旅や食事にうんちくと目的を! 「家庭画報」が担う、文化人育成機能
ゴールデンウィーク真っ最中、観光地はどこもかしこも人・人・人! 中でも、間もなく開業する東京スカイツリー近辺では下町住人からお上りさん、外国人までごった返しているそうですね。そんな中、今月号の「家庭画報」には「東京スカイツリーのある風景を眺めて 塔のいる町」というページがります。青のグラデーションが美しい晴天の真下にそびえるスカイツリー、昨年のクリスマスイブに白色LEDでクリスタルのような輝きを放つスカイツリー、夕焼けの中に浮かび上がるスカイツリー、富士山を望むスカイツリー。こんな美しい写真が「家庭画報」で拝めるなら、現地行かなくてもいいかも! だって現地に行けば、知らないオバちゃんに写真を撮ってとせがまれたり、写真家気取りのジジイに「どけ!」と追い払われたり、携帯電話で全景を撮るために首を痛めたり・口あけながら後ずさったりしなくていいですよ! そうです、「家庭画報」を愛するような人たちはスマートにスカイツリーを楽しむんです。「でもなあ、写真を撮ってあげるとオバちゃんに飴ちゃんをもらえるかもしれないしなぁ……」という方はぜひ現地へ!
<トピック>
◎絶景の美術館に出会う旅
◎豊穣の北海道 新しい美食を訪ねて
◎お洒落で快適な靴を探して
■みんな、最後は知ったかぶりしたいのよね!
今月号の「家庭画報」は行楽シーズンを楽しむ、「絶景の美術館に出会う旅」&「豊穣の北海道 新しい美食を訪ねて」の豪華2本立て。
これまで「Casa BRUTUS」(マガジンハウス)など、あらゆるカルチャー誌で取り上げられてきた美術館ですが、今回の特集では美術館とそれを囲む風景すらアートとして楽しもうという趣旨です。アート好きにはおなじみの金沢21世紀美術館、ポーラ美術館をはじめ、感嘆ものの庭園を擁する足立美術館、1894年に建てられたクィーン・アン様式を忠実に復元し話題を集めている三菱一号館美術館など新旧さまざまな美術館を紹介しています。各館長のお話も面白いのですが、やはりなんといっても素晴らしいのは写真。美術館と調和する風景を切り取った写真は、それ自体が芸術作品のようです。天候、光の加減、確度、季節などすべて計算された1枚だと思うのですが、かえって読者が現地に足を踏み入れた時に「あれ? 写真より全然素敵じゃない……」とがっくりしてしまうのではと余計な心配をしてみました。旅行雑誌の写真が実物よりいいことってザラですしね。
「豊穣の北海道 新しい美食を訪ねて」は、雄大な自然が育んだ野菜・牛を使ったレストラン、そしてチーズ職人の写真とうんちゃらかんちゃらとごたくを並べた説明がびっちり。
想像するに、「家庭画報」読者は旅慣れたお方。その方たちのために、「わざわざ訪れる価値のある美術館」なり、「初夏の北海道を美食をテーマに訪れる」なり、いろんな理由・目的を与えているのですね。経済力には、それと呼応する文化を愛する心が求められますので、「ハワイで日焼け!」「韓国行って、アイドル探し」なんて大声で言えないですもの。美を愛で、食を愛し、体験を蓄積する。それがある程度溜まったらもう、饒舌に語る語る語る(例:石坂浩二)。それこそ平安時代の殿上人から続く、文化人のたしなみっちゅうヤツですよ。
■「三越のチラシ系」という新ジャンル
今月号には「お洒落で快適な靴を探して」「美しい日本の傘」というファッション小物ページも充実しています。靴企画の方は、「モルトン病」「足底べんち」など4大疾患やら、「靴を前後から押してみて、ボールジョイントで曲がるか確認する」といった靴選びマメ知識まであって大充実。その後はずらっと商品紹介に入るのですが、ここに「家庭画報」独特のファッションページのおぼこっぽさが見え隠れします。
まずレイアウト。商品自体はセルジオ・ロッシのフラットシューズ(5万1,450円)、トッズのスニーカーヒール(5万8,800円)、グッチのハイカットスニーカー(6万4,050円)とかなりお高め。グッチのスニーカーは男性誌「MEN’S EX」(世界文化社)あたりで黒バックにライトを当てて仰々しく写真を撮りそうな品なのに、「家庭画報」はなぜかピンクでヘルシーに仕上げてきます。全体的に高級感漂う内容なので、逸品をわざわざ「これグッチ!」とアピールしないのが「家庭画報」の矜持なのでしょうが、それにしてもフツーに置かれてますね。
そして、問題はコーディネート。今回は靴に合わせたコーデでモデルがポーズを撮っているのですが、これがいかにも「家庭画報」らしい仕上がり。30代の正統派美人のモデルに、茶系の地味~な服を着せるというアレです。洋服をバラしてみると、値段もかなりお高めなのに、「これ、イケてんのか?」と思いを巡らせ、2、3周して「オシャレなのかも……」と自分を納得させる強制力をもった品々です。いうなれば、「三越のチラシ系」というジャンルですね。「家庭画報」は、やっぱり下界とは違う水が流れているんだな~というのが正直な感想。
「美しい日本の傘」でびっくりしたのは、皇室御用達で職人の手仕事で高級傘を作り続けている「前原光栄商店」さんのビニール傘。「雨に見舞われることの多い春の園遊会で、顔が傘で隠れてしまわないように」と考案されたビニール傘はなんと1万5,000円。ベーシックな黒の傘は男性用で5万2,500円、女性用で2万1,000円。「使うほどに思い入れが深まり、忘れても必ず取りに行く、傘立てに預けず席まで持って行く……というお客様の声を聞くこともあります」ってそりゃそうでしょうが!! 5万円の傘を取られるんじゃと心配で、おちおち傘立てなんて入れられませんよ!
貧乏人には心配の種にしかならない傘企画ですが、和傘と洋傘の違いやタッセル(ハンドルについている紐束)の正しい使い方、羽織裏を変える「粋」な文化など学べる部分も多く、勉強になりました。
ほかにも山種美術館館長による特別講義として日本画の修復というマニアな企画があったり、森昌子・小宮悦子という異色の組み合わせによる更年期対談があったり(こちらも熟女マニア向け?)と豊かなトピックスで大満足の今号。筆者の中で結構な衝撃でしたが、「人気ガーデナーの公開庭園へ」という企画には、英国人イケメン庭師が登場していました。ピチピチというほどの若さはありませんが、バンダナを巻き、汚れたつなぎを着た姿からは男臭さがムンムン。茶人とか陶芸家とかカピッカピ~に乾いた男性陣しか出てこない「家庭画報」においては、貴重な写真でした。読者のお姉さま方が興奮しちゃうんじゃと心配しつつ、心乱れて「婦人公論」に載っちゃうようなアバンチュールでも体験しないかと期待しまいました。体験された方、ぜひ「婦人公論」の読者手記にご応募を!
(小島かほり)
毎号、ファッションページは必見よ!
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