている。そして、
「届いてませんか、耳に。大久保さんが最近綺麗になったよ、みたいな情報」
と、ふてぶてしく言う。つい、「腹立つわぁ~」とか思っちゃう大久保さんワールドが、のっけから全開だ。ロケVTRでも、この大久保さんの「腹立つわぁ~」ワールドは存分に発揮されているのだが、要所要所で独り語りをする時に、ヘンな間を置いていることを指摘されると、
「『アナザースカイ』感というのを、大事にしてこうと思って」
と、答える。かつてフットボールアワーの後藤輝基が出演した時には、番組のスタイリッシュさに合わせようとするもののちょっとダサいというミスマッチ感が笑いになっていたが、大久保さんの場合は、自ら攻めてきている。それだけに、
「ちょっとだけコント入れんのやめてくれへん?」
と、今田に釘をさされていた。ちょっとスローで再生される大久保さんの表情に、
<大久保佳代子 1971年愛知県生まれ><憧れの人 ビートたけし><魚が水がないと生きていけない様に、恋してないと生きていけない>
というテロップが流れ、「単独ライブでやるやつやぞ」「ウケ狙いやんか」と、今田にツッコまれる。面白いけど、もう、「都内のインドレストランでやれ」と言われそうな悪ふざけだ。
大久保さんの、番組を小馬鹿にしたような、「腹立つ」世界は続く。やたらビールを飲んでいることに対して、
「中山美穂さん位のホロ酔い加減が一番かわいいって知ってるから」
と、以前同番組に中山美穂が出演した際のホロ酔い加減がかわいかったことを引き合いに出してきた。中山美穂にとったら巻き込まれ事故だ。
タージ・マハルでも、大久保さん言うところの「アナザースカイ感」あふれる“語り”コーナーが始まった。
「女芸人って彼氏ができる、結婚するとつまんなくなるって、すごく世間的に言われてて」
「結婚したいし好きな人欲しいし好きな人に愛されたいし、っていう願望が強い時期なのは確か……うん……」
などなど、ひとしきり「腹立つ」語りをしておいて、
「中山美穂さん、結構語ってたよね?」
再び中山美穂、巻き込まれ事故。そして、
「語った方がいいのかなと思って語ってる」
番組のためによかれと思って語ってるんだと主張する。まあ、お約束だしな。お約束を次々と遊ぶ大久保さん。ガンジス川で沐浴し、いよいよ語っちゃってくださいという場面だ。インドに行くと人生観が変わるとよくいわれる。しかし、大久保さんもそうなのかと問われると、
「……変わんない」
そうですよね。お約束を次々壊していく大久保さん。イタリアで「『おいしい』通り越して『おいD』やで」と発言し、失笑されていた後藤の回も大概だったが、こんな笑いの要素だらけの番組だったっけ? 『情熱大陸』(TBS系)や『ソロモン流』(テレビ東京)ではできない作りかもしれない。でも、今田は大久保さんにこう最後に言っていた。
「……二度と来ないでください」
面白かったということですね。
(太田サトル)