「HERS」が到達した“嫌がられても、マドンナルックがしたい”という境地
先日、熟女好きを公言しているピース・綾部祐二が、30歳年上の藤田紀子さんと熱愛しているという報道が話題を呼びました。実は「HERS」(光文社)では、2カ月にわたって綾部氏との誌上デート企画を行っていたんです。この企画を読んだ読者は妄想を掻き立てられたことでしょうが、実際に熱愛が報道されると、がぜん真実味を帯びてきて、読者の気持ちはさらに盛り上がったのでは。別にこういう話って、当事者の年代の人からしたら、事実がどうこうではなくって、そういう話が出るだけでも晴れがましいことだと思うんですよね。
<トピック>
◎萬50+4ダッ(ハート)スペシャル「ひとりで立っていられる自信があります」
◎[実例]嫌がられても着たい服
◎見つけました!「風通しのいい」先取り服
■50代の恋愛と老眼問題
今月は、萬田久子さんのパートナーがお亡くなりになってちょうど1年ということで、「ひとりで立っていられる自信があります」という特集が。「HERS」の萬田さんは“ズル可愛”なんてキャッチコピーと共に、ミニスカートをはいたり、ピンクの洋服を着たりしてきましたが、実はパートナーだけは「いい加減にしたら?」とブレーキを踏んでくれていたそう。今は1人になった萬田さんですが、「ブレーキは自分で踏まないと」と言いつつも「もともと高性能エンジン。ブレーキも改善しました」と言い切る姿が頼もしく感じられました。
そしてインタビューでは「そろそろ新しい恋も解禁の頃かしら」「実は、告白すると、明日、ちょっと気になる人と初デートなんです。年下だから、メニューを見るときに老眼鏡をかけないですむように、コンタクトレンズをはめていかなくちゃ、ね!(笑)」という告白も。いや、自由でいいですねと思うと同時に、50代の恋には「老眼」が恥じらいになること、そしてコンタクトレンズをつけるとそれが解消することなど、この年代のリアルな恋愛を見ることもできました。
■「憧れ」を生み出すという課題
そんな、巻頭の萬田さんの新たな決意に続く第1特集は、「見つけました!『風通しのいい』先取り服」です。内容的には、「“厚着にも薄着にも見えない”シンプル・スタイル大研究」というものなのですが、目を引いたのは、特集の最初に登場した読者モデル・利根川利香子さんの姿です。これまでにも読者として、何度も誌面に登場してきた利根川さんは、かわいらしくて甘さのある読者モデル。しかし今月は、黒いシャツを黒いフェイクレザーのタイトスカートにインしたスタイルで、街を颯爽と歩いている写真が、堂々と1ページ分使われているのです。もともとプロのモデルではなかった利根川さんが、私物やコーディネイトを公開するうちに、徐々に読者の支持を得て、プロのモデルやタレントさんをさしおいて、特集の最初のページを飾るほどになるとは。これは、「HERS」読者の多くが1980年代~90年代の「JJ」(光文社)読者であり、常に「憧れの消費者代表」の存在を欲していた習慣が、今も根強く残っているからという要因もあるでしょう。
それにしても、今の女性誌において、読者に羨望と親しみやすさの両方を抱かせる存在を生み出すというのは、大きな課題になっています。こうした問題は、表紙モデルがタレントの井川遥さんから、読者モデル出身の滝沢眞規子さんに変わったばかりの「VERY」(光文社)にも見られます。芸能人だからと言ってぴったりハマるわけでもなく、かといってモデルの中からちょうどいい人が出てくることもそう多くはないわけで、そんな中、第1特集のトップに躍り出られる読者モデルが存在するって、けっこう幸運なことなのかもしれないなーと思いました。利根川さんの一番の魅力は「人が好さそうで、お友達になれそう」という点だと思いますが、40~50代向けの雑誌でも、同性受けが切り離せない時代になってきたことがうかがえます。
■「開き直り」のすがすがしさ
さて今月は、「流行の服を着るのとは違う、気持ちが上がる私だけの理由がある」というキャッチコピーのもと、「[実例]嫌がられても着たい服」なんていう楽しいページもありました。「無難なコスチュームを着てそれなりにこなしてきたけれど、身近な人に嫌がられても譲れない服を着たい!」という「HERS」読者の思いを叶えるのが特集の意図だそうです。
実例としては、マドンナみたいなロックテイストの服、若い子の流行をギリギリ取り入れたタトゥータイツ、お姫様気分になれる聖子ちゃんワンピ、女であることを再認識できる超ヒール靴、ビビっときたブローチをいくつも身に着けるブローチ盛り、笑顔になれるキャラ服、怖い柄ワンピ、胸元開き服、海外マダムテイスト、関西仕込み配色などなど……。
ま、実際には、あまりにもカマトトっぽかったり、バブルの香りがしたりと、過去の栄光が忘れられない読者のための救済措置って感じがしなくもないですが、「HERS」の娘世代の雑誌「steady.」(宝島社)の特集「ほめられコーデvs.怒られコーデ」(2012年4月号)のように、周囲から怒られないために洋服を選ぶよりは、なんと自由で風通しのいいことでしょうかと思わずにはいられませんでした。
このほか、「地味色カジュアルが関西を席巻する!?」という特集では、読者が、明らかに10歳以上年下の彼と、さりげなくデートしている日常が登場しています。冒頭の萬田さんのように、パートナーと死別した人もいれば、旦那さんのいる人も、若いパートナーと新しい関係を築いている人もいる。そう、「HERS」には、実にいろんな人がいて、でも、お互いが意識し合ったりもしていない。こういう女性の多様な生き方は、やっぱり歳をとって初めて訪れることなのかもしれません。ほかの年代の雑誌ではなかなか難しいことをやってのける今月の「HERS」は、なんだか見ていて、久しぶりにすがすがしい気持ちになってしまいました。
(芦沢芳子)