【エミー賞】アメリカの社会情勢とマッチした『HOMELAND』が総ナメ!
米国テレビ業界最大のイベント『第64回エミー賞授賞式』が9月23日、ロサンゼルスで開催され、受賞者・受賞作品が発表された。今年、ドラマ部門を総ナメしたのは、オバマ大統領お気に入りのサスペンスドラマ『HOMELAND』。コメディ部門を制覇したのは、3年続けて作品賞に輝いたドタバタコメディ『モダン・ファミリー』だった。
「世界で最もポピュラーなメディアであり、中国人が唯一コピーできないアメリカが誇る“テレビジョン”。そのテレビジョン最大の式典にようこそ」という司会進行役のジミー・キンメルの言葉でスタートした授賞式。本年度、最多ノミネートされた作品は『マッドメン』、ノミネートされた作品を最も多く持つ放送局はHBOであったが、ふたを開けてみると、話題をさらったのはShowtimeの『HOMELAND』であった。
■『HOMELAND』が華やかなデビューを果たしたドラマ部門
『HOMELAND』は、イラクでアルカイダに8年もの間捕虜として拘束され、特殊部隊により救助されたアメリカ海兵隊の小隊軍曹をめぐるサスペンスドラマ。内通者からアメリカ人捕虜がアルカイダのテロリストになったという情報を得ていたCIA女性作戦担当官は、この小隊軍曹がテロリストだと確信する。しかし連邦政府もCIAも彼を戦争のヒーローとして扱っているため、唯一信頼できる恩師の助けを得ながら彼をマークするようになる、といった物語。『24-TWENTY FOUR-』のクリエイター、アレックス・ガンサが手掛けるだけであって、最上級のサスペンスを味わえる本作品は銃撃戦のない『24』と表現されることが多い。『HOMELAND』は、エミー賞最高の栄誉とされるドラマ部門作品賞だけでなく、小隊軍曹役を演じるダミアン・ルイスが同主演男優賞、CIA女性作戦担当官役を演じるクレア・デインズが同主演女優賞、同脚本賞の主要4部門を獲得した。
昨年5月、CIAと特殊部隊の共同作戦によりオサマ・ビンラディンを仕留めたオバマ大統領は、新たに国防秘密工作局を創設するなど「秘密部隊」が大のお気に入り。そんな大統領が『HOMELAND』のことを、「一番好きなドラマ」だと公言するのは、ごく自然なことだといえよう。ジミーはオープニング・トークで、「オバマ大統領の一番好きな番組が『HOMELAND』だって、ご存じでしたか? 嫌だなぁって思いません? だって、大統領が見るべきドラマじゃないでしょう? なぜかって? チャーリー・シーンが『ブレイキング・バッド』(余命わずかだと知り、恐れという感覚がなくなった中年男が、ぶっとんだ犯罪に手を染めていく物語)を見るべきじゃないというのと同じ理由ですよ」と述べ、会場を大いに沸かせたが、『HOMELAND』はまさしく現代アメリカの社会情勢にぴったりとマッチしたドラマなのである。
ドラマ部門助演男優賞は、ジミーが「チャーリー・シーンが見るべきでない」と言った、ぶっとんだ元教師のオヤジが繰り広げるブラックユーモアたっぷりのドラマ『ブレイキング・バッド』で、教え子だったドラッグディーラー役を演じるアーロン・ポールが獲得。同助演女優賞は、1912年のイギリスを舞台に英国貴族が繰り広げる超ハイソなメロドラマ『ダウントン・アビー~貴族とメイドと相続人~』で、家の名声を守るためには手段を選ばない年老いた先代伯爵夫人役を演じるマギー・スミスが受賞した。監督賞には、禁酒時代のアメリカを、バイオレントに、ハードコアに描いたHBOのヒューマンドラマ『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』のティモシー・ヴァン・パタンが輝いた。
■コメディ部門は『モダン・ファミリー』の連覇
