朝ドラ『純と愛』、風間俊介の不気味で愛嬌ある“小さい兄さん”ぶり
今回ツッコませていただくのは、10月1日よりスタートしたNHKの朝ドラ『純と愛』。
夏菜演じるヒロイン・狩野純は、正義感が強く真っ直ぐで、周囲にぶつかりつつも夢に向かっていく、典型的朝ドラヒロインタイプ。一方、風間俊介演じる相手役・待田愛(いとし)は、「ある事情から、人の本性が見えてしまうようになった」ことで、できるだけ人の顔を見ないように俯いて暮らしてきたという異色の設定だ。
ただし、表層的な「顔」とは別の人間の本性=「ガチガチの鎧を着て傷ついている」姿が見えたり、「赤ん坊のように泣き喚いている」姿が見えたりするという描写は、かつて話題になった人気コミック『ホムンクルス』(山本英夫、小学館)そっくりのようではある。また、まるでホラーのようなBGMや映し方は、『家政婦のミタ』(日本テレビ系)や『女王の教室』(同)の脚本家・遊川和彦カラーが存分に発揮されている煽り方だと思う。
だが、2週間分を見た現時点では、やっぱりいちばん気になるのは、予想通り、あるいは予想以上に不気味で、異彩を放っている風間俊介の存在だ。
「人の本性が見える」つらさから、いつも俯いている猫背気味の姿勢と、おそらく目を覆うように長めにしている髪。そんな彼が「別の顔が見えない」唯一の人・ヒロイン純に興味を抱き、ストーカーのようにいつもあらゆる場所からヒロインを見ている。相手役が「最初は嫌な印象だったけど」とか「反発し合っているうちに恋に落ちる」というパターンはよくあるが、「ストーカーのようで不気味」というのは、朝ドラ史上初だ。
そもそも風間俊介といえば、『3年B組金八先生 第5シリーズ』(TBS系)で演じた、成績優秀&卑劣で暴力的な二面性を持つ“兼末健次郎”の演技が上手すぎ、イメージが強烈すぎたことから、以来、どうしても「犯人役」のイメージがついてしまっていた。
『それでも、生きてゆく』(フジテレビ系)で演じた殺人犯役の狂気も、実に恐ろしかった。それだけに、「朝ドラの相手役」に風間と聞いた瞬間には、驚きを感じた人も多かっただろうが、この役は実にハマッている。しかも、今回の不気味さには、狂気や悲しみではなく、キャラクター的な奇妙な愛嬌がある。というのも、ヒロインが映っている場面の後ろや脇の方など、さまざまな場所に隠れキャラのように風間演じる「愛」が微妙に映り込んでいるのだ。「目の錯覚?」と思う程度に、小さく物陰からのぞいている。
ヒロインが正義感から怒鳴ったり、わめいたり、空回りしている暑苦しい場面の隅に、小さく暗く映り込む「小さい兄さん」。いつの間にか目はヒロインではなく、物陰の「小さい兄さん」ばかりを探している。まるで「ウォーリーを探せ」ならぬ「愛(風間)を探せ」のように。
ヒロインの暴走を諌めるのではなく、あたたかく包み込むのでもなく、じっとり暗く見つめ、肝心なところで助けてくれる不思議な相手役。今は「愛を探せ」がこのドラマの最大かつ唯一の楽しみになってしまっているが、そんな彼が物陰から脱して、ヒロインと同じ表舞台に出てきてしまったら、どうなるのか。ささやかな不安とともに、見守っていきたい。
(田幸和歌子)