“賢い自分”を疑わない若い世代こそ「家庭画報」を読むべき!
今月号の「家庭画報」は、本当に優雅でラグジュアリーなラインナップです。大特集は「美を紡ぐ三か国――ヨーロッパの旅へ」、ほかにも「キハチ流洋食レシピ決定版」「中村七之助――女形の美、その魅力」、夫婦でのクルーズ乗船が前提となっている「船上で過ごす夏の装い」、ザ・リッツカールトン沖縄をはじめ非日常的な写真が並ぶ「ホテルで過ごす、ラグジュアリーリゾート」など、ラグジュアリー、ラグジュアリー、時々叶恭子みたいな波がこれでもか! と押し寄せてきます。
そんな中、極上の輝きを放っているのが、ハリー・ウィンストンの企画広告記事です。ハリー・ウィンストンといえば、最高級宝飾品ブランド。反町隆史&松嶋菜々子夫妻をはじめ、小栗旬&山田優夫妻の婚約指輪もハリー・ウィンストン。あとは、石田純一&東尾理子、スザンヌ、ゆうこりん、そして長谷川理恵……など、なんかアレな面子もハリー・ウィンストンです! ただ、ここは奇しくも「家庭画報」。そんな芸能人の名前を借りなくてもハリー・ウィンストンの価値を理解している読者を抱えているんです。それが証拠にこのページに出ている商品の代金……ネックレス8,110万円、ブレスレッド6,500万円、イヤリング1,640万円!! もちろん、こんな高価な商品がポンポン売れるわけはないのですが、出稿する側も「この雑誌の読者は商品の価値がわかる」と思っているんでしょうね。こういった、広告主と読者の目に見えぬ信頼関係というのは、雑誌の強みだなと再確認した次第です。
<トピック>
◎美を紡ぐ三か国――ヨーロッパの旅へ
◎連載「いのちの色」
◎ハリー・ウィンストンが誘う煌めきの旅
■「かわいい」とは言えない世界がここにある
さて、大特集「美を紡ぐ三か国――ヨーロッパの旅へ」を見てみましょう。ここで言う三か国は、オーストリア、イギリス、デンマーク。特に生誕150年、オーストリアが産んだ天才画家グスタフ・クリムトを大々的にフィーチャーし、彼が手がけた美術史博物館の大階段ホール中央壁画の写真ページは観音開き仕掛け! 記事でもクリムトの生涯と同時期のアートの流れを解説し、彼が生涯のパートナーに送った絵はがきから人間性や制作意識を推しはかったり、作品のテーマを読みとったり。アート専門誌より柔らかく、一般誌のわりには踏み込んだ内容で、クリムトの魅力に触れることができます。
こういった正統派の企画を「つまらない」と切り捨てる人もいるかもしれませんが、「家庭画報」と同誌読者の知的好奇心の旺盛さは見習いたいものです。「かわいい」カルチャー全盛の今、作品を見た瞬間的な感情を「かわいい」という言葉で集約した方が楽じゃないですか。美術史を紐解いて画家の意味を考えたり、小難しい構図から作品を語ったり、作品の主題となっているギリシャ神話や宗教的な背景を勉強するなんて面倒じゃないですか。なんなら『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京系)がうまくまとめた芸術家紹介のVTRや、『PON!』(日本テレビ系)で山田五郎さんが語るうんちくを吸収して、そのまんま知ったかぶりしたいじゃないですか。アートの高尚化への反抗というポーズを取ることで、己の無知から目を背けたいじゃないですか。そういった“怠け者の自己肯定”が恥ずかしくなるぐらい、「家庭画報」の硬派なアート企画や文章は「知る」ことの楽しみを教えてくれます。
以前もお伝えしたように、「家庭画報」は読者からのお便りコーナーに男性からの文章が載るほど、男性読者が少なくありません。こういった骨太企画は理論的な男性読者を意識して作られているのかもしれませんが、それを差し引いても女性でも十分楽しめます。特に「家庭画報」初心者の方、今月は旅行などのアクティブ系の記事が多いので、入りやすいですよ。
■“視野狭窄”ほど恐ろしいものはありまへんで~
今月号の「家庭画報」で、もうひとつ既存の読者層以外にもお勧めの企画があります。染色作家の志村ふくみ・洋子親子によるリレー対談「いのちの色」です。今回は、母ふくみさん(88歳)が哲学者の梅原猛さん(87歳)をゲストに迎え、最終回としてこの連載を締めくくっています。高齢のおニ人ですが、柔和な笑顔に隠された体験とそれによって得た叡智が垣間見えます。
昨年の東日本大震災について、戦争と重複する痛みを感じるというおニ人。実際に内地防衛隊員として九州にいる頃、原爆投下によって終戦となり「いのちが助かった」という梅原さん。原爆で犠牲になった方に対する罪悪感を抱き、それがゆえに福島の原発事故を「文明災」と呼び、安全性よりも文明による“便利”な生活を選んだ歴史を問いかけます。だからといって、短絡的に悲観したり、絶望したり、意見が異なる人への攻撃をしない姿勢が素晴らしい。
梅原「戦争を体験して以来、私の中では戦争を起こした日本に対する憎し意味と日本の文化に対する深い愛情、相反する二つの感情があるんです」
物事の一面を憎み、一面を愛する。本来なら当然の態度なのですが、時に矛盾を孕みますし、自己を正当化するときには持て余す感情です。それを持続するほうが正直苦しい。それでも戦争、60年以上たって起こった震災を実体験から同じ文脈で語り、安易な逃げ道を作らない。こういった姿勢は、なにかにつけて対立軸を作り、他者を非難することで自分を肯定しがちな時流の中で、もう一度立ち戻る原点ではないかと思いました。
「家庭画報」のコアな読者層は50~60代ぐらいでしょうか。志村さん&梅原さん対談もそうですが、雑誌全体の文章も決してやさしくはありません。茶道・華道の家元のインタビューや歌舞伎・能の解説は漢字は多いわ、仏教思想の下地がないと完全に理解しにくいわ。でもそれだからこそ、若い世代の人に手にとってほしいんです。社会人に慣れた20~30代は若さゆえの慢心が出てくるころ。自分と同じバッグボーンを持ち、似たような感覚を共有できる仲間とだけ接しがち。「最近、同じような話ばっかりしてないか?」と自分に飽きてきた頃、「家庭画報」を手にとってみることをお勧めします。“視野狭窄”から脱出できるきっかけになるかもしれませんよ。
(小島かほり)
ハリー・ウィンストンも断りたい人がいるだろうに……
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