百戦錬磨の「ひよこクラブ」でさえ、“ながら授乳”は「赤ちゃんが寂しいかも」
「みんなと同じがイチバン!」と言わんばかりの徹底した横並び主義を貫く育児雑誌「ひよこクラブ」。「みんなどうしてるの? 私の子育て、変じゃない? 大丈夫?」と新米ママである読者がものすごい勢いで心配しているというのが前提で、百戦錬磨の「ひよこクラブ」さんがそれに答える、というのがこの雑誌の基本姿勢です。
夏を乗り切る情報がてんこもりの8月号は、いつにも増して「これでいいの?」のオンパレード! 表紙の見出しの「?」の数が多すぎます! 編集部のパソコンは「?」のキーだけすり減っちゃってるんじゃないですか? そんな「ひよこクラブ」8月号、ただいま0歳児を育児中のママライターが読んでいきます!
<トピック>
◎産後の生理 どう変わる? どう付き合う?
◎おっぱい ミルク「飲ませ方」ってこれでいいの?
◎はいはいってしたほうがいいの?
■初潮ガイドブックのような産後生理特集!
とにかく何でも「これでいいの?」を細かすぎるほどチェックするのが「ひよこクラブ」の基本姿勢。「産後の生理」特集も、各ページが10個ずつのQ&Aで埋め尽くされています。書いてある質問は「産後の生理は、どんなふうに再開するの?」って。「どんなふう」って、生理っぽくない再開(噴射など)だったらもうそれは生理じゃねえだろうよって感じなのですが、「前兆がなく、突然下着についてびっくりするママもいます」と、想像の範囲を1ミリも超えない答えをド真面目に答える「ひよこクラブ」。
さらに「出血量が多く、トイレが頻繁で大変です」という質問(?)には「ナプキンやタンポンはこまめに替えるのが基本。トイレに行ったら毎回替えると◎。」と小学生女子のための初潮ガイドブックみたいな答えを書いてみたり、「あらかじめショーツにナプキンをセットして入浴後は手早くはくなど、段取りを考えましょう」とか、生理をまったく経験したことがない人へ宛てたメッセージみたいに書いてありますが、生理を何年も経験した後、赤子をお腹から出した人が読む雑誌ですよね……?
確かに妊娠してから1年くらい生理がなかったけど、「どんな感じのものだっけ?」と忘れるわけもなく、なんともなしに対応してたのですが、「量などが気になるなら早めの受診を」と書いてあるので、自分の股間から出ているコレは本当に「生理」なのか……? と逆に不安になってくる始末なのです!
■ジジイを黙らせる技をプリーズ!
「おっぱい ミルク『飲ませ方』ってこれでいいの?」特集も、ただQ&Aが書き連ねてあり、ほぼすべてが意外性のないQ&Aなので読んだソバからどんどん忘れてしまう(1個前のQがなんだったか思い出せない!)という魔法のような6ページ。
それにしても「飲ませ方」に関しては、ネット上に「『ながら授乳』はけしからん」的なことが書いてあるのをよく見ます。『ながら授乳』というのは「携帯を見ながら」とか「テレビを見ながら」とか、何かをしながら赤ちゃんにおっぱいやミルクを与えること。食事中である赤ちゃんの顔を見てあげないのは「エサをあげているのと一緒」とか「母親に拒絶されて寂しいと感じる」「心を閉ざした大人になる」という意見なのですが、「『ながら授乳』けしからん派」は圧倒的にジイさんが多いように思います。
確かに授乳というと、聖母マリアのような顔で赤ん坊を見つめながら乳を吸わせるってイメージ。だからスマホをいじりながら乳を吸わせてる女を見ると、びっくりして「けしからん」って言いたくなるんだと思いますけど、「聖母マリアな理想的授乳」ってどうしたって姿勢に負担がかかるから、母乳でも哺乳瓶でもちゃんとやってたら首や腕がすぐイカれちゃいます。授乳タイムだけが自分の時間として使える人もいると思うし、そのスマホで「育児情報」を検索してるかもしれないし、育児に関係のないゲームをしたって自由なはず。赤ちゃんにちょっとした罪悪感を持つことも、バランスを保つには大切なことだと思う。
でも、そういう感覚は、ジイさんとかには絶対分からないじゃないですか。そもそもジイさんが授乳に口出すのって、野球についての知識がまったくない私がパッとつけたテレビを見て「なんで最近の高校球児は丸刈りじゃないんだ、高校球児と言えば丸刈りだろ!」と怒ってるようなもの。だからジイさんの授乳への苦言なんて実際はなんの威力もないはずなのに、育児という「誰でもされた経験があること」というのは正論っぽいことを言いやすいし、言われた方も萎縮しやすいんですよね。
だからこそ、堂々としていられる勇気が欲しいわけです。「私の授乳はこれでいいんだ」という、理想論を跳ね返すパワーが欲しい。ジイさんにギャーギャー言い返しても無駄だし、ふてぶてしく対応したらまたイヤミを言われるだけ。「はぁ?」と小雪のような高貴なたたずまいで無視したり、「聞いてなかった! もっかい言って!」とローラのように舌を出せる(もう一度言わせた後「口臭いね! キャハ!」と切り返せる)、そんな余裕が欲しいわけです。だから「あなたの授乳はそれでいいんだよ!」って「ひよこクラブ」には言ってもらいたいし、さらに踏み込んで「イヤミを言われた時の対策」とかも教えて欲しい!
しかし実際「テレビを見ながらの授乳は絶対にダメですか?」という質問に対し、「ひよこクラブ」からの回答はこれでした。「ママが授乳に興味のない態度だと、赤ちゃんは『寂しい』という気持ちになるかも。絶対ダメではありませんが、目を合わせたり、声をかけたりを心がけて」……。ジジイと言ってることが同じ! ダメだこりゃ!
今月号の「ひよこクラブ」はQ&A地獄で息苦しさがハンパなかったです。「はいはいってしたほうがいいの?」特集でも、はいはいをする子と、しない子の違いをQ&Aで答えまくり地獄。「はいはいをしないからといって足腰が弱くなることはありません(安心して!)」って延々と書いてあるんですけど、「オレ、赤ちゃんの時はいはいしなかったから足腰弱くてさ」とか言ってる大人います? 「はいはいしない子は足腰が弱い」なんて聞いたこともないから何も不安はなかったのに、「はいはいしない子も、好奇心が育たないわけではありません(安心して!)」というのを読んでいると「うちの子、はいはいしない派だったらどうしよう……」と不安になってきて、ほかのページを読んでも全部そんな感じなんで、スッカリ意気消沈して8月号を閉じたのでした!
(田房永子)