カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「日経ウーマン」10月号

男にモテるためじゃない! 「日経ウーマン」一生モノの女子力の使い道

2012/09/15 19:00
「日経ウーマン」/日経BP社

 女性誌レビューに久々登場の「日経ウーマン」(日経BP社)、俳優・高岡蒼佑との離婚も記憶に新しい宮崎あおいが10月号の表紙を飾っています。earth music&ecologyの最新CMでは、カフェの常連客を異国の言葉でやりこめている知的なあおいちゃん。ブランドも本人もイメージチェンジを図っているのか、「なんとなーくー幸せー」などとやけくそ気味に歌いながら、釣りをしたり、雪山をさまよい歩いたり、にんじんが積まれた重そうなリヤカーを押していた結婚時代の面影は微塵もありません。結婚・離婚と、それにまつわるすったもんだを経験し、「自分で選択し責任を持つ生き方を大切にしたい」とカバーインタビューで力強く語る彼女は、男性に頼ることなく、仕事に打ち込む「日経ウーマン」愛読者たちの新たな目標と成り得るのでしょうか。普段、悪目立ちしないように粛々と働く「日経ウーマン」読者が、新生・宮崎あおいに感化されてしまい、あおいちゃんお気に入りの新ヘアスタイル「前髪・オン・ザ・眉毛」を突如模倣し、オフィスで驚かれたりしないことを祈りつつ……。早速、今月号の誌面を見ていきましょう!

<トピック>
◎もっと自分を好きになる!女子力&マナーLesson
◎ラクラク貯まる財布術
◎働く女性600人の「リアルごはん」大公開!

■女子力=自分大好き力?
 過去半年分のバックナンバーをチラ見するだけで「一生モノのスキル」「一生仕事で困らない」「一生散らからない」「一生役立つ資格」等々、「一生」という重々しいワードが散見される「日経ウーマン」。いつだって流行に振り回されることなく、自己のキャリアや老後をしっかり見据えて、仕事や自分磨きに全力投球する優等生的な女性誌です。

 そんな「日経ウーマン」が、「女子力」というワードを取り上げています。奇しくも、今月の「MORE」(集英社)10月号の特集も「私が輝く!秋こそ『女子力アップ服』」と、「女子力」をフォーカスしているんです。「MORE」の「女子力」が同性に好かれるファッションを提唱し、全方位モテを目指しているのに対して、「日経ウーマン」の「もっと自分を好きになる!女子力&マナーLesson」特集には「モテ」の「モ」の字もありません。言葉遣いやコミュニケ―ション術等、オフィシャルな場を想定した「マナー力」の伝授に終始しています。巷にあふれた「誰かに愛されるため」の「女子力」だって、「日経WOMAN」の手にかかれば、礼儀作法を身につけ仕事を円滑に進めるための「一生モノ」のスキルに早変わりするのです!

 読者アンケートの結果を見ると、「女子力を高めたい理由」には「恋愛が上手になりたい」という読者のひそやかな願いもランクインしているのですが、今回の企画では完全に黙殺された形に。「日経ウーマン」では、「女子力」アップした自分を肯定するのは、第三者ではなく自分自身。そのため「今、磨くべき5つの女子力」として、第一に挙げられているのが「自己肯定力」なんです。この「自己肯定」という言葉、「自分大好き力」「素直に自分を受け止める」等と形を変えて度々登場してきます。自分を肯定できれば外見もきれいになる! 仕事も人生もうまくいく! ということなのでしょうか。

 かくもポジティブなウーマンイズムを如実に物語っていたのが、「女子力アップ一週間プログラム」なる企画。読者2人が「ファッション&メイク」「コミュニケーション」「マインド」の3分野から、女子力アップにチャレンジしているのですが、「母の使っていないブラウンのアイブロウを借り」たり、「家から発掘!」したマニキュアを塗ったり、「デスク周りや部屋の掃除を実行」したり、購入したのは黒いワンピースだったり……と、正直、「買う服もやることもそんな地味でいいの!?」「そんなケチケチしていていいの!?」という印象を受けました。

 いえ、さすがは節約と貯蓄を信条にする堅実な「日経ウーマン」。見せる男がいなくとも、女子会で自慢するためだけにジェラートピケのパジャマを一式買ったり、キラキラコスメや使いもしない香水をドレッサーの肥やしにして「女子力女子力~(笑)」などとふざけている赤字系雑誌の読者とはわけが違いますよ!

