「MORE」“27歳・彼氏なし”女子が陥る、妄想と現実の間のブラックホール
今月の表紙は「嵐」。これは「MORE」お約束の半期に一度のサービス企画。5人そろったインタビューもバッチリ掲載されてますので、ファンの方はどうぞナマ唾ゴックンでご覧ください。ちなみに今回のテーマは「ぼくらの家へようこそ」です。
「MORE」のインタビューページは、それはもうあっぱれなほど、タレントさんのパブリックイメージそのままに再現されます。今号の嵐のページも、メンバーの部屋が再現されているのですが、「二宮和也の部屋=殺風景な中に鹿の首」「相葉雅紀=ウクレレとバスケットボール」「松本潤=モノトーンにおしゃれドクロ」「櫻井翔=デスクに洋書」「大野智=キャンバスに描かれた魚の絵とビールケース」と一分の隙もありません。そして5人が集まって男子カレー……あぁ仲良きことは美しきかな。
これは嵐に限ったことではなく、「MORE」のインタビューに登場するタレントさんは男女問わず、この“妄想のゲージ”にガッチリと絡め取られます。もがけばもがくほど深みにはまる(=面白くなってしまう)恐ろしき「MORE」の妄想蟻地獄。これを老舗らしい安定感とみるのか、やりたい放題とみるのか、「MORE」は“妄想”と“現実”に高低差があり過ぎるので、今月はその辺りを入念にチェックしたいと思います。
<トピックス>
◎嵐 ぼくらの家へようこそ
◎もしも、綾瀬はるかが「恋するモアOL」だったら……!?
◎“27歳・彼氏なし”から脱出せよ!!
■「MORE」の欲望が詰まった4ページ
7月号の「綾瀬はるかちゃんがモアOLだったら」にて、まさかの「寝坊してパンかじりダッシュ女」を熱演し、業界を震撼させた綾瀬はるか。そんな問題企画が今号「もしも、綾瀬はるかが『恋するモアOL』だったら……!?」として帰ってきました! なんでも「今回は〈恋愛編〉として、モアハピ部員から大募集した共感度満点のさまざまなシチュエーションを、綾瀬さんに演じてもらいました!」とのこと。今何をしても許される綾瀬はるかという“ガワ”に、現代の秘密結社、モアハピ部(※「MORE」の読者ブロガー集団)のエピソードを詰め込むのですから、そりゃフツーで終わるはずはございません。「社内恋愛中のセンパイとオフィスで目が合った!『仕事帰りにごはんでもどう?』なんて誘ってくれないかな……」というキャッチにはボールペンを握りしめて口を尖らせる綾瀬はるか、「週末はカレに手料理を!オムライスに『大好き』って書こうとしたんだけど……たっぷりの愛情入りでーす」には、花柄エプロンでオムライス(はいはい「大好き」って書いてありますよ)を差し出す綾瀬はるか。
しかし、綾瀬はるかのコスプレを遥かにしのぐのは、モアハピ部から寄せられたぶっ飛びエピソードの数々。「憧れの先輩から『業務連絡:朝から頑張ってるのに全然目が合わない』というメールが!」「お気に入りのルームウェアにエプロンをつけた姿を見たら、もっと好きになってくれるかな、なーんて思ってみたり」「彼を招いたおうちごはんのある日、おいしく作ろうと切磋琢磨……頑張っていたら、『顔に小麦粉がついてるよ』って言われちゃった(笑)」などなど、思わず脈を取り、バイタルを確認したくなるような内容が並んでいました。
「キラキラ」や「ハッピー」という漠然とした教祖(「MORE」)の教えを、直属のモアハピ部隊が噛み砕き、具体的にアレンジして読者へと伝える役割を果たしているのですね。「MORE」の組織力の盤石さを目の当たりにしたと同時に、やはり今回も事故に巻き込まれた感の否めない綾瀬はるかに……幸あれ……。
■「まだ大丈夫だよ~」というフォロー待ち?
今日び女子小学生でも夢みないような、非現実的なラブエピソードに身も心も震えたその後は、「“27歳・彼氏なし”から脱出せよ!!」を見てみましょう。先ほどの「顔に小麦粉」から一転、ハッピーの泥沼でもがき苦しむ現実ページです。“27歳・彼氏なし”アンケートによると75%が「(すぐに/そのうち)彼氏が欲しい」、74%が「(絶対/できれば)結婚したい」と回答。「彼氏がいない理由」の1位は「出会いがない(54%)」、その後に「好きになりにくい(34%)」が続きます。
この企画のメインが“27歳・彼氏なし”女子が集う「恋の迷子座談会」。「出会いを求め合コンには一応参加している」「社交的な性格で男友達も多い」「元カレとの交際歴はなんと7年!」「忙しさにかまけて恋を後回しにしていた」などなど、さまざまなバックグラウンドを抱える恋の迷子たちが、自分の置かれている状況を分析しているのですが……。
「同年代の友達がどんどん結婚して、遊び相手が少なくなっていってる」「母の初産の年齢を超えてしまった」「母親から『女としての賞味期限がそろそろ切れるよ!』と(言われた)」「あ、30歳までのカウントダウンが始まった」など、なんとな~く焦りを感じている一方で、「土日はほとんど遊びの予定で埋まっていて寂しさはないし」「彼氏がいたらいたで、自分のペースが乱れるから相手にするのが面倒くさい」「昨年のクリスマスは、腐れ縁の男友達とはしゃいでました!」と、ひとり上手であることもさりげなくアピールしています。結局、「職場の男性から残業後の食事に誘われても、どこかで“私なんかが”と思っちゃって素直についていけない」「感覚として、恋愛するってどういうことだったかわからなくなっちゃった」「そもそも自分の好きなタイプをあまり考えたことがない」「こういう人はナシっていうタイプは具体的に挙げられるんだけど」など、恋に臆病な私がイケナイの……という着地点に。なんだそりゃ。
「MORE」では「“27歳・彼氏なし”に立ちはだかる3つの壁」として、「好きな人ができないの壁(ドキドキしない)」「恋の始め方を忘れたの壁(方法が分からない)」「後回しの壁(現実逃避)」を指摘していましたが、座談会を読む限りエベレスト級に高いと感じた壁は「自分の年齢を客観的に評価されたくない壁」及び「傷つきたくない壁」なのではないかと。焦るのも「周囲の人たちに色々言われるから」で、決して自分が「誰からも相手にされない」わけではないと懸命に訴えているように感じました。30代、40代の独身女性に比べたら、自分たちはまだまだイケてる。だけどあっという間にそうなってしまう不安もある。「27歳・彼氏ナシ、恋の迷子」と宣言する彼女たちの内心は、“優越感”と“かまって感”で千々に乱れているようです。しかしながら現実は、迷子に場内アナウンスをかけてくれるのも、一定の年齢まで。泣いてばかりの子猫ちゃんですと、さすがの犬のおまわりさんも困った挙げ句に見捨ててしまうというものです。
「彼氏がいない」を切り口に、27歳女性のさまざまな欲望や思惑が垣間見えて大変興味深かったこの企画。「ドキドキしない」という不確定かつ恣意的な事象を、「恋愛できない理由」に挙げるその裏には、傷つきたくないが故に無意識にドキドキ感を避けてきた処世術があるようにも思います。不満はないけど不安いっぱいのこの生活を変えてくれるのであれば、別に恋愛じゃなくてもいいのかもしれません。とりあえず「顔に小麦粉」(あまりに衝撃的だったため再登場)を「ドキドキラブ」とするならば、当分巨大迷路から抜け出せなくなっちゃうから要注意です!
(西澤千央)