最小限で「美味しさ」を引き出す『孤独のグルメ』と、蛇足だらけの『花のズボラ飯』
今回ツッコませていただくのは、放送中の2つのドラマ『孤独のグルメ Season2』(テレビ東京)と『花のズボラ飯』(TBS系)。どちらも久住昌之原作の「グルメ」マンガの実写化だが、両者の視聴者からの評価は見事なまでに分かれてしまっている。
まずは『孤独のグルメ』。
主演の松重豊は、原作マンガの絵柄にはまったく似ておらず、原作よりだいぶ強面にもかかわらず、久住の世界観にこれ以上ないほどピタリとハマッている。淡々とした語りと、最小限に抑えられた表情の変化の中には、抑えきれない「美味しさ」への歓喜や興奮が溢れ出ている。大袈裟なリアクションは一切なく、微妙な表情の変化と、静かながらも饒舌な心の言葉だけで、こんなにも美味しそうに見えるのだから不思議だ。極限まで余計なものをそぎ落としていくことで、「料理」がクローズアップされ、味覚・嗅覚・食感などが生々しく伝わってくるのだろうか。
実は同作品は、2010年にドラマ化の話があったようだ。久住氏ご本人が「『K独のグルメ』のテレビドラマ化の話が来たが、主演が長嶋一茂ということなので、丁重にお断りする。長嶋一茂は嫌いではありませんが、ちょっと。」とTwitterでつぶやいたことが当時話題になっていたこともあった。
その際にネットで挙がった主演候補は、「高倉健」「中井貴一」「役所広司」などだったけれど、おそらく松重豊ほどのクオリティにはならなかったに違いない。ただし、唯一惜しいのは、毎回ドラマ本編の後に、原作者ご本人が登場してしゃべるところ。ユルユルした感じを出したいのかもしれないが、松重豊の静かな後ろ姿を映すドラマ本編で終わり、文字だけでお店の情報を入れるなどの方が、断然美しいと思うのだけど。
一方で、「蛇足」だらけなのが、『花のズボラ飯』だ。キャスティングを聞いた時には、倉科カナは似合いそうだと思っていたが、やたらカラフルでポップな「汚部屋」に目がいってしまい、どうにも料理が色あせてしまう。オマケに、湯気のCGを足したり、「実況解説」なんてのが出てきたりと、余計なもののてんこ盛りだ。料理モノの表現は難しいもので、マンガにおいても、細かく丁寧に描き込んだ上に「うまいゾ」とキャラに言わせてみても、なぜか脳味噌にしか見えない『クッキングパパ』(講談社)みたいな例もあれば、単に白い物体がグニ~ッと伸びるだけでたまらなく美味しいチーズに見える宮崎駿アニメみたいな例もある。
今回のドラマ2作品においても同様に、「いかに余分なものを削ぎ落とすか」が素材を生かすか殺すかの分かれ目になったのだろうか。せめて『花のズボラ飯』が、『孤独のグルメ』とまったく別の時期に放送されていたら、残念感はやや薄まったかもしれないのに……と思えてならない。
(田幸和歌子)