 残念ながら、女子力アップにいそしんだ読者2人の成果は、筆者の目にはよくわかりませんでした。しかし、きっと彼女たちの輝きは、自己肯定ができている内面美人にしか見えないのでしょう。「女子力アップ」という一見ミーハーな目標を立てても、地道な努力を積み重ねていけば自己肯定感が高まり、めぐりめぐって仕事がうまくいったりいい恋愛ができたりして「ウーマン」的幸福が手に入るわけですね。見習わなくちゃ!

■見果てぬ夢はお財布の中、ウーマン流「財布術」
 特集2「ラクラク貯まる財布術」では、「貯め上手」の読者が、その財布の中身や月収、一カ月の家計の内訳まで惜しげもなく公開しています。驚いたのは、「財布の中身は3,000円を厳守」という、ある読者の財布術。「急に飲み会誘われたらどうするの?」と思ったら、「付き合いで飲みに行き、出費がかさむより、体調や気持ちを優先する」とのことで、つまり急な飲み会には参加しないようです。徹底していますね。そうまでして貯蓄を増やして、そのお金を何に使うのかということに、誰一人として言及していないことが不思議でなりません。

 そして、「貯めベタ読者をこう変える!おブタ財布を徹底カウンセリング」のコーナーには、「彼の分の食費なども負担していたこともあり、正直赤字続き」「なぜかお金がなくなってしまう」という読者が登場。「必要なものだけを財布に入れることが貯め体質への第一歩です」とFPの方がアドバイスしていましたが、貯め体質になれない人の問題点は、財布の中身だけではなく、付き合っている男にあるような気が……。

 「財布術」として挙げられていたのは主に、「長財布を使用」「レシート・領収書を溜めない」「カード類は最低限」「お札の向きは下向きに」等々どこかで聞いたようなテクニックばかりでしたが、そんな中に「帰宅したらバッグから財布を出し、暗くて静かなところで休ませてあげる」という、手作りパンのレシピと見紛う謎の一文を発見! 「寝室の北側や引き出しや箱の中に入れておく」……ってそんなところにしまったら、翌朝財布を忘れて愉快なサザエさんになってしまうのでは? あ、もしかして財布を持ち歩かなければ浪費が防げて、究極の節約になるかもしれませんね!

■「ごはん」特集に見た、読者のリアル
 最後に取り上げるのは「働く女性600人の『リアルごはん』大公開!」。「働く女性のリアルな朝ごはん&ランチ」では、読者の手作りパンやお弁当が紹介されており、前述の「女子力」特集以上に、こちらの企画にこそ女子力を感じました。しかし女子力たっぷりの「リアルごはん」の中に「会社のマークをかたどったキャラ弁」という、会社の広告塔のようなお弁当が。作ったのは24歳マーケティング部の方だそうです。脅威のマーケティング力!

 読者アンケートによれば、「食費の節約を意識している人は68%」だそう。これは節約至上主義の「日経WOMAN」にしては、低い数字と言えるのではないでしょうか。そんな読者たちに喝を入れるように「ひとり暮らし読者が1WEEKの節約メニューに挑戦」なる企画が用意されていました。「食材をまとめ買いして野菜を冷凍」「業務用スーパーを活用」等のテクニックは想定の範囲内ですが、問題はそのメニュー。キムチが常備菜なのはいいとして、4日間連続でキムチってさすがに飽きませんか!? 特に3日目、「半額のパンにお弁当屋さんで買った20円のコロッケと残りもののキャベツでコロッケロールに。栄養バランスを考えて納豆とキムチも添えました」となっていますが、どうしてパンにキムチと納豆添えちゃったんですか!? 「食費節約と栄養バランス以外にも、大事なことがあるよね?」と念押ししたくなってしまいます。

 しかし、ひとり暮らしのごはんは、どんなに手が込んでいても、どんなにレパートリー豊富でも、誰も褒めてなんかくれません。だからと言って、仕事に自分磨きに忙しい「日経ウーマン」読者は、毎日自作のカフェ風メニューをブログやTwitterにアップして承認欲求を得るほど暇ではありません。自分の「食」を自己肯定してあげるべく、努力の結果が数値でわかる節約や栄養バランスにばかりこだわってしまうのが、「日経ウーマン」的「リアルごはん」なのかもしれませんね。

 「女子力」特集・「リアルごはん」特集ともに、「自己肯定力」が裏テーマだった「日経ウーマン」10月号。誰にも依存せず、決して妥協せず、自分で自分を褒めてあげながら突き進んでいくという本誌の力業に、今後も注目していきたいと思います!!
(早乙女ぐりこ)

最終更新:2012/09/15 19:00
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