カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」12月22日・1月7日号

「私の病気は被曝のせいかも」、脚本家・北川悦吏子が「婦人公論」で衝撃発言

2011/12/15 16:00
「婦人公論」(中央公論新社)12月
22日号・1月7日合併号

 今号の「婦人公論」は、年末年始の合併特大号。ということで、特別付録「2012年、福を招く『江原啓之 七福神カレンダー』」が付いています。とっくにスピリチュアルブームは去っているのに、いつもかたくなに江原推しなのが「婦人公論」最大の謎なんですが、カレンダーは意外とフツーの、商店街でもらえそうな安っぽい七福神のイラスト入りカレンダーでした……と思ったら、七福神のイラスト、大黒様も恵比寿様もみーんな顔が江原になってます(恐怖)! そんなワナが仕掛けてあるなんて、も~~!! こりゃ年末の悪夢ですね。

<トピック>
◎特集 不況に負けない「貯まる家庭」
◎北川悦吏子 難病に苦しんだ10年を、私は忘れない
◎今田美奈子×林真理子 「食」との出会いが、女の人生を変える

■ポジティブはとってもいいことだけど……

 特集は「荻原博子さんと考える 不況に負けない『貯まる家庭』」。年末年始だから「開運」だの「生き方を変える」だの当たり障りないボンヤリ&ハッピーなテーマでもよかったと思うのですが、身もふたもない現実主義です。とても分かりやすくてためになるので熟読しちゃいました。「住宅ローンは50年で完済を目標に」とかね。筆者はアラフォーですが、最近、35年ローンを組んだらどうなるかな、なんてうっかり夢を見ていたんです。この特集のおかげで「現実」という岩石が落ちてきましたよ。

 とてもおもしろかったのは、夫婦漫才師かつみ・さゆりの対談「1億7000万円を返済中。86歳から金持ちになります!」。夫のかつみは、バブルのころには株と不動産で3億の資産を持っていましたが、バブル崩壊で4億7,000万円スッて1億7,000万円の借金を抱えることになったそうです。そんなときに、さゆりと出会いました。

さゆり「(かつみは)とにかくポジティブで、1億7000万も借金があるのに、ずーっと夢を語ってた。それから決断力。私は全然決断できなくて、特に2つのうち1つを選ぶことができない。喫茶店に行った時、私がさんざん迷ってたら、『そんなに悩むなら両方頼み』と言ってくれた。『ああ、そんな考え方もあるんや』と自分にないものを見たの。『どん底の時に上や前を向ける人なら大丈夫、この人についていこう』と決めた。後になって『どん底』は『底なし』やったとわかるんやけど(笑)」

 と、端から見ると無謀とも思える判断をするさゆり。多額の借金があるのにずーっと夢を語ったり、喫茶店で「両方頼んでいい」と言う男、どっからどうみてもだめんずでしょ!? 「僕、愛人の子どもなんです。おふくろは親父の3番目の愛人で、親父が反対してるのに無理やり僕を産んだ。それがまずめちゃくちゃラッキー。生まれてなかったかもしれへん命なんやから」といった生い立ちも、なぜか飲み屋でネエちゃんをひっかけるときの常套句のように聞こえてしまうから不思議です。父親の借金10億円を背負いそうになったときは、さすがのかつみもくじけたそうで、「ベランダに出たら、胸元まであるはずの柵が膝下くらいに感じた」などリアルな心情を語ります。お笑いの仕事だけでは金利がふくらむばかりなので、ふたりで100円ショップ、クワガタの繁殖、ラーメン店などの事業を計画したこともあったそう。

さゆり「みんなあかんかったけど。『これだけ失敗してるのになんで止めへんの!?』っていつも言われる。でも失敗するかどうかはやってみないとわからないでしょ。決断できない私が『ついていく』という決断をしたんやから、かつみさんの判断が間違っていようがいまいがついていく。それが私の唯一の決断」

 と、どこまでもけなげなさゆり。それに対して、かつみの決めゼリフ。

かつみ「父親もいないし、兄貴は4歳でがんで死んだし、おふくろが親に勘当されたから親戚もいない。誰にも頼れずに生きてきたから、人に頼る発想がないねんな。だからお金があれば幸せになれると思ってたけど、4億7000万スッて誰もいなくなった時にさゆりちゃんが僕を好きになってくれた。4億7000万で本物の愛を得られたと思ったら安いもんや」

 不幸、カネ、愛、そして夢。男がこれらをいっぺんに語り出したら、なぜこんなにも胡散臭く感じてしまうのか。実に興味深い対談でした。

■みんな、これから私の闘病記を聞いて!

 かつみ・さゆりの対談と読み比べていただきたいのが、北川悦吏子のインタビュー「難病に苦しんだ10年を、私は忘れない」。ドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS系)、『ロングバケーション』(フジテレビ系)などのヒット作で知られる脚本家の北川が難病のため、この10年間入退院を繰り返し苦しんだ経緯を語ります。ところが、序盤からおかしな雰囲気。なぜなら、「夫の意向で病名は明かしていない」とのことなのです。なんの病気か明かさないままペラペラと闘病生活を語っていて、まるでひとりよがりのイニシャルトークみたい。「ほんとうにつらい病気なんです」「痛くて痛くて、吐いたり、叫んでしまうくらい痛い」「『こんなに痛いのは嫌だ。もう死にたい!』と何度も思い、人に向かってもそう言いました」と、何度も”カワイソウな私”をアピールしているんですが、どんな病気かが一切分からないのでどうも入り込めません。完治しない病気らしいのですが、09年に受けた手術のおかげで現在はだいぶ楽になったとのこと。

 終盤では福島第一原発事故の話題に触れています。事故直後から娘を連れて沖縄に避難、短期契約のマンションを借りて2カ月過ごしたという北川。

北川「これほど放射能が怖いのは、やっぱり、病気をしているからです。散々病気で苦しんできたので、どんなことがあっても娘だけは病気にさせたくない。『1960年代に世界中で核実験があり、日本中が被曝してるが、みんな平気じゃないか』と言う人もいるけれど、『平気じゃないよ、私の病気もそのせいかもしれない』と思う。私の病気は昔にはなかったもので、原因は環境によるものと考えられています」

 と、トンデモ発言をぶちかましています! 痛くて死にたいほどつらい病気が本当に60年代の核実験によるものだと思うなら、世界のみなさんに警告するために病名を明かさなきゃ! そうでなければただ不安をあおっているだけ。今この瞬間も不安の中で生活をしている人もいるというのに……。そんなことも配慮できないなんて、この方は本当に有名脚本家なのでしょうか。これで多数の登場人物の心を描くことができるのでしょうか。そもそも病名を明かしたくないなら、なんのためにこの場に出てきて病気について語っているのでしょうか。まったく不可解なインタビューでした。

 かつみ・さゆりのふたりの話は、漫才師として話がとてもよく練られています。もったいぶることなく、生まれも育ちも借金も赤裸々に語られ、それによるふたりの心の動きがよく分かります。もしかしたらふたりのキャラに合わせて多少の脚色があるのかもしれません。それはそれでいいのです。彼らは芸人、エンターテイナーですから。少なくとも、読んで「おもしろかった」と思える。「婦人公論」という雑誌に掲載する値があります。「痛くてつらーい」「原発こわーい」という薄っぺらなつぶやきなら、ネットでタダで読めます。お金を出してまで読む意味はありませんし、お金を取って語る内容ではありません。

 今号はほかに、作家の林真理子と、洋菓子・食卓芸術研究家の今田美奈子による対談「『食』との出会いが、女性の人生を変える」もあります。真理子センセが「『子どものためのアフタヌーンティー』なんていいかもしれません。(中略)うちでも必ずお菓子はいいお皿に盛って出すようにしています」「独身の頃、デンマークへ行った時に、フローラ・ダニカの食器セットを買ってきました。これでいいところへお嫁に行っても大丈夫、と思って(笑)。でも、普通の人と結婚してしまったものだから、まだ2回くらいしか使っていない(笑)」「今田さんのような本当の華やかさは、一朝一夕では身に付きませんよ。昨日今日お金持ちになった方とは全然違うもの」と、”ざますトーク”を一生懸命かましています。おもしろいんですが、北川悦吏子爆弾のせいで、せっかくの真理子センセがかすんでしまいました。……と思ったら、次号予告に、「林真理子×黒木瞳『人生後半、女の幸福論』」ですってよ! 今号のざます対談は前哨戦だったんですね。いや~、「婦人公論」、ワナを仕掛けるのが上手いわ。
(亀井百合子)

「婦人公論」

婦人公論のカレンダーって、ほぼ魔よけ目的よね!


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最終更新:2011/12/15 16:00
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