ぜい沢な暮らしから、物語性のある暮らしへ! 「VERY」の静かな変化
光文社の女性誌の世代交代が進み、「VERY」の読者はかつてのように「単に高くていいものを持っている、人もうらやむようなぜい沢な生活を送っている」=「自分が輝く」という価値観ではなく、むしろ「自分が大切にしていたり、物語のあるものを消費するほうが意味がある」という方向性に変わっているのがひしひしと感じられます。
その一例が「母ゴコロエコゴコロ」。連載が始まった当初は、「VERY」がエコを取り上げることに違和感がありましたが、今や「VERY」読者が“ストーリーとして語りやすいエコ”を考えるのも当然。ただ、エコに真剣に寄りそっている「ku:nel」(マガジンハウス)や「天然生活」(地球丸)と違って見えるのは、エコの精神を重要視しているのはなく、「長く使うことによって精神が宿るモノ」が語られていること。
今月号の「母ゴコロエコゴコロ」には伊東美咲が登場し、子どもが使っている漆のお椀を「使い込めば使い込むほど艶が出て、生き生きとしてくるんです」と紹介していますし、井川遥の連載「はるかスタンダード」でもヴィンテージスカーフの良さを「一枚として同じものがない」「一期一会」と語っています。また、今月から始まった「スタイリスト大草直子さんのオシャレって財産」という新連載にも「使い捨てファッションは、もう卒業」と、スイスの高級時計メーカー、ジャガー・ルクルトの時計が紹介されています。この時計は、マニファクチャールといって、時計の外側から中の機械部分に至るまで自社で手掛けているのが特長。単に高くて新しいものではなく、一生もので、唯一無二で、物語のあるものにこそ価値があるとでも言いたげです。
<トピック>
◎母ゴコロエコゴコロ 伊東美咲
◎すれ違いがち多忙夫婦の技ありコミュニケーション術
◎なりたい私になるための毎日服の揃え方
■完全に夫を監視してるだけしょ!
「すれ違いがち多忙夫婦の技ありコミュニケーション術」は、以前の「ご多忙イケダンの“癒やし方”」(2011年11月号)に通じるものがあります。前回は「不定期な交換日記」や「お疲れ様メモ」などで夫婦のコミュニケーションをとることを推奨。今回は、「会えない時間が多いから、頻繁に本を貸し借り」「Facebookで彼の友達を呼んでサプライズパーティ」「夫婦ランニング」「夫婦連絡帳作り」「グーグルカレンダーでお互いの予定をチェック」「子育てが共通の趣味なので絵本を頻繁に購入」「本を貸し借りして主人に読んで欲しい部分にマーカーでラインを弾く」「週1回、子どもの習い事の待ち時間にスタバで家族会議をする」というものがありました。
お互いの予定を把握し合うことが基本で、その次に本を通して価値観を共有するというものが続く。特集に出てくる夫婦、主に奥さんの考える方向は一緒なんですね。よくモテ本に書いてある「男性とは自由が好きなもの。強要すると逃げたくなる」というセオリーとは真逆のことが家庭ではまかり通り、すなわちそれが結婚というものなんでしょうか。それとも、リリー・フランキー氏の言うように「イケダンなんて昼間っから浮気するもの」だからこそ、こうした奥さんの要望にも答えてくれるんでしょうか。
「VERY」読者にとっては、イケダンも一生もので、唯一無二で、自分に物語を与えてくれる価値のあるものと捉えられているかもしれないですね。今月号は「今どき、夫婦の服は『ペアよりシェア』」というページもありますが、「夫の服を借りてオシャレに生かす」というのは、確かに独身者には絶対できない特別な価値を持つコーディネートです。自分にそんな価値を与えてくれる夫と一生付き合っていくためにも、このような企画があるのでしょう。
■リカコっていったらアッチでしょ!
改めて、今月号の第1特集の「なりたい私になるための毎日服の揃え方」は、キャラ別に洋服が紹介されているので、コーディネートに幅があって、どんな読者にも幅広く使える特集です。ただ、その「キャラ別」の設定が細かく、突き詰めれば「VERY」読者のなりたい女性像を3パターンで表現しているので、じっくり見てみましょう。
【めざせいい女キャラ!の畑野田ヒロコ’sプロフィール】
・アメリカ留学を経て外資系日用品メーカーのマーケティング部の管理職
・11カ月の娘を週2でシッターに預け、その日を残業デーに
・好きなテレビ番組は「セックス・アンド・ザ・シティ」のキャリア版「リップスティックジャングル」
【めざせ好感度キャラ!の滝野マコ’sプロフィール】
・短大卒業後大学教授の秘書に。W大卒で商社勤務の夫の赴任先のインドネシアで2年過ごしたことも
・4歳の息子がコンサバな私立幼稚園に入園したため、小学校お受験のことも気になっている
・好きなテレビ番組は「理想の息子」「運命の人」「NEWS ZERO」
【めざせアネゴキャラ!の鈴木リカコ’sプロフィール】
・都内の大学卒業後アパレルに就職、テレビ局で働く夫との間に7歳の息子がいる
・息子が小学校に入学(公立)したので、本来好きだったハンサムファッションがしたい
・「情熱大陸」に出ている人を尊敬。自分磨きもしたい。
・憧れの人はジェーン・バーキン
三者三様ですが、同じ人物の中にあるさまざまなT.P.O(仕事するとき、学校表示などできちんとするとき、プライベートでアクティブに動くとき)に対応できているのはもちろんですが、読者の現実と憧れにも対応していて作りこまれた設定に脱帽。じっくりプロフィールを読んでみると、ヒロコはアメリカかぶれ、マコはちょっとミーハー、リカコは意外と周囲に影響されやすい……など、それぞれのキャラに「抜け感」も作っているところに唸らされました。
今月号は広告も多いためかズッシリと重みがありましたが、中身も震災から一年の特別拡大版の「コ・ジ・マ・メ・セ・ンのもしかしてVERY失格!?」や、プロサッカーの長友佑都選手を女手ひとつで育て上げた長友りえさん、同誌モデルでシングルマザーの鈴木六夏さんによる「シングルマザーへの応援歌」、お受験に挑んで勝った4人の戦士に聞く「パパ達のお受験戦争」という濃い企画もあり、読みごたえもズッシリの一冊となっていました。
(芦沢芳子)
「VERY」には笑わせてほしいのに……
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