「美ST」が出産・主婦ライフを強力プッシュ!「高齢出産は幸せホルモンが豊富」
「美ST」今月号の表紙は、菅野美穂。巻頭にインタビューが掲載されているのですが、これが衝撃的でした。年上の友だちから「少しは痛みをガマンしないとキレイになれない」「美人の違いは、わずか1ミリにある!」といったことを教わり、美容には多少のストイックさが必要だと感じているという菅野。
「でも、その一方では、このストイックな”頑張ってる感”がユーモアになったりする。『美ST』では、まさにそれが表現されていると思うのですが、突き詰めると、美容と笑いはすごく近いところにあるんですね」
と、真理を端的な言葉でピタリと言い当ててしまったのです。そう、美容isユーモア、頑張ってる私is笑い。みなさんも薄々分かっていたと思います。が、しかし、「美ST」誌上ではっきり明言しちゃおしまいよ、てなところがあるわけで。「美ST」と蜘蛛の糸一本でつながっていた中年女のコの大切な何かが、カンノちゃんのひとことでぶち切られて、くるくる回りながら地の底に落ちてしまった気がしますよ(泣笑)。
<トピック>
◎特集「輝け! 『主婦美オーラ』選手権」
◎誰にも言えない! 40歳の「美人生相談室」
◎ママになったらなぜキレイ?
■森高がオバサンになっても
気を取り直して、特集「輝け! 『主婦美オーラ』選手権」を見てみたいと思います。お金や時間がない主婦でもできる、主婦だからこそできる美容情報を、現役主婦らが登場して教えるという企画です。トップバッターに森高千里が登場。「今朝も子供たちのお弁当を作ってきました」「景品でもらったミスタードーナツのハンドジューサーで(季節のフルーツジュースを)たっぷり搾る」「主人(江口洋介)も『家庭を守ってくれるから安心して仕事に行ける』と言ってくれる」とすてきな奥さんぶりを猛アピール。仕事をセーブしてもう12年近くになるそうですが、外見はサイボーグのようにかつてとほとんど変わっていません。スゴイ!
この特集で気になったことは、森高をはじめ、登場する主婦たちがただ美容法を教えるというだけでなく、「主婦で幸せ」という価値観をしつこいほどに強調している点です。むしろ、主となっているのは美容情報よりもそっちと思えるくらい。森高も「家族がいる安心感があるから、心にも余裕が生まれました。だから自分と向き合えるようにもなって、安定してるのかな」「家族を守れる自分の役割に、ほのぼのと幸せを感じるのです」と語っています。一般主婦たちのコメントにも、「美容タイムは娘との大切なコミュニケーションの時間」「みんなが幸せでいる安心感が主婦のキレイを作るのでは?」「家族のために生きていくのが私の幸せであり、元気の源です」といった言葉が散見されます。
なんですかね、この家庭推し。主婦がキレイにしていると、「子どもほったらかしでエステ行ってんだろ」とか「ダンナの金を美容につぎ込んでるんだろ」とか、なにかと我欲が強そうなイメージを持たれがちなので、「私たち、ちゃんと尽くしていますよ」と訴えたいのでしょうか。いや、それだけではないような気がするのです。もっとなにか別の意図が隠されているような……。というのも、今月号では別に次のような企画も組まれていたからです。
■ママになってキレイが完成する
その企画というのが、山王病院院長の堤治氏と、初産年齢42歳のNOKKO、初産年齢38歳の高嶋ちさ子ら40代ママによる対談「ママになったらなぜキレイ?」です。高嶋が「うちの息子の幼稚園には40代のお母さんがすごく多い。みんな頑張っていて綺麗ですよ」と言えば、NOKKOも「(マタニティーブルーは)全然なかった。心も体も満ち足りていました」と35歳以上の高齢出産をアゲアゲ。堤氏も次のように語ります。
「(マタニティーブルーは)若い方には多いですね」
「高齢出産の方は落ち着いて子育ても楽しんでいますよ」
「キャリアウーマンは結婚・出産が後回しになりがちで、紆余曲折経て出産した方も多いので思いの深さが違うんです」
