新山千春まで愛されキャラに! 『カーネーション』のキャスティングが絶妙
今回またまた、しつこくツッコませていただくのは、大評判のNHKの朝の連続テレビ小説『カーネーション』。
ヒロイン・小原糸子(尾野真千子)はもちろん、お父ちゃん(小林薫)、お母ちゃん(麻生祐未)、おばあちゃん(正司照枝)など、すべてのキャラクターが愛おしく描かれている同ドラマ。しかし、ずいぶん前から作品の世界観を壊してしまうのではないかと懸念されていたのが、糸子の娘として後に登場する新山千春、安田美沙子だった。
だが、三女・聡子役の安田美沙子は、実際に登場してみると、意外なくらい歩き方や仕種、表情など、少女期を演じていた子役の雰囲気を不思議とそのまま受け継いでいて、実にナチュラル。また、「マイペースで、ねじが3本くらい抜けてる感じ」という設定もハマッている。
一方、当初はどうにも気になってしまっていたのが、優等生の長女・優子役の新山千春だった。
岸和田弁とは異なるものの、もともと関西人の安田美沙子に比べても、どうしても言葉に難がある新山。上からモノをいう雰囲気もいけ好かない感じがするし、新山千春自身にもともとアンチが多い状況もあり、「初めて愛せないキャラが出てきた」という声も視聴者の間から出てきていた。
そんな優子が上京した後、帰省した折には岸和田弁からコロッと東京弁に変わっていた。しかも、大きな賞を受賞した次女の絵を見て、「……いいんじゃない? うん。あんた、才能あるわよ」と、またしても上からモノを言う感じが、ますます「愛せないキャラ」感を高めてしまっていた。
だが、すぐに東京に染まり、恩師の影響を受けまくる優子のことを、母が冷静にこう分析している。
「あの子は昔からそうやんか。小学校で軍事教育受けて竹やり持って『ヤー、ヤー』って練習してたがな。先生に言われたら、何でもかんでもごっついありがたがるタチなんや」
そう思えば、「すぐに影響を受ける」「先生の言うことをありがたがる」一生懸命さ・真面目さは、幼少期から一貫性がある。そう考えると、優子が少し気の毒に見えてくる、実に効果的な一言だった。
また、実家の手伝いを始めた優子が、東京弁で「いらっしゃいませ」と言うと、お客さんが「へ?な、何や! 『いらっしゃいませ』? ははは、『いらっしゃいませ』やて!」と寒そうな仕種で言う場面。その後、岸和田弁にさりげなく戻している場面も、優子の傷ついた心情が推しはかられる。
東京でバカにされないように東京弁を喋り、一生懸命勉強し、優秀な成績をとって、学校を首席で卒業した優子。でも、次女の「才能」には気づいている優等生の悲しみ――初めて新山千春であることを忘れてしまい、「優子」が愛おしくなってきた視聴者も少なからずいるのでは?
それにしても、このドラマがつくづく上手いと思うのは、「端折り方」である。「優子が東京に染まったこと」「主席で、先生になる道にも進めたのに、実家を継ぐために戻ってきたこと」「再び岸和田弁になんとなく戻したこと」など、きっかけを見せる程度でどれも直接的に描かず、さらりと「結果」を見せることで、視聴者に心の機微を想像させる余地を残している。想像するからこそ、愛おしさが生まれてくるのだ。
ふと考えてみると、「関西弁に難のある新山千春を起用したのも、『すぐに感化されて東京弁になる』→『戻ってきた後になんとなく戻す』という設定があったからなのかも」なんて気もしてくる。そうなると、やっぱり愛せないキャラは不在で、ことごとくキャスティングの妙を感じてしまう『カーネーション』。どこまで計算なのか分からないが、恐ろしいです。
(田幸和歌子)
今のところ、新山千春の代表作はセブンイレブンのCM
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