やっぱり家族もの? 米人気リアリティ番組のすごい内容
90年代後半からリアリティ番組ブームを迎えたアメリカのテレビ業界。低予算で一定の視聴率が稼げることから、現在も数多くの番組が放送されている。リアリティ番組のカメラは、出演者に密着し、彼らの目線で撮影を行う。そのため出演者の感情がダイレクトに伝わり、視聴者は感情投入しやすくなる。爆発的な人気を誇る『アメリカン・アイドル』『Xファクター』などのオーディション系も、ジャンルはリアリティ番組。出場者のバックグラウンドをドキュメンタリータッチで紹介し、甘口、辛口、さまざまな審査員のアドバイスで見る者の感情をわしづかみにして、高視聴率を獲得しているのだ。
今回は、数多くあるアメリカのリアリティ番組の中から、「今、アメリカで人気のリアリティ番組」を選出してみた。
■『Ghost Hunters』
タイトル通り、幽霊をハンティングするという番組。全米の幽霊屋敷に潜入し、幽霊や悪霊探知に使うEMFメーターを持ち込み、科学的に調べる。毎回、不気味な光が現れたり、腕にひっかき傷が現れる者がいたりと、ただならぬ雰囲気を漂わせ、たちまちヒット作となった。日本の心霊番組にありがちな霊を怖がるという作風ではなく、手作り感が漂う幽霊センサーグッズで霊に挑む、人間VS霊の手に汗握る戦いという作風。暗視カメラで撮影していることもあり、臨場感あふれる映像もたまらない。
ゴースト・ハンティングの場をアメリカ国外に広げたスピンオフ『Ghost Hunters International』、ゴースト・ハンターを育成する『Ghost Hunters Academy』も好評。人気ドラマ『スーパーナチュラル』で、『Ghost Hunters』に捧げるエピソードが制作されたこともあり、何かと話題を呼んでいる。
この手の心霊現象をテーマにした作品は、ほかにもいくつか制作されており、幽霊に遭遇したセレブが淡々と体験を語る『Celebrity Ghost Stories』、心霊現象をドキュメンタリー・タッチで紹介する『Paranormal Witness』、全米の高校や大学で起こった心霊現象を再現フィルムで紹介する『School Spirits』など、どれも高い人気を得ている。
過去に大ブレイクしたものの現在は若干落ち目のセレブたちが、一定期間、妻を交換して生活を送るという『Celebrity Wife Swap』。もともと一般人のみで制作されていたものを、セレブ版にバージョンアップした番組。一般人とはいえ、役者志願者が多かったり、仕込みっぽい感もあったのだが、各家庭にそれぞれの常識や価値観があるということがはっきりわかり、一定の人気を得た。
今年1月に放送された『Celebrity Wife Swap』も大きな話題を呼び、全米のリアリティ番組フリークの興味を引き付け絶好調。『愉快なシーバー家』で長女キャロラインを演じていたトレイシー・ゴールド、トゥイステッド・シスターのヴォーカルとして人気を集めたディー・スナイダー、肥満体に悩まされているウィルソン・フィリップスのカーニー・ウィルソン、多重人格という設定のプロレスラーだったミック・フォーリーら懐かしいセレブが、配偶者と共に出演。セレブの天然ぶりが発揮される番組として人気を集めた。放送局もご機嫌で、すぐにシーズン2制作・放送を決定している。
映画『沈黙』シリーズでスターの座を得た、無敵の男スティーヴン・セガール。武道の達人である彼は、80年代後半にルイジアナ州ジェファーソン郡の保安官から「保安官代理たちにマーシャルアーツなどを伝授してほしい」と依頼され、指導員として警察と関わりを持つようになった。その功績が認められ、すぐに同郡予備保安官代理に就任。保安官代理は警察官と同じく逮捕権を持ち、制服を着て銃を持ち、パトカーに乗る。スティーヴンは20年以上、俳優業の合間に保安官代理としてパトロールをしてきたのである。
保安官代理をひけらかしたくなかったスティーヴンは、長年このことを語らなかった。しかし、ハリケーン・カトリーナの後、「この地で奮闘している保安官代理たちの姿を見てほしい」と気持ちが募り、2009年に保安官代理の仕事をする彼をカメラが追う、リアリティ番組『実録!スティーヴン・セガール警察24時!』が放送されることとなったのだ。
番組は、パートナーにハッパをかけながら真剣な表情で犯人を追うスティーヴン、息を切らせながら犯人を追いつめるアグレッシブなスティーヴン、193センチと長身で恰幅のよいスティーヴンにビビる犯人、スティーヴンだと気が付きさらにビビる犯人など、臨場感あふれる映像が軸となっている。アクションの合間に、パトロール中に地域住民と親しく会話する姿や、漢方の店で博識ぶりを披露する姿などが流れ、彼のファンにとってはたまらない作品となっている。
番組は視聴率もよく好評なのだが、現在まで放送されたのは2シーズンだけ。シーズン2はスティーヴンが10年にセクハラ裁判を起こされたため放送延期され、シーズン3も彼が違法闘鶏場を運営していると誤解して突撃するという失態を犯し起訴されてしまったため、今なおオンエアは保留となっている。しかしながら、繰り返し流れている再放送は人気で、シーズン3を早くオンエアしてほしいと願う声は多い。
美少女コンテストの王冠を目指す幼女と母親を追うリアリティ番組『Toddlers&Tiaras』で異彩を放っていた“ハニー・ブーブー”こと、アラナと彼女の家族の日常を追ったスピンオフ番組『Here Comes Honey Boo Boo』は、放送前から大注目を集めていた。一般的なアメリカ人家庭から見ても、かなり強烈なインパクトのある家庭だったからである。