「授乳や笑いかけでセロトニンやプロラクチンなど、幸せホルモンが出ます。高齢出産の方はそれが豊富で、出産後も美しくいられるのかもしれませんね」
も~、「I LOVE mama」(インフォレスト)のヤングなママ読者にケンカを売ってるんじゃないかってな発言のオンパレード! 一応、年齢が上がるにしたがって卵子が老化し、妊娠しにくくなるという負の一面も語ってはいるんですけどね。堤氏によれば、「曲がり角は36歳。42歳までは不妊治療の成績も良好ですが、45歳を過ぎると成功率10%切ります」とのこと。卵子の老化については、つい先日もNHKの『クローズアップ現代』「産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~」という番組で取り上げられていました(2月14日放送)。この番組を見て衝撃を受けた女性も多かったようです。参考までに同番組のデータでは、「35歳で不妊治療をした人のうち、子どもが産まれた割合は16.8%。40歳では8.1%」。こっちでは緊迫感が強かったんですが、「美ST」の情報だと42歳までは十分いけそうな気がします。
堤氏はその他のリスクについても、読者を安心させるのがお上手です。「(高齢になると)流産リスクも高まり、ダウン症リスクも40歳で1%、45歳で5%まで上昇すると統計で出ています。とはいえ、2時間で産んだノッコさんみたいな方もいらっしゃる。お産は筋書きのないドラマ。若くても難産、高齢でも安産ということも」とのこと。よく読むと、流産やダウン症の話と難産の話がゴチャゴチャになってるんですけど、これはあえて分かりにくくして何かをごまかしているのでしょうか。対談のしめくくりは、高嶋と堤氏のこんな言葉でした。
高嶋「仕事の喜びは一瞬だけど、子供のいる幸せは継続していくもの。この幸せがなくなったら、と思うと怖くて。悪いことを考えちゃいけないし、欲を持ちすぎてもいけない。神様、これ以上は望みません。ずっとこの幸せが続きますように、という思いで毎日暮らしています」
堤「皆さんの笑顔、素敵ですよ」
象徴的なやりとりです。これまで老いという自然の摂理に逆い、コスメや美容医療などあらゆる手を尽くして見た目マイナス20歳と、ある意味神の領域に達した「美ST」が、今月号で求めるもの。それは、子ども。特集で主婦に「家族のために生きることが幸せ」と語らせ、この企画で「精神的な余裕が美のエッセンス 幸せ感が内側からの輝きに」と見出しを付ける。リスクの話はそこそこに、まるで子どもは”私”の人生を最高に美しく輝かせてくれるホルモンかのように刷り込んでいます。これを読んだら、プチ整形感覚で、ちょっと勇気を出せばすぐに子どもが手に入りそうな、そんな感じがします。
第2特集の「誰にも言えない! 40歳の美人生相談室」という企画で、こんなことも書かれていました。
「Q 47歳、子供がいません。これからでも産めますか?」
これに対する回答は、
「はい、母体次第で大丈夫ですよ! 健康第一で」
「母体が健康体で生理も順調ならば何歳までしか妊娠できないということは言えないんですよ」
回答しているのは、ピンクリボンブレストケアクリニック表参道院長の島田菜穂子氏。「何歳までしか妊娠できないということは言えない」、ついにここまで言い切っちゃってます。ちなみに、『クローズアップ現代』のサイトには、「40代の”モテ期”や”美魔女”など、老いすらもコントロールできるようになったかに見える現代。しかし、今も老いを克服できないのが、ヒトの卵子だ」と書かれていました。求めよ、さらば与えられん。バブル期にお金という魔物を自在に操り、すべてを可能にしてきた女性たちが、今、「美ST」という聖書を携えて美魔女に変貌しすべてを可能にしようとしています。欲望の果てに傷つく女性が現れないよう祈るばかりです。
(亀井百合子)
子どもを産むことに意味が生まれてしまう時代です
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