紫外線は美に必須だった!? “悪者”の恩恵から探る美と健康の両立点
女性にとって紫外線とはできるだけ避けたいもの。日差しが強くなるこの時期からテレビでは日焼け止めのCMが流れ、女性誌では紫外線がいかに肌に悪影響を及ぼすか説いている。しかし、紫外線は花粉症や乳がんなどのリスクを下げ、うつ病にも効果があるということが最近の研究によって明らかになりつつある。医師・日本機能性医学研究所所長の斎藤糧三氏の著書『サーファーに花粉症はいない』(小学館)では、これまで悪者とされていた紫外線の必要性が説かれている。美容の大敵である紫外線との付き合い方について斎藤氏とコスメティックプランナーの恩田雅世氏に語ってもらった。
――これまでネガティブな印象しかなかった紫外線ですが、恩恵のほうが大きいとは意外でした。紫外線から合成されるビタミンDにその理由があると。
斎藤糧三氏(以下、斎藤)歴史からみてみると、人類の原型となるヒトはアフリカで生活していたんですね。紫外線が届きにくい北側に住むようになったのは約1万年前くらい、ごく最近のことなんです。白夜といった紫外線の届かない地域では、その代替としてアザラシの肝なんかを食べてビタミンDを摂取して生きてきました。しかし30年前から美容皮膚科学が発展して「紫外線はよくない」という流れが生まれた。
恩田雅世氏(以下、恩田) 女性誌では、シミやシワの原因となる紫外線は悪とされています。しかし紫外線を浴びない生活で花粉症やうつ病を発症する可能性が高くなってしまうのでは、美のみらなず健康という観点からみても本末転倒ですよね。キレイになりたくて美白ケアだけにお金や手間をかけても、まずは健康という土台がしっかりしていないと美しさからは遠のくと思うんです。今の日本では、日にあたるのが好きな人が「そんなに焼けちゃって大丈夫?」と周りに言われるような風潮があります。伊達公子さんのような日に焼けている健康美の女性は減っていますね。
斎藤 紫外線で皮膚がんのリスクが高まると言われていますが、悪性度の高いメラノーマという皮膚がんは紫外線で増えませんし、むしろ、紫外線を浴びないことで内蔵がんの確率が上がります。結果として、日光を避ける事で55倍の死亡リスクに身を置くことになるという研究者もいます。特に女性はビタミンD欠乏によって乳がんの確率が上がります。ですから美白ブームによって紫外線を避けるという生活は望ましくないですね。昔は、成長過程で紫外線を浴びることの重要性を考え母子手帳に「赤ちゃんをおひさまに当てましょう」という言葉があったのですが、いまは「当てないように」となるくらい一般論がひっくりかえちゃたんです。
――紫外線とビタミンDの関係について説明してください。
斎藤 紫外線が皮膚に当たることで、ビタミンDが合成されます。ビタミンDは免疫機能に関与しているんですが、先進国では日光を避ける習慣から多くの人がビタミンD欠乏に陥っているんです。実は、動物園にいる生き物もビタミンD欠乏で免疫力が落ちて死んじゃったりするんですよ。
恩田 太古から自然の恩恵を受けて進化してきた人間の生理機能を無視してはいけないんですね。現代人は突然変異で誕生したわけではないのですから、ずっと大昔の私たちの祖先の生き方を無視して、いきなり紫外線を浴びなくなる生活をしては不調が出て当然かもしれませんね。現代の私達がビタミンD欠乏症になりやすいライフスタイルとはどんな生活でしょうか?
