「捨てたいと言うより死んでほしい」、「婦人公論」の“夫断捨離”特集
「婦人公論」3月22日号の特集は、「人生の『断捨離』をはじめよう」。え、今さら断捨離特集? とお思いの方、よーく見てください。“人生の”断捨離と書いてあります。要は、モノを捨てる方法を解説する特集ではなく、人間関係やお金のムダなどを見直しましょう、と提案することが主たる目的の特集なわけです。
お得意の読者アンケートによると、「私が一番捨てたいもの それは“夫”です」とのこと。単に、これが言いたかっただけなんじゃないか、と思ってしまうほどベタな「婦人公論」的展開です。それを今さらこのレビューで取り上げるべきか迷ったのですが、も~いかにも「ここ、いじって! 話題にして!!」といわんばかりの誌面展開なので、しょーがないから書くことにしました。いや~、それにしてもベタすぎるだろ!
<トピック>
◎人生の「断捨離」をはじめよう
◎女の事件簿 彼女たちの殺意と魔性
◎岡田准一×富樫倫太郎「苦難を乗り越える勇気は歴史小説に教わった」
■捨てたいというより……
というわけで、読者アンケートによれば「あなたの捨てたいもの」の1位が「夫」だったわけですが、割合を見ると回答者100人のうちの13%なんですよ。これまで折りにふれ「夫を捨てろ」「夫はジャマだ」とサブリミナル的なメッセージを送り続けてきた「婦人公論」の読者100人のうちの13人ですからね、意外と控えめというか、まーそれくらいはいるだろうと納得できる数だと思います。決して80%や90%の人が「夫イラネ」と答えたわけではありませんので、世の既婚男性はご安心ください。にもかかわらず、中吊りにデカデカと「読者100人の答え『断捨離したいのは“夫”です』」と書いてしまう「婦人公論」のモラルはいずこ……。そのうち「ツチノコ発見!?」「宇宙人とのセキララ婚外恋愛」といった見出しを書くようになるでしょうね。ちなみに、2位は「過去」で9%、3位は「衣類」8%でした。
回答の割合はともかく、「夫」と答えた人のコメントはかなり強烈でした。「捨てたいと言うより死んでほしい」(50歳・会社員・結婚27年)、「先が長くないので我慢しています」(77歳・主婦・結婚45年)といった、そのまんまびっくりの意見や、「テレビつけて寝転がっているだけ。見るのもつらい」(64歳・バイト・結婚42年)というあるあるネタ、「あんたの母親のうんこまで始末したのに、『ありがとう』のひとことがない!」(70歳・日舞師匠・結婚45年)といったうんこネタまで! そして、驚くべきことは、これら夫断捨離問題が次号まで続いているということなんです! 次号の特集は、「幸せな離婚・不幸せな離婚、その差はどこに?」。美元やRIKACOといった、同性から共感されるとは思えない方々までなぜか登場するようです。「婦人公論」、春の離婚祭り。冷静に考えると恐ろしい雑誌です。その洗脳活動の先にあるものはなんなんでしょうか。
■ブスも美人も根本は同じ!?
「女の事件簿 彼女たちの殺意と魔性」という寄稿文3本立てが掲載されていました。そのひとつに現在裁判中の首都圏連続不審死事件を扱った「女はそそられる! “ブスの壁”を乗り越えた木嶋佳苗の欲望」があります。書き手の北原みのり氏によると、公判には、「被害者男性に、同情ができない」「佳苗に憧れている」と言い傍聴を希望する女性たち“佳苗ガールズ”の姿が増えているのだとか。
北原氏は次のように語ります。「この社会に生きていれば、不美人であることの不遇を、女は痛いほど感じている。(中略)そんな社会で、佳苗は、軽々と“ブスの壁”を越えたように見えるのだ」「不美人を笑う男たちを嘲笑うように利用したのは、不美人の佳苗だ。そこに女は、佳苗の新しさをみる」
この事件と対照的なのが、オウム真理教・元幹部の平田信被告をかくまっていた斎藤明美被告を分析した「17年の逃亡、出頭で自己顕示欲は満たせましたか?」。書き手は岩井志麻子氏です。明美被告は、美人であったにもかかわらずおとなしくずっと目立たない存在だったそうで、周囲からは「まさかあの人が」と驚かれているとのこと。岩井氏自身も田舎の地味な子どもだったことから、「勝負できるものを何も持っていないにもかかわらず、自己顕示欲の強い野心家だった。『こんなはずじゃない』とずっと思っていた」と明美被告の心の内側に入ります。
そして、岩井氏は、「平田との逃避行は彼女にとって喜びだったのではないか」と分析。「自分より格上の尊敬すべき存在、しかも背が高くがっしりしたいい男が、世界中で“私”しか頼れない状態に置かれている。(中略)地味に生きてきた彼女にしてみれば、思いもよらない人生のめくるめく急展開でしょう」「17年に及ぶ逃避行を可能にしたものは、平田への愛や執着ではなく、ようやく手に入れた人生の輝ける時を手放したくないという思いだった」とつづります。
数々の男を手玉に取ったブスと、ひとりの男をかくまった美人。一見、見た目も性質も正反対のようなふたりですが、これらの寄稿文によれば両者とも男性からの評価と自意識との間にギャップを抱えていたことがわかります。それが原因となったのか定かではありませんが、結果として犯罪に走ってしまう。そしてそんな犯罪者に、共感を抱く女性がいる。自分もそっち側に行く可能性があるかもしれないとすら思ってしまう。……書き手も佳苗ガールズも読者もどいつもこいつも、自意識過剰ですね。どんだけ自分が好きなんだと、自戒を含めて呆れるばかりです。私たち女性は、ブスに生まれても美人に生まれても、ものごころついた頃から外見に対する他人の評価を意識せざるを得ない状況に生きてきました。そして、ブスだから幸せになれない、美人なのに幸せになれないと悩んできました。ソラ、自意識が過剰に発達するのもしかたありません。女の自意識は本当にやっかいなものだと、この二文を読んでつくづく感じました。
このほか、今号は歴史小説「軍配者」3部作の富樫倫太郎氏と、その愛読者という岡田准一の対談「苦難を乗り越える勇気は歴史小説に教わった」が掲載されています。歴男ぶり全開にしてトークを弾ませている岡田准一。読者置いてけぼり感のある対談ですが、だからこそイイ。男のロマンを感じる=なんかよく分からん世界に夢中になっている男萌え、ですよ。みなさんも存分に萌えてください!
(亀井百合子)
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