“妊娠中でもヒールが履きたい”内田恭子に集約された、「Grazia」の精神
今月号の「Grazia」(講談社)、冒頭から濃厚なトピックで恐縮ですが、『女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)の著者としておなじみの宋美玄氏監修の「女医が本音で『女のカラダ』」を見てみましょう。「巷にはびこる勘違いの数々。“ご都合主義的自然志向”にご注意を!」とあるように、女性の体にまつわる都市伝説レベルのウワサや疑問を検証しています。
「卵巣年齢を若返らせることはできますか?」「産み分けはできるのでしょうか?」といった高齢出産にまつわる相談から、「布ナプキンって、カラダにいいの?」という疑問まで細かに答えています。確かに「Grazia」読者を含む30代には、「布ナプキン讃美」「自然出産至上主義」「アンチピル」など女性のカラダを神聖視するあまりに極端な行動に出る人が多いですし、それらの人を作ってきたのはメディアでもあるので、ニュートラルな情報を提示するのはいいことだと思います。
筆者が衝撃だったのは、陰部のニオイが気になる原因の多くはアンダーヘアだということ。「においが気になる人はもう剃っちゃってもいいと思います。下着をつけていなかった大昔は、保温の役割もあったのでしょうが、今は処理しても特に問題はありません」と、理論的に語ってもらってスッキリ。アンダーヘアの存在こそが、自然志向だったのですね!! 下着をはかないというナチュラリストにはなれませんので、もうムッシャムッシャ剃りたいと思います!
<トピック>
◎女医が本音で「女のカラダ」
◎内田恭子「生まれる命と、まだ見ぬ私に」
◎「夫の心を読む」講座
■ママでいたいけど、ママに見られたくないという複雑さ
今月号の表紙&インタビューは、フリーアナウンサーの内田恭子です。このインタビュー、某大手掲示板では発売日から話題になっていました。問題視されたのは、以下の内田の発言です。
「最初の妊娠のときから、マタニティを着ないで過ごせるかというのが課題。ヒールを履いてキレイな格好をするのはやっぱり気分がいいですから。生まれてから1歳ぐらいまでも、抱っこしながらヒールを履いていました。きつかったですが、そのほうが自分は楽しい。ここだけは譲りたくない、手を抜きたくないっていうのが、あるんですよね」
内田は来年頭に第二子出産を控える、現役妊婦。今回の撮影でもヒールを履き、ブログでもヒール姿の写真を掲載しています。妊婦がヒールを履いていいのか否かについては、長年の論争の過程やジェンダー的な問題がありますので別の機会に譲るとして、筆者が気になったのは内田の発言が「Grazia」を覆う価値観を集約していることです。
かなり乱暴なまとめ方をすると、「精神的よりどころは“母である自分”にもかかわらず、外見的な基準は未産婦でありたい」という考え。内田もインタビューで「私自身、子どもによって成長させられている」と語るなど、母としての幸せを甘受しています。「Grazia」も「うちの子の一言」という企画や「産後の職場復帰」企画など、母としての喜びや葛藤を取り上げるページを作っています。でも、誌面のほとんどが、野暮ったくない、子持ちと見られたくないと心を砕くファッションページなんです。もちろん、ビジネス的な展望があるんでしょうけれど。
「STORY」「美ST」(光文社)の“現役感”とは毛色の違う、「未産婦に見られたい」という願望。それは、「Grazia」読者が他人と接する機会が多いワーキングマザーだからという安易な原因ではないと思うんです。老いることへの畏怖なのか、「ママ」というイメージへの抗いなのか、なんだかんだで女としての商品価値を現状維持したいのか。来月号の大特集は「『実は子どもがいるんです』という素敵な人」です。ここのその答えがあるのでしょうか。
■DaiGO……それは死に通ずる道
今月号では巷で人気のメンタリストDaiGOが、「『夫の心を読む』講座」に登場。前半は夫のウソを見破る方法を書いていますが、後半はケースごとに“夫をどうやって操るか”テクニックを読者に伝授しています。
例えば、夫が機嫌悪く帰ってくるのが億劫だというお悩みへの回答は、「条件付け」。「例えば機嫌がいいとき、決まったグラスでビールを出しておく。機嫌が悪いと感じた瞬間にも、この『ご機嫌な日のグラス』を出せば、いい気分を思い出して笑顔が戻ることも」ってマジか! 機嫌が悪い時にグラスなんかいちいち見ちゃいないよ! というように、ほかの設問に対する答えもピントがいまいちぼやけているような……。
出不精の夫を新しいレストランに連れていきたいという悩みにも、「誘い文句にレストランに対するポジティブな単語を織り交ぜ、その言葉だけ声の大小やトーン、話すスピードを変える」という高レベルな技術を要求。その前に「レストランに対するポジティブな単語」自体が思いつかないんですけど!
一番怖かったのは、「職場にちょっと気になる年下の男性がいます。でも、どうやら夫が私の言動を不審に思っている様子。疑いを上手に晴らして、もめ事を避けたいのですが……」という悩みへの答え。まずは「ここで必要なのは疑いを晴らすことではなく、そもそも“疑わせない”こと」と、もう「不審に思ってる」っていう事実を無視! 「怪しまれていると感じたら、しょんぼりとして見せ、『疑われているなんてすごくショック。信用されていないね』と涙ながらに訴える」という、涙という武器で攻め立てることを薦めています。そうすると、「『疑うと妻を泣かせる』と潜在意識に刷り込まれ、結果、疑うという行為自体を避けるように」だそうです。確かにもめ事は回避できそうですが、いろんなことがバレた時に、より重症化しそうな、いちかばちかの手練手管。DaiGOのメンタリズムのせいで、「ダイゴー(Die GO)」にならないことを願ってやみません。
「Grazia」の想定読者であるワーキングマザーであれ専業主婦であれ、実は既婚女性の多くが悩んでいるだろう、夫との関係。その証拠に、投稿サイトや某掲示板でも、毎日入れ替わり立ち替わり多くの女性が、「うちの夫は子育てに無関心!」「最大の敵は姑より夫!」「離婚したいが、先立つものがない!」と、せっせと悩みを書きこんでいます。結婚した途端に、お互い所有意識を持ってしまったり、新たな血縁者という他人が出現したり、紙切れ一枚の関係に付随する現実は、想像以上に複雑。そのわりに、夫婦関係を主に扱っているメディアはほとんどないんですよね。恋愛・結婚、出産のようにお金が動かないから、広告主がつかないし。せいぜい既婚者向け女性誌のワンコーナーがいいところです。だからといって、“グラスを見せて、機嫌いい時を思い出させろ”とか“浮気を疑われたら、泣いてごまかせ”っていうのはあんまりだ……と思いました。
(小島かほり)