一方のコメディ部門だが、予想通り今年も『モダン・ファミリー』が制覇する結果となった。同作品は、娘ほど年の離れたコロンビア移民女性と再婚した初老の会社経営者ジェイの一家、「いい人だけど空回りばかり」な男と結婚し年頃の娘2人とネジが緩んだ小学生の息子を持つジェイの娘一家、感情的な“ぽっちゃりタイプ”のゲイと結婚しベトナムから迎えた幼女を育てるジェイの息子一家、この3家族の日常をモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー形式)で描く物語。コメディ部門作品賞は3年連続の受賞となった。
作品賞のほかにも、母性あふれる“ぽっちゃりタイプ”のゲイ役が当たり役となったエリック・ストーンストリートが、2010年に続き2度目のコメディ部門助演男優賞を獲得。よき母、よき妻でいようと毎日フル回転で奮闘するジェイの娘役を演じるジュリー・ボーウェンが2年連続でコメディ部門助演女優賞に輝いた。ほかにも監督賞を獲得しており、主要4部門を受賞した。
コメディ部門主演男優賞を獲得したのは、チャーリー・シーンがクビになり、これまで助演男優賞にノミネートされていたのに、今年いきなり主演男優賞候補へと昇格された『ハーパー★ボーイズ』のジョン・クライヤー。チャーリーの後釜であるアシュトン・カッチャーがノミネートされなかったことも驚きだったが、皆が彼のエントリーに戸惑いを見せる中、見事、賞を獲得。受賞スピーチをするジョンは完全に舞い上がってしまい、「何かの間違いだろう? 憧れの役者たちとノミネートに名を並べるだけですごいことなのに」とアタフタしていたのが印象的だった。
同主演女優賞は、「女性副大統領」という立場の哀愁漂う日常を描いドラマ『Veep』のジュリア・ルイス=ドレイファスが獲得。彼女は、『となりのサインフェルド』『The New Adventures of Old Christine』で同賞に輝いた華やかな経歴を持ち、米国テレビ芸術科学アカデミーのお気に入り喜劇女優だともいわれている。
同脚本賞には、人気スタンドアップ・コメディアンで、彼の日常をそのままコメディ化した『Louie』が大好評のルイス・C・Kが獲得。ちなみに彼は脚本だけでなく、主演、プロデュース、監督、演出、編集、全てをこなしており、脚本賞のほかに監督賞、主演男優賞にもノミネートされていた。
そして、コメディ部門のみに設けられたゲスト男優賞には、『ラリーのミッドライフ★クライシス』に登場したマイケル・J・フォックスが受賞。ゲスト女優賞は、『ハーパー★ボーイズ』にゲスト出演したキャシー・ベイツが受賞し、大物スター2人にトロフィーが贈られた。
■大物の受賞が相次ぐミニシリーズ/ムービー部門
リアリティ部門作品賞に輝いたのは、地球各地で出される課題に取り組みながらゴールタイムを競い合う『アメージング・レース』。監督賞に輝いたのは、ビートルズのジョージ・ハリスンの生涯をポール・マッカートニーらが語る音楽ドキュメンタリー『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』を手掛けたマーティン・スコセッシ監督、司会者賞には、有名人とプロダンサーが組み、本格的な社交ダンスで競い合う『アメリカン・ダンシングスター』のトム・バージェロンが獲得。
年々、注目度が上がっているミニシリーズ/ムービー部門には、今年も映画スターがずらりとノミネート。作品賞は、前大統領選で共和党副大統領候補となったサラ・ペイリンの3カ月間の選挙活動を追った『ゲーム・チェンジ 大統領選を駆け抜けた女』が獲得。脚本賞、監督賞にも輝き、サラにそっくりだったと話題になったジュリアン・ムーアは、同部門主演女優賞を受賞した。主演男優賞は、19世紀にウェストバージニア州とケンタッキー州に川を隔てて住んでいたハットフィールド家とマッコイ家の抗争を描いた再現テレビ映画『Hatfields&McCoys』で、ハットフィールド家の主を演じたケヴィン・コスナー。同作品に出演したトム・ベレンジャーも助演男優賞を受賞している。主演女優賞は、これまでにない革新的なホラーだと話題の『アメリカン・ホラー・ストーリー』のジェシカ・ラングが獲得した。
なお、第64回エミー賞授賞式の様子は、9月29日の夜8時からAXNにて放送されるので、興味のある方は、ぜひチェックしてみてもらいたい。