カルチャー
ブックレビュー

『ギャルと不思議ちゃん』から“女子”“ガール”へ……女の子たちの戦争の果て

2012/09/16 21:00
『ギャルと不思議ちゃん論: 女の子た
ちの三十年戦争』(原書房)

 バブル時代のボディコンギャルや90年代のコギャル、2000年代のエビちゃんOL、森ガールなど、途切れることなく盛り上がり続けている女性カルチャー。『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(原書房)は、文字通り「ギャル」と「不思議ちゃん」という、日本だけでなく海外からも「GYARU(渋谷)」「Kawaii(原宿)」として注目される現代女性カルチャーの二大陣営の成り立ちとその背景を追っていき、そこから見える女性と社会の関わりとその変化を丁寧に綴っています。

 本書では、雑誌「CUTiE」(宝島社)や「egg」(大洋図書)、「東京ストリートニュース!」(現・学研ホールディングス)、「アウフォト」(新潮社)、「CanCam」(小学館)、「小悪魔ageha」(インフォレスト・パブリッシング)、映画『桜の園』『下妻物語』、マンガ『ホットロード』(紡木たく/集英社)、『ヘルタースケルター』(岡崎京子/祥伝社)、『天使なんかじゃない』『NANA』(矢沢あい/集英社)、『致死量ドーリス』(楠本まき/祥伝社)などを通して、近代の「少女」という概念から、差異化競争の果てに生まれた現代の「ギャル」「不思議ちゃん」についての分析を試みています。男性による女性カルチャー論というと、「女性の理解者になりたい」という欲求が行間からうかがえたり、単純に萌え萌えしていたりというケースが割りと見受けられますが、本書は対象と距離を置いた冷静な筆致です。

 社会論としても女性論としても読める本書ですが、メディアの変遷に注目して読むと社会現象の火付け役になった媒体の違いが目につきます。90年代のコギャルブームは、「援助交際」というフックもあって「SPA!」(扶桑社)などの雑誌が火付け役となり、男性からも消費されましたが、ゼロ年代のギャルブームはあくまで女性主導。読者モデルのブログや自伝本を読んだ同性が共感し、拡散していったのも象徴的な話で、2000年代以降、男性誌がストリートカルチャーの牽引装置としてはすっかり弱体化していることが鮮明になっていきます。

 また、20年前は水と油状態だったはずのギャルと不思議ちゃん、それがこの10年で奇妙な親和性を持つようになってきました。ファストファッションに代表されるような安価な流行服が簡単に手に入るようになったため、キャラの切り替えが容易になったのに加えて、同じトライブでの「キャラかぶり」を防ぐために、ギャルが不思議ちゃんを参照し、不思議ちゃんがギャルを参照するという現象が起きた結果、かつては不思議ちゃんのトレードマークであったはずの「ぱっつん前髪」や「黒縁眼鏡」はギャルの間でも定番化。男目線は必要なかったはずの「CUTiE」も、表紙は恋人に会いたくて震えることでおなじみの西野カナ、付録がギャル御用達ブランド・セシルマクビーなんて事態も起きています。先日「原宿カワイイ大使」に任命された現代の不思議ちゃん的存在・きゃりーぱみゅぱみゅも、本書でも触れられている通り実は元ギャル。10~11年頃、ギャルファッション界隈で注目されていた「渋原系(渋谷系と原宿系がミックスされたスタイル)」という言葉も最近見なくなりましたが、消滅したのではなく混ざっているのがあたりまえになったからではないでしょうか。ギャルも不思議ちゃんも同じような“つけま”をつけて、スマホアプリで自撮りを加工してアメブロを更新し、人気読者モデルはスタイルブックでファッションやライフスタイルを、自伝で内面を語る。

 ギャルや不思議ちゃんだけではなく、辻希美や紗栄子、東原亜希に梨花も大差ないように思えます。個性や自己主張が横並びに平均化された結果、「女子」「ガール」が便利に使われるようになったのも頷ける話です。

 「少女」から細分化されたはずの「ギャル」と「不思議ちゃん」も、「女子」「ガール」という概念に回収されていく。そしてこの概念はどんどん拡張され、横軸だけではなく縦軸(年齢・世代)も越えつつあるようです。“40代女子”というフレーズが話題を読んだ「GLOW」(宝島社)、ママでもガールな「ママガール」(エムオン・エンタテインメント)が誕生する一方で、大人顔負けのスタイリングを小中学生が披露する小学生向けファッション誌「JSガール」(三栄書房)も人気を集めている現代女性カルチャー。その現状を理解するには、最適の書なのではないでしょうか。
(藤谷千明)

最終更新:2013/03/25 22:09
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