夫に対する不満解消への1つの回答、「婦人公論」スワッピング特集再び
今号の「婦人公論」(中央公論新社)は、大平光代×野田聖子対談「キャリアか、子育てか――『母は弱し』を実感しています」や、上野千鶴子×辛淑玉対談「差別に立ち向かう」など、女性同士の対談も実に興味深かったのですが、今回の女性誌レビューでは、男と女について考えてみたいと思います。というのも、「婦人公論」恒例のセックス企画「女もうるおう秋の“性活”習慣」が掲載されていたからです。その中身は「一人エッチで感度を上げる7日間ステップ」「女性の感性を刺激するロマンポルノ・ベスト10」「覆面座談会 妻たちこそが堪能できるスワッピングの魅力とは?」というラインナップになっております。では、さっそく見てみましょう。
<トピック>
◎特集「家族に振り回されない秘訣」
◎大平光代×野田聖子対談「キャリアか、子育てか――『母は弱し』を実感しています」
◎「女もうるおう秋の“性活”習慣」
■読者を置いて、いきなりレベルアップした感が……
「女もうるおう秋の“性活”習慣」企画内の「一人エッチで感度を上げる7日間ステップ」は、イラスト付きでアダルトグッズを紹介、体験した感想を掲載しています。筆者の記憶の中では、最近まで「婦人公論」センパイは、私たち新入部員に「うちらも一人エッチしようよ! 声出していこうよ!」とさわやかに呼びかけてくれていた気がするのですが、今号ではもう、基本はできて当たり前として話が進んでいます。「7日間ステップ」を始めて3日目には、舌がベロベロ動くような道具を使って「自分のクリトリスとじっくり向き合って、本当のオーガズムを追求してみて」ですからね。5日目には「『中でイク』を目指してGスポットを探求する!」ですよ。センパイったら、「オラオラ、もっと道具うまく使えよ、感度あげろよ!」といつの間にか鬼キャプテンに急変です!
ま、「一人エッチ」はこれまで幾度も取り上げてきたテーマですから、仕方ないといえば仕方ありません。付いてこない読者が悪いのです。大問題は、「妻たちこそが堪能できるスワッピングの魅力とは?」です!! タイトルには「試してみて損はない(!?)趣味です」という文言が添えられています。もはやスワッピング=趣味というところまで進んでる! スピード速ええっす、先輩。中身を読んでみると、カップル同士がパートナーを交換して性行為を行う狭義のスワッピングではなく、単独男性の参加者もいて男女の数が不均等で自由に交わることができる乱交パーティをそう呼んでいるようです。
覆面座談会に参加した女性たちはこう述べています。「夫もほかの女性と楽しんでいるのがわかると安心ですね」(44歳)、「私の今年の目標は『サンドイッチ・プレイ』を体験すること。前と後ろから攻められ、今まで経験したことのない快感に喘いでみたいです」(48歳)、「私は一人で、単独男性と付き合うこともあれば、複数プレイの場所に行く時もあります。夫はすべてを知っていて、いってらっしゃいと送り出してくれますよ」「お互いにセックスの自由を認めあう場がSW。一種の飲み会というか、ホームパーティですね」(54歳)。
実は、「婦人公論」ではつい2カ月前、8月7日号でもスワッピングをルポしています。しょちゅうグラビアが掲載される人気者の氷川きよしクンだって、そんなにショートスパンでは登場していないのに……スワッピングはきよしを超えてしまいました(涙)。これだけ短期間のうちに再度取り上げられたということは、下記の理由が考えられます。
1.編集部内でスワッピングが流行っている
2.編集長の趣味がスワッピングだ
3.前回のルポが読者から好評だった
(注意・可能性の低い順から書いております)
まあ、3でしょうけど! それにしても毎度「婦人公論」のセックス特集を読むと、「性について読者を啓蒙したいっ!」という意気込みはビンビン伝わってくるんですが、それが本当によりよい性生活に結びつくものなのか疑問が残ることが多々あります。今回も案の定、パートナー不在、己が気持ちよくなることだけに向かって突き進んだ企画でした。本当にそれでいいのかなあ。
■夫婦生活の理想と現実
巻頭特集は「家族に振り回されない秘訣」。主旨は、主婦の家庭内でのイライラの原因と解決方法なのですが、読者130人に「ストレスの元凶は誰?」と聞いたところ(複数回答可)、1位は夫で68人、2位は義母で38人、3位子ども35人、4位実母24人……となっていました。要するにストレスのほとんどは夫、ときどきそのオカンという結果です。いわく「ゲップするな&トイレの後、手を洗え&歯磨きしろ」(59歳)、「早くいなくなれ」(74歳)、「もう何十年もセックスレス」(47歳)。
こんな荒んだ読者の夫婦関係にせめてもの慰みを与えようとしているのか、今号は夫婦のあり方について考えさせるインタビューが多く掲載されていました。まず、特集内では松本伊代「感情にまかせて言葉をぶつけると、あとあとまでしこりが残るから」、野村沙知代「彼はお寿司、私はハンバーグ、外食は2軒はしごでいいじゃない」。特集外では、渡辺徹「心筋梗塞から生還して妻に頭が上がりません!!」、さかもと未明の夫婦対談「『女王』と『家来』の新婚生活が楽しくて」。渡辺徹はともかく、伊代の夫のヒロミは年収数億といわれるジム経営者、サッチー夫はご存知野村克也監督、さかもと未明の夫は病院院長。うらやましいかどうかは別にして、みなさん左うちわのご身分であることは間違ありません。
自分の夫にプンプンしながら、“なんちゃってセレブ妻”の夫婦愛インタビュー記事を読む。女性誌の中には女の理想と過酷な現実が常に隣り合わせに潜んでいます。「婦人公論」とて例外ではありません。女の自立に意識が高い読者であっても、現実には夫という“家族に振り回される”立場から抜け出せないでいる。せめて夫が金持ちなら我慢できるかもしれないのに……と、とりとめのない夢を見つつ、経済的に自立できなければ、性的に自立するしかないと発想を三段跳びに転換する。そう、羽ばたくんだ、ホップ、ステップ、スワップ! スワッピング企画は、特集に対する1つの回答なのだとわかりました。記事を読んで実行に移すかどうかは別として、「いつでも私は自由になれる」という切り札の1つにはなるわけです。
各女性誌のセックス特集をクロスして読むと、女の性欲がいかに変化していくかがわかります。「an・an」は、男を捕まえるためご奉仕メインの婚前セックス、「ひよこクラブ」や「I LOVE mama」は子づくり目的の家族セックス、そして、「婦人公論」は夫から自立するための巣立ちセックス。それぞれのセックスの裏には、性欲とは別の女の欲望が潜んでいることが透けて見えます。結婚、金、子ども、自由、みなさんはセックスによって何を得ることができましたか。幸せになれましたか。
(亀井百合子)