ポッチャリして愛らしい少女ハニー・ブーブーは7歳。南部なまりで小生意気にしゃべる彼女はジョージア州のド田舎で、両親と3人の姉と共に暮らしている。母親・ジューンは32歳で“ママ”、父親マイクは40歳で“シュガー・ベアー”と呼ばれている。長女アナは“チッカディー”と呼ばれている17歳、次女ジェシカは“チャブズ”と呼ばれる15歳、12歳になる三女ローリンも“パンプキン”というニックネームで呼ばれている。両親は結婚はしていないが家族の絆は固い。
母親は超肥満体だが気にしておらず、父親は標準サイズだが何本か歯が抜けており、実年齢よりかなり老けてみえる。長女は今年7月に第一子を出産しているが、母親もこの長女を15歳で産んでいるため、別に不思議とも思わずシングルマザーとして家で赤ん坊を育てている。だが、泣く赤ん坊の口の中に、炭酸飲料に浸したおしゃぶりをねじ込むなど、虐待だととらえられかねないこともしており、視聴者からは批難の声が上がっている。次女は肥満体で減量に取り組んでいるが、父親は「うちの家族はデブじゃねぇよ。気持ちよい程度にふくよかなんだよ」と不満気。三女は「つまんないから」とスーパーのショッピングカートに立ち上がり遊ぶなどやりたい放題で、しつけなどどこ吹く風だ。
子どもたちはナイフとフォークを満足に使うこともできないほどだが、貧相な格好で貧乏な暮らしをしていても文句など言わない。超がつくほどのド田舎に住んでいることに不満を持つわけでもない。それなりに日常を楽しみ、幸せに生活しているのだ。
毎回放送されるごとに細かい問題点を指摘され、「美少女コンテストに優勝するためだと7歳の子どもに栄養ドリンクを飲ませたりするような家庭を取り上げることは、間違っている」「子どもを道化師にしているようだ」「放送局は、この家族を見世物にしている」と批判されているが、タブロイドからも愛されている一家の生活を見たい人は多く、視聴率は上々。意外と長続きする番組になるかもしれないとみられている。
番組のタイトルであるインターベンションとは、麻薬、アルコール、ギャンブル、摂食障害、買い物などさまざまな依存症の人たちを、家族や友人らが団結した上で介入し、リハビリ施設に送り込むという方法のことをいう。インターベンションを行う者たちは、依存症患者に気付かれないよう入所手配を行った上で本人を呼び、リハビリ施設でしっかり治してほしいと説得していく。治療を受けても逆戻りしてしまう確率が高いのだが、このままでは死んでしまうという場合、最後の方法として使われることが多い。番組では専門家の指導の下、成功率100%を目指してインターベンションが行われる。
番組の前半は、ターゲットとなる依存症患者の日常を追う。本人には「依存症についてのドキュメンタリーを撮影している」と告げて撮影し、薬物を打つ姿、泥酔する姿、目の色を変えてギャンブルや買い物にのめり込む姿、過食嘔吐する姿などを、隠すことなくそのまま放送。依存症がどれほど恐ろしいものかを、淡々と流していく。後半は、家族や友人らが集まり、本人を説得。リハビリ施設に入る様子、退院した後の様子まで紹介する。依存症が完治するケースもあるが、再び戻ってしまうケースも多く、後日談として失敗に終わったことを放送する回もある。
セレブだった人たちも時々登場する。『ER 緊急救命室』で若くて愛らしい看護師ウェンディを演じていたヴァネッサ・マルケスは買い物依存症に陥り、砲丸投の選手トレッサ・トンプソンは全米チャンピオンだったが00年にドーピング検査でコカインなどが検出されてから依存が進んだ。妻に捨てられホームレスになったコカイン依存症の元NBAのプロバスケ選手が出演したこともあり、視聴者を驚かせた。
05年から続く本作品は、09年にエミー賞最優秀リアリティ番組賞を獲得したこともあり、病んだアメリカをリアルに見られる番組だとして高く評価されている。
雨後のたけのこのように、次から次へと放送されるリアリティ番組。高視聴率を稼ぐこのジャンルを無視することはできず、エミー賞は01年にリアリティ番組部門を新たに設立した。03年からはリアリティ番組の中でもオーディション系、サバイバル系のコンペ番組を対象にしたリアリティ・コンペ番組作品賞を追加で設立している。
本年度エミー賞リアリティ番組作品賞には、アンティークの鑑定人が各地に赴く『Antiques Roadshow』、イギリスの人気シェフ、ジェイミー・オリバーの食・料理番組『Jamie Oliver’s Food Revolution』、オーストラリア人伝説バスターズの2人組が都市伝説を暴いていく『怪しい伝説』、US版『マネーの虎』こと『Shark Tank』、企業のCEOが一般社員を装い従業員の仕事ぶりを見る『Undercover Boss』、ご先祖様をたどっていく番組『Who Do You Think You Are?』がノミネート。リアリティ・コンペ番組作品賞には、『アメリカン・ダンスアイドル』『アメージング・レース』『アメリカン・ダンシングスター』『トップ・シェフ』『プロジェクト・ランウェイ/NYデザイナーズ・バトル』『ザ・ヴォイス』がノミネートされている。
正統派リアリティ番組がずらりとノミネートされた、本年度エミー賞の授賞式は9月29日。一体どの番組が受賞するのか楽しみである。