強烈な名前とファッションはキャラ化願望の表れ? 「KERA」にみる原宿系の潮流
女性誌レビューに「KERA」(インデックス・コミュニケーションズ)が初登場です。いまや原宿系代表として世界に認知され始めているあの「きゃりーぱみゅぱみゅ」が読モとして注目を浴びた雑誌です。キャッチコピーは「いちばんリアルなファッションマガジン」。ビジュアル系バンドのファンが主な購読層で、1998年に「KEROUAC」として創刊、99年から月刊化と90年代の終わりに誕生しました。歴代表紙に登場してきたのは平山あや、上戸彩、福田沙紀といった芸能人から、なんと読むのか分からない武瑠、NEEKOといったバンドメンバーの方々まで振り幅の広い顔ぶれです。特筆すべきは映画『下妻物語』以降、深田恭子の表紙起用が増えた点。ロリータファッションに身を包んだ『下妻』深田は「KERA」にとってエポックメイキングな存在だったようです。
<トピックス>
◎カリスマアーティストのクリスマススタイル
◎少年少女変貌遊戯
◎カスタムで見違える(はあと)おしゃれアイテムをつくろう
■キラキラネームを自ら欲する
掲載されているアイテムがフリフリだったり鋲がいっぱい付いてたり黒ばっかりなことを置いとけば、ファッションページの作りは普通の女性誌と変わりません。ただ、パンク・ロック編、スウィートロリパン編、モードゴシック編と系統別になっているのはさすがです。今季の流行り云々ではなく、スタイルでカテゴライズする姿勢が硬派! そして「KERA」の人気企画のひとつ、原宿ストリートスナップのページを見てみると、みなさんの名前がキャラ立ちしすぎていてビックリ! ビジュアル系バンドの読みにくさとは別ベクトルの弾け方をしています。
「10MO8」「豚鼻博士」「ほとぅー」「臓