あの“フロージョー”の娘が歌手に! 米人気オーディション番組に出演
ネイルアートを施した長い爪と黒髪がトレンドマークだった、女子陸上界の大スター、フローレンス・グリフィス=ジョイナー。38歳の若さで他界した彼女の一人娘が、今、アメリカで脚光を浴びている。歌手になる夢を持つ21歳の娘は、先週、出演したオーディション番組で大絶賛され、今月末にオレゴン州で開催される陸上競技選考会で国歌斉唱を務めることが決定。母娘2代続けて、伝説の女になることができるのかが注目されている。
「フロー・ジョー(流れるジョー)」という愛称で知られるフローレンス・グリフィス=ジョイナーは、100m、200mの世界記録保持者であり、5つのオリンピック・メダルを獲得したカリスマ的アスリート。1987年に、84年のロサンゼルス・オリンピックの陸上三段跳で金メダルを獲得しているアル・ジョイナーと挙式。結婚後、アルは彼女の食生活を管理し、規則正しい日常生活を送るように促し、また、ジムでの厳しいトレーニングを行うようになったことから、フローレンスは筋肉質な体型へと大変身。爆発的に記録を伸ばした。あまりにも速くなった彼女に、ステロイド疑惑がかけられるようになったのだが、憤慨するアルとは対照的に、フローレンスは常に冷静に対応。29歳で引退した時も、ドーピング検査が厳しくなってきているからだろうと陰で言われたが、アルは「子どもが欲しいから、また、ファッションの仕事をするため」だと強く否定していた。
その後、フローレンスは30歳で妊娠、出産したが、妊娠する前から「女の子が生まれる。そして、素晴らしい歌手になる」と予言していたとのこと。妊娠中は28kgも体重が増えたそうで、そんな妻のことを、アルは「美しく輝いていた」と振り返っている。ばっちりメイクをしたまま出産に臨んだフローレンスは、生まれた娘を、アルの母親の名前にちなんでメリーと命名。目に入れても痛くないほどかわいがりながら育てた。誰よりも娘の成長を楽しみにしていたフローレンスだったが、98年9月、睡眠中にてんかん発作を起こして窒息死してしまった。
母の葬儀で気丈に振舞う姿が印象的だったメリーは、21歳の美しい娘に成長。18日に開催された人気オーディション番組『アメリカズ・ゴット・タレント』に出場し、「私が7歳の時に母は亡くなった。その瞬間から、もう母はいないんだって理解したの」と涙ながらに述べ、「母を想わない日はない」「でも、いつも見守ってくれていることを知っているから。今日も、一緒にステージに立ってくれるってね」と微笑んで見せた。
メリーに付き添っていたアルも番組のインタビューに応じ、「オレたちは、娘に『何をするかはお前次第だが、やるからには世界の頂点を目指せ』と教えてきた。DNA的に陸上競技選手になると思っていけどね」「フローレンスはたくさんの才能を持っていたけれど、歌うのだけではダメだって言っていた。そして、娘はきっと歌手になるって言ってたんだよ」と笑顔で語った。
マライア・キャリーの夫で番組の司会を務めるニック・キャノンに促され、舞台に登場したメリーは、はじけるような笑顔でマイクの前に立った。審査員の1人である、コメディアンで俳優のホーウィー・マンデルから「ジョイナーという名前だけれど、ひょっとして?」と振られると、「えぇ、母はフロー・ジョーです」「そして、父はアル・ジョイナーよ」とハキハキ回答。アメリカではオリンピックへのテンションが上がっていることから、国民的陸上スターの名前を聞いた会場は大いに沸いた。
ホーウィーから「今夜は短距離を披露してくれるのかな?」と聞かれ大爆笑したメリーは、「いいえ、私は歌手としての道を進むことにしたんです」「小さい頃からの夢なんです」と言い、「今夜、夢が叶うといいね」と声をかけられると、微笑みながら、舞台袖に立つ父親をチラッと見た。アルはドンと構えながら笑顔で娘を見守っていたが、メリーが歌い出し、その歌声に審査員たちが驚きの表情を浮かべ、会場から歓声が上がると、感激で顔がクシャクシャに。胸に手を当て顔をおおい、必死に涙を堪えた。
メリーは、サラ・バレリスの「Gravity」を、力強い美声で熱唱。歌い終わると観客はスタンディングオベーションを送り、メリーは溢れる涙を必死でぬぐい、笑顔で応えた。ホーウィーから「素晴らしい。ここにいるみんな、君と恋に落ちたよ」と言われ、辛口で知られる審査員ハワード・スターンは「君はこの30秒間、オレに鳥肌を立たせ、虜にしたよ」と高く評価。美容整形をやり過ぎたのか、ずっと引きつった表情になっているシャロン・オズボーンは「ステージの上のあなたは本物。みんなの心を動かしたわ」と評し、賛美の言葉を贈った。
メリーは、見事、審査員3人から合格をもらい、次にラスベガスで開催される戦いに駒を進むことができた。そして、この番組を見たUSオリンピック陸上選考委員会から、「ぜひ、今月末の陸上競技選考会で国歌斉唱を務めて欲しい」と大役をオファーされた。委員会は、「母親のように、自分の夢を叶えようとしているメリーの姿に心打たれた」というコメントを出している。
女の子を産む、そして娘は素晴らしい歌手になると予言したフローレンスは、実は自分の死も予言していたという。彼女は、毎朝起きると、すぐに夢の話をアルにしていたそうだが、ある朝、何も話さず泣いていたとのこと。そして、「娘には母親が必要。母親のない子として育って欲しくない」と言い、アルに「もし、私に何かあったら、再婚してね。メリーのために。お願い」と頼んだというのだ。アルは笑いながら、「もし、オレに何かあっても、再婚するなよ。呪ってやるからな」とジョークで返したそうだが、フローレンスは「再婚してね。私がその相手をあなたのもとに送るから」とも言ったそうだ。
妻に突然先立たれた後、アルは悲しみに暮れ、彼女の折れた爪を小箱に入れ大事に取っておくほど精神的に落ち込んでしまったという。なかなか立ち直れなかったそうだが、数年後、ある女性に出会い、心を動かされた。女性は、アルだとは知らずに「フロー・ジョーが亡くなって娘さんが可哀想」と言ったそうで、その日をきっかけに2人は頻繁に会うようになり交際に発展。03年にアルは、フローレンスの予言通り再婚をした。
メリーは高校時代、偉大なる実母の名に苦しめられた時期があった。母の足元にも及ばないと知り、スポーツに興味を失い、部屋に引きこもってしまったそうだ。その時、アルは、フローレンスが遺したメリーへの手紙を思い出した。手紙はメリーが2歳の時に書いたもので、「16歳になるまで、開けないこと」と封筒に記されていたという。メリーは手紙を読み、みるみるうちに元気を取り戻した。手紙には、「あなた自身が好きなこと、情熱を持てるものを極めなさい。陸上なんてしなくていいし、ジョイナーの名前にこだわらなくても全然、構わない。好きなことをしなさい」と書かれていたのだ。
母譲りの美しい瞳を持つメリー。神秘的な女性だったフローレンスの予言通り、素晴らしい歌手と呼ばれる日も、そんな遠くはないだろう。まだ駆け出しのメリーだが、今後の活躍に注目したい。