なんとなく恋して仕事して悩んでいたい。「steady.」を覆うボヤっとした空気
「steady.」の女性誌レビューを始めた時は、男性にこびこびで計算高い内容の雑誌なのかと思っていましたが、よく読んでみると「会社で嫌われなければいいなー」「彼氏もできたらいいなー」と受け身で、読者があまりアグレッシブではないことが見えてきました。特集も「みんなが買った」「みんなと一緒」というテーマが多い。「なんとなく仕事をして、なんとなく恋愛したくて、なんとなく女友達もいて、でもなんとなく悩みもあって……」という女性は想像以上に多いんだなということを、この雑誌から知りました。
<トピック>
◎フェミカジOL・みっこと、シンプル上手OL・夏希のプチプラ3カ月着回し
◎1万人OLがリアルに買ったものランキング
◎馬場園さんのからあげ(ハート)エブリディ
■「なんとなく」で人生を渡り歩く女たち
今月の「steady.」も、そんな迷える読者のために丁寧にアンケートを取り、細かく企画したページが満載です。まずは、「フェミカジOL・みっこと、シンプル上手OL・夏希のプチプラ3カ月着回し」というページを見てみましょう。ほかの雑誌と同じようなコーディネートページですが、今回は、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)でおなじみの心理学者・植木理恵さんを招いて、「コミュニケーション美人になれるレッスン付き」ですよ。
とりあえず、「みっこ」の設定は、電気メーカーの事務職。内気で不器用でコミュニケーション下手な性格なために、朝、同僚に会っても小声でしかあいさつできない。取引先の人とふたりっきりになっても、何を話していいかわからず、「先輩帰ってきてー!」と心の中で叫んでしまうほどの小心者。一方、「夏希」は、飲食事業を展開する会社の企画推進部に所属。強気で負けず嫌いな性格で、忙しい時は同期が話しかけてきても適当に返事をしてしまったり、デキる女テンションで外部のデザイナーの「加地さん」と話してしまったために、相手を困惑させてしまう、空気が読めない女です。
この2人はもともと親友で、2人が女子会で会う場面もあるんですが、なんて細かく作りこんでいるんでしょう……。しかも、中には植木さんによるコミュニケーションポイントなども挟み込まれて至れり尽くせり、なんだか涙が出てきそうです。
オチとしては、「みっこ」は彼氏の転勤がきっかけでプロポーズされるも、最近興味が出てきたウェディングプランナーへの夢をかなえるため、彼氏に待ってもらうことに。「夏希」は、付き合っていたイサムにお別れして、最初はドン引きさせていたデザイナー加地さんと付き合い始めるという、めでたしめでたしパターンに。「なんとなく嫌われたくない」「なんとなく彼氏がほしい」という「steady.」読者をなんとなく納得させてしまう結果です。
■カブるとうれしい、という感覚
それにしても、今の女の子は「みんなと一緒でいたい」という気持ちが、そんなに強いものなんでしょうか? 今月は「1万人OLがリアルに買ったものランキング」というページもあります。ランキングが高いものを持つということは、誰かとカブる可能性もある。ですが、2012年5月号の「春みんなが買ったトレンドおそろランキング10」という企画といい、「steady.」にとっては、みんなと一緒でいることは、安心できるしポジティブなことなんですね。しかも、この前まで1,000人規模だったのに、いまや1万人のOLにアンケートができてしまう「steady.」の機動力もすごいですが、アンケートを取れば取るほど無難になってしまうというのも真理を突いてますね。内容は、ファッション・靴からビューティ、グルメまで……とにかく無難のオンパレードでした。でもこれ見て安心する人がいるのも事実なんでしょう。
さて、冒頭で「steady.」読者は何に対しても「なんとなく」だと書きましたが、恋愛に関しても、「何がなんでも勝ち組の専業主婦になってやるんだ!」なんていう「CLASSY.」(光文社)や「CanCam」(小学館)のような意識の高さはないようです。今月は「2人に1人は“おひとりさま”!? 恋愛冷え症な今どき男女」という呑気なページもありました。しかも、「2人に1人」なんて、数を出しちゃうと、「なーんだ、世の中に“おひとりさま”っていっぱいいるんじゃん、みんなと一緒なら怖くないもんね」とすぐ気を抜きかねないので危険です。
この特集の結論としては、“受け身をあらためて、相手をちょっと見たくらいでわかったつもりにならないこと”と、“恋愛で一番大切なマインドを変えるのは大変なので、環境から変えること”というアドバイスがありましたが、「なんとなく」な「steady.」読者には、どれくらい届いているのでしょう。
受け身なページの多い中、ひときわ輝いていたのは「馬場園さんのからあげエブリデイ」というページでした。からあげに恋して30年というアジアンの馬場園梓が、自らが選んだ「激ウマからあげ神7」を紹介するというもの。いつもは「私なんて……」と尻込みし、悪目立ちしないことや、でしゃばらないことが美徳な「steady.」にあって、ここまで己の欲望に忠実なページは、妙にキラキラして見えました。
(芦沢芳子)
『食って、恋して、野グソして』みたいな映画のようにたくましく生きなきゃ!
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