斎藤 日光を浴びない、日焼け止めをしっかり塗ってる、夜型人間なんてもちろんダメです。昼の12時前後に外に出ることのない人、日傘をさしてる人なんかはほぼ足りてないでしょうね。季節でいうと、5~10月くらいで日光をしっかり浴びておかないとダメです。
恩田 ヨーロッパはバカンス先で日に焼けているのがステイタス、という風潮もありますよね。
斎藤 あれは体感的に知っていたんでしょうね。一年を乗り切るにはあれぐらい浴びておかないといけないんでしょう。メンタルヘルス、季節性うつにもビタミンDは有効です。気分が滅入ってきて笑えないようでは美しくないですよね。PMSの類にも有効である可能性があります。
恩田 太陽を浴びると気分が晴れるのは気分的なものかと思っていましたが、ビタミンDの作用も働いていたんですね。「太陽の恵み」ってよく言いますけど、私たち人間にとって単なるたとえではないことがわかりました。
斎藤 光そのものももちろん関係ありますが、ビタミンDを経由してもありますね。慢性鼻炎、物質過敏症もおそらくビタミンD欠乏ですね。だから、花粉症の人はラッキーです。ビタミンDが足りてないことが血液検査をしなくてもわかりますから。体質的に紫外線が無理な場合でも、日光を浴びるとかタンニングマシーンに入る以外に、ビタミンDサプリメントがありますから。症状のない人は2,000IU/日、アレルギーの人は4,000IU/日が目安です。
恩田 サプリ、日光浴、タンニングマシーンとビタミンDを体内に取り込むのに選択肢があるのは女性にとってはうれしいです。私も日焼けをすると肌が赤くなってしまうので。
――ビタミンDを自身で合成するにはコレステロールが必須とのことですが。
斎藤 皮膚にきているコレステロールが紫外線を浴びるとビタミンDに変わるんですよ。最近の若い女性を診ていても、だいたいコレステロールが足りてないですよ。目安として肉はいまの倍、500gは食べていい。卵だと一日10個は食べていい。
恩田 10個! 一般的には、コレステロールやタンパク質はなるべくとらないほうがいいというイメージが定着し、野菜中心のほうが賢い食生活だという風潮がありますよね。それらを我慢することで美に近づいてると思いきや、健康から遠ざかるなんて驚きです。どうしてコレステロールやタンパク質は除け者にされてきたのですか?
斎藤 それで薬を売りたい人がいっぱいいたからでしょう。でも、それもちょっとずつ変わってきて、昔ほど悪者じゃないと認識されてきています。食事から摂取するコレステロールは心配することではないですよ。
――コスメティックプランナーの恩田さんとしては、斎藤先生のお話を聞いて美容業界の現状に感じることはありましたか?
恩田 現代は、キレイになるにはこれをしなきゃ、あれは食べちゃいけない、という「我慢ありきの美」が先行しすぎている気がします。美に近づくためにいろいろ我慢して病気になってしまったら「それってキレイなの?」と疑問に思いますね。肉を食べるとなんかパワーが出る、日に当たると気持ちいいといった実感に素直になっていくことが「健やかな美」の近道なのかもしれません。お日さまが出ている時にちゃんと日を浴びて、楽しく笑っておいしくごはんを食べて、そんな「ナチュラルライフ」が「ナチュラルコスメ」を使うよりも手っ取り早く美しくなれる近道なのかもしれません。
斎藤糧三(さいとう・りょうぞう)
日本医科大学を卒業後、同大学産婦人科学教室で助手を勤める。その後、美容クリニックで美容皮膚科治療を修得、国内外のアンチエイジング学会や栄養療法のワークショップに参加。今日の栄養療法、点滴療法、ホルモン療法、美容皮膚科を統合したアンチエイジングクリニックモデルを完成させる。慢性疾患の根本治療を行う次世代の治療「機能性医学」を日本人として初めて臨床に導入し、アトピー性皮膚炎、乾癬(かんせん)、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)などの慢性皮膚疾患、副腎疲労症候群、線維筋痛症などの根本治療を行っている。
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恩田雅世(おんだ・まさよ)
コスメティックプランナー。数社の化粧品メーカーで化粧品の企画・開発に携わり独立。現在、フリーランスとして「ベルサイユのばらコスメ」開発プロジェクトの他、様々な化粧品の企画プロデュースに携わっている。コスメと女性心理に関する記事も執筆している。
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