「皮膚がむけるまで叩かれた」残虐な児童虐待の現状
子どもを虐待する親は逮捕され重い刑罰が与えられるなど、幼児虐待を厳しく取り締まっているアメリカ。しかし皮肉なことに、先進国の中で最も児童虐待被害者が多いという統計結果が出ている。虐待は家庭という閉ざされた空間で行われる上、被害者である子どもは加害者である親を恐れて何も言わないため、なかなか発覚しないのである。
児童虐待防止活動を行っている「Childhelp」によると、アメリカでは毎年330万件の虐待被害が通報され、600万人もの子どもが被害に遭っているとのこと。毎日、5人の子どもが虐待に関連して命を落としているのだという。
ハリウッドスターの中にも、子どもの頃、親や親族から虐待を受けていた者がいる。今回は虐待された過去を告白した、勇気あるスターを紹介したい。
■クリスティーナ・アギレラ
2009年に放送されたテレビのドキュメンタリーで、父親が家族に対してひどい暴力を振るっていたことを告白したクリスティーナ。彼女が子どもの頃、一家は米陸軍軍曹だった父親について、テキサス、日本、ニュージャージーの米軍基地を転々としながら暮らしていたが、あまりにもDVがひどいため、MP(軍警察)が駆けつけるほどだったという。
番組でクリスティーナは、「嫌なことをたくさん見てきたわ。母が父に突き飛ばされたり、ケンカや口論も。そんな環境で育った私には、安心できる場所がどこにもなかったの。自分は無力だと感じ、毎日ひどく落ち込んでいたわ」と回想しており、母親も、「まだクリスティーナが4つだった時、彼女のあごから血が滴り落ちているのを見て驚いたことがあるの。『どうしたの!?』と聞くと、『パパがお昼寝したかったのに、私がうるさくしちゃったから』と言って……」と語り、暴力が子どもたちにも及んでいたことを告白。暴力はエスカレートする一方で、クリスティーナが7歳の時に、両親は離婚した。
「歌うことを、やるせない気持ちのはけ口にしていた。そして、私は歌に救われたの。音楽への愛が芽生えたのは、家で感じ続けた痛みがあったからこそなのよ」とポジティブに言うクリスティーナだが、許してほしいと言い寄る父親を、今なお許せないとのこと。「一瞬、受け入れたことがあったけど、すぐに私の人生には父など必要ないって気がついたの」と語っている。
■シャーリーズ・セロン
アルコール依存症で暴れ狂う父親のいる、すさんだ家庭で育ったシャーリーズ・セロン。彼女は6歳でバレエを始め、12歳で芸術系学校の寄宿舎に入ったのだが、家に帰るたびに、父親が母親を殴る姿を見てきたという。南アフリカのヨハネスブルク郊外で生活をしていた一家には、リハビリ治療という選択はなかったようで、父親を止める者は誰もいなかったとのこと。シャーリーズは「私が母を守らなければ」と強く思うようになったと告白しており、多くは語らないが、間に止めに入った彼女が父親の暴力を受けたことは、容易に想像できる。
91年、いつもにも増して激しい暴力を受けた母親は、自分と娘に向かって「お前ら、2人とも殺してやる!」と叫んだ夫の言葉を聞き、本当に殺されてしまうと恐怖感を抱いたとのこと。銃を手に取り、夫に向けて夢中で撃ち、殺害した。母親は長年DVを受けていたため、自己防衛行為と認められ、罪には問われなかった。なお、シャーリーズは、このことを長年公表せず、「父は交通事故で亡くなった」と言い続けてきた。
■ドリュー・バリモア
映画『E.T.』で天才子役とちやほやされるようになり、娘の知名度を利用したい母親に連れられ、夜な夜なクラブをハシゴさせられたドリュー・バリモア。母親から受けたのは、いわゆるネグレクト(育児放棄)だったが、実は父親からも虐待を受けていた。
ドリューの父親は数多くのテレビドラマや映画に出演し、「ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム」に名前が刻まれた俳優ジョン・ドリュー・バリモア。彼は彼女が生まれる前に家出していたが、3歳の時に戻ってきて一緒に暮らすようになったそうだ。すぐに虐待は始まったとのことで、9歳の時に両親が離婚した後は父と疎遠になったという。彼女はインタビューで、「小さい頃は父が大嫌いだった。とても暴力的で最低な男だったわ」と言っているが、その後、なんと、父を許したと告白。「成長して、大人になった今は父を愛している。クレイジーだけど賢くて、私が出会った男性の中で一番魅力的な男だわ。本当に狂っているけどね。それもすべて彼の個性なんだって受け止めたの。だから、虐待されたことによる痛みは、もうなくなったの」と克服したことを明かした。
なお、ドリューが父を許したのは、彼のがんが進行し、孤独死目前だった03年のこと。近くに住まわせ、医療費も払い、04年に亡くなった時も見取っている。
■アン・ヘッシュ
バイセクシュアルであることをカミングアウトし、かつてはコメディエンヌのエレン・デジェネレスとも交際していた女優のアン・ヘッシュ。彼女は長年精神病に苦しんでいたというが、きっかけは、父親からの性的虐待だったと告白している。
アンは報道番組『20/20』のインタビューで、「赤ん坊の頃から12歳になるまで、父から日常的に性的虐待を受けていた。あの男は、ペニスを私の口の中にねじ込んだ。いろいろな体位でセックスすることも強要された。まだ幼児だった頃から」と言い、なんと8歳の時に性器ヘルペスをうつされたと明かした。母親を含む周りの大人には言えなかったそうで、苦しい地獄のような日々を送っていたという。
父はそのうち、家族を捨て、一家はホームレスにまで堕ちていった。その父が83年にエイズで亡くなったと聞いた時、14歳だった彼女は、自分もそうなるのではと気が狂いそうになったという。ちなみに、父親はホモセクシュアル寄りのバイセクシュアルだったと伝えられている。
「自分を犯し続けた父がエイズで死んだ」という現実に直面できなかったアンは、アルコールやドラッグに溺れ、手当たり次第セックスするなど、荒れまくったという。そんな彼女を変えたのがエレンで、彼女と破局後結婚したカメラマンのコリー・ラフーンとの間に男の子をもうけた。
心身ともに父親に苦しめられたアンだが、「父は映画スターが好きだったから、私は父の愛を得るために女優を目指した。母はイエス・キリストに夢中で、だからイエスにもなりたかったの」とも発言しており、今でもいろいろな意味で心の整理ができていないと明かしている。
■タイラー・ペリー
10年のアカデミー賞で大きな話題となった映画『プレシャス』。製作総指揮を務めたタイラー・ペリーは、身長196cmもある大男だが、子どもの頃は想像を絶するような虐待を受けていたことをカミングアウトしている。
3年前に、オプラ・ウィンフリーの番組に出演したタイラーは、「ずっと父から口汚く罵られ、手加減なしに殴られたり蹴られたりしていた」「父はクッキーを買ってきてね、冷蔵庫の上に置いておくんだよ。腹が減ってるし、子どもだから我慢できなくなって手を伸ばす。すると、父が待ってましたとばかりにニヤニヤしながら現れるんだ。で、リンチのような激しい暴行を受けるのさ」「掃除機の柄で、皮膚がずるむけになるまで背中を叩かれたこともある。今でも、自分の子どもに対してなんでそんなにひどい暴力を振るったのか、理解できない」と淡々と語り、世間に衝撃を与えた。
父親は、タイラーの初恋の相手である当時12歳だった少女の体を触るなどの性的虐待もしていたとのこと。現場を目撃したタイラーは、「父がそんなことをするはずない」という気持ちがあっただけに、ひどく落ち込んだと語っている。父の養母から、週1で受けていたアレルギー治療のことを「お金の無駄」だと言われ、「アタシが治してやる」とアンモニアが入っているバスタブに無理やり沈められたこともあったという。
タイラーは父だけでなく、近所の女性に性的虐待を受けていたことも明かした。その時、彼はまだ10歳だったとのことで、嫌悪感しかなかったと回想している。
ほかにも、テリー・ハッチャー、アクセル・ローズ、マリリン・マンソン、クィーン・ラティファ、オプラ・ウィンフリー、シネイド・オコナーらも虐待をカミングアウト。メアリー・J・ブライジも、わずか5歳の時に性的虐待を受けたことをカミングアウトしている。
「Childhelp」は、児童虐待被害者の30%は、大人になってから自分の子どもに対して虐待するようになると報告している。「自分も親のように、我が子に暴力を振るってしまうかも」と心配してしまう被害者も多い。
今回、紹介したセレブたちの中には、長年虐待されていた過去を隠していた者が多い。勇気を振り絞ってカミングアウトし、「虐待されたけど、でも、自分は大丈夫だった」「みんな1人で悩まないで」というメッセージを発信した彼らには敬意を払わずにはいられない。そして、社会全体が深刻化する児童虐待にもっと目を向け、真剣に考えなければならないだろう。