やっぱり美坊主登場! 「婦人公論」の“ファッション”としての仏教特集
婚外恋愛、中高年のセックス、女性のマスターベーションと、一般に“タブー”とされているジャンルを真正面から切り開いてきた「婦人公論」(中央公論新社)。今号は、宗教の特集です。題して「仏教は女の人生と相性がいい」。宗教って、マスターベーションよりもタブー感が強いと思いませんか。仮に女友達に「バイブ派? 中指派?」と聞けたとしても(聞いたことないですけどね)、信仰している宗派については、なかなか質問しにくいと思います。生き方すべてに関わる問題ですし、新興宗教など予期せぬ答えが返ってくる可能性も高くリアクションに困りそうだし、勧誘されても困るし。あまりおおっぴらには話せないジャンルの1つではないでしょうか。そこへあえて切り込んで行くのが「婦人公論」なのです!
<トピック>
◎特集「40代からの転機に、どう向き合う 仏教は女の人生と相性がいい」
◎難病の夫・篠沢秀夫の毎日は失くしたものを“惜しまない”
◎婦人公論サスペンス劇場<後編>「悪魔が来たりて」
■坊主と仏像は女子のたしなみ
特集「仏教は女の人生と相性がいい」、表紙&インタビューはお約束の瀬戸内寂聴です。記事中で寂聴先生はこう言っておられます。
「別に仏教でなくてもいいのです。食べ物でも、肉が好きな人、魚が好きな人、いろいろいます。(中略)信仰も同じで、それがどんな宗教であれ、自分と相性の合うものに祈ればいいのです。ただ、日本にはせっかくこんなにたくさんお寺があるのだから、それを風景の一つと思わず、訪ねて行ってお坊さんと話をしてみてください。悩みを抱いて寺を訪れた人にこたえようとしないのは、いくら衣を着ていても、本物の僧侶とは言えません」
ふーん、そんな気軽に相談しに行っていいんだ……と思いながら、パッと頭に思い浮かんだのは、一部で話題になっている「美坊主ブーム」でした。『美坊主図鑑~お寺に行こう、お坊さんを愛でよう』(廣済堂出版)という本が出版されるほど、イケメン坊主が「癒される」と、流行に敏感な女子たちの間で人気なんです。結局、「婦人公論」もソッチの方向かと思ったら、数ページ後に案の定、元祖美坊主、気鋭の小池龍之介住職が登場する「離婚に死別、更年期……あなたの悩みを解決します」という企画が掲載されていました。
「長女を妊娠中に夫が不倫。次女出産直後には風俗店の会員証を見つけた。携帯電話を見たらまた浮気している。離婚すべきでしょうか」「体ののぼせやめまいがひどく、更年期かも。時々死にたくなる」といった質問に、小池氏が「性欲について申しますと……」なんて真摯に答えています。まー、美坊主でなくても、「OKWave」や「発言小町」でも全国の既婚女性たちがめっちゃ真摯に答えてくれますけどね。更年期障害については婦人科に行った方がいいし!
でもって、その数ページ後には、はなと笑い飯の哲夫による対談「私たちが魅せられた、クールな仏像、かっこええお経」が掲載されていました。内容はみなさんのご想像通り。「あそこのラーメンがおいしいよね」「魚介豚骨だよね」的なノリで、仏像ワッショイ、写経ソイヤソイヤと語っています。この対談で最も重要なのは、はなのこの一言です。
「好きな仏像に会いに行くと思うだけでワクワクドキドキ、テンションが上がっちゃう」
名言出ました! これをIT社長の前で言えば、すぐにグリーン車で京都に連れていってくれると思いますし、サブカルおじさんの前で言えば「おもしろい子だね」とお気に入りリストに入れてくれて、うまくいけば仏像コラムニストとしてデビューさせてくれるかもしれません。個性的、センスよさそう、頭よさそう、品がよさそう、育ちがよさそう、おしゃれ……と全方位的に好感度大なキラーフレーズです。いいですか、「仏像にドキドキしちゃう」ですよ。くれぐれも間違えて「坊主にムラムラしちゃう」と言わないように気をつけてくださいね! ちょっとした言い間違いで、男性のあなたに対する評価はだいぶ変わってしまいますから。
特集全体としては、結局「ファッションとしての仏教」という印象が否めず、硬派な「婦人公論」にしては意外な気がしました。どーりで、「仏教は女の人生と相性がいい」ってざっくりしたタイトルなわけだわ。しかし、考えてみれば、中高年のセックスもマスターベーションも少しはファッション的な要素がないと、明るく楽しく語れないというところはありますよね。最初は形からでも、だんだんと語る人が増え、やがて文化として成熟するのかもしれません。宗教もこの流れに乗って、そのうち「仏教ガール」「キリストガール」「創価ガール」「かむながらのみちガール」とおのおのの信仰を表明する女性たちが出てきて、カフェで熱く語る日が来るかも……。
■「夫がいてこその私」って思ったことある?
昭和生まれの方ならご存知『クイズダービー』(TBS系)に出演していた、学習院大学名誉教授の篠沢秀夫氏が、79歳の現在、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)と闘っていると知り驚きました。奥さまの篠沢礼子さんがインタビュー「難病の夫・篠沢秀夫の毎日は失くしたものを“惜しまない”」でそのつらい経緯を語っています。2009年に「回復はない」「24時間介護で6人の人手がいる」と宣告されてから、3年半、ヘルパーさんや訪問看護師さんの助けを借りつつ、自宅で介護をしているそうです。そんな礼子さんも72歳、結婚して48年。
「パパは私にとって大事な、大事な人。若い頃、自分でこうしたいというものがなかった私は、結婚したときからパパに何かしてあげることが生き甲斐でした。今もそれは変わらず、パパがいてこその私」
こういう言葉、最近はあまり聞かなくなりましたね。新鮮に感じると同時に、献身的な介護を続ける礼子さんの愛の深さに思わず泣けてしまいました。今回の特集のように、仏教すら自分をアピールするファッションの一部として扱われることが珍しくない昨今、Twitterで「私が、私が」と声を高くして、いつもどこか前のめり。「自分でこうしたいというものがない」ことが罪のように感じ、「誰かのために生きる」ことを筆者は考えたことがありませんでした。もちろん、夫妻が結婚した当時と時代背景は異なり、前のめりでないと生きていけないというのもあるんですが。もっと穏やかに生きる方法はないものでしょうか。……とりあえず「お金が貯まらないんですけど、どうしたらいいですか?」と美坊主さまに相談しに行こうかな。お説教されたいな。
(亀井百合子)