タモリ+NHKだから許される? フジの”あの番組”に潜入した『ブラタモリ』
今回ツッコませていただくのは、『ブラタモリ』(NHK)。もともとNHKの新番組発掘プロジェクト『番組たまご』から誕生し、2009年10月からシリーズ化。「古地図好きのタモリとともに、現代の街並みに見え隠れする歴史の痕跡を探し歩く『探検散歩番組』」という内容だが、実に「タモリらしさ」を尊重しているだけに、スタート当初は「『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)のパクリをNHKがやり始めたのか」といった印象が強かった。
だが、最初はタモリに主導権を預け、完全にタモリのセンス頼みに見えていた番組が、放送回数を重ねるごとに、タモリのセンスに「NHKらしさ」がうまく溶けこんできているように見える。たとえば、それを強く感じたのが、第3シリーズ「第16回 新宿誕生編」(3月1日放送分)だった。
「新宿」で「森田一義」といえば、無条件に脳内で見えてきてしまうのが「アワー」の文字(もちろん「森田一義アワー」といえば、フジテレビのアレです)。今回は、なんとそこをスルーするどころか、タモリの”職場”のスタジオに久保田祐佳アナウンサーが潜入し、タモリの楽屋も見せてくれるという貴重な内容となっていた。
本家の局の番組どころか、あの番組自体においても、タモリの楽屋なんて、あまり見たことない。「毎日タモリがステージに出てくるあそこに階段が」とか、「楽屋にあんな本が……」とか、サービス満点の内容である。それを引き出せるのは、やっぱりNHK+タモリの力ではないだろうか。
また、タモリが「電車の一番近くにありながら一番遠い」と評した京王線・旧初台駅の潜入も見応え十分だった。ホームや階段が、通り過ぎる電車の間に、40年前のまま残されている様子を見ることができる番組は、そうそうないだろう。
ところで、民放の番組には「ダウンタウン・浜田雅功が司会」という軸だけでどんどん内容が変わる番組や、好感度の高い「さまぁ~ず」を据えただけで、内容をコロコロ変えて結局、さまぁ~ずがいらなくなってしまったクイズ番組など、企画と出演者とがかみ合わない番組が非常に多いもの。
そんななか、歴史モノとしては考証の甘さを指摘する声もときどき聞かれるけれど、それでもタモリのセンスと、NHKが長年培ってきた取材力・人脈・アカデミックな地盤とが調和し、「最もNHKらしく、最もタモリらしい」境地を切り拓いた同番組は、企画と出演者の幸福な出合いとして稀有な例かもしれない。
(田幸和歌子)
久保田アナから”タモさん転がし”テクも学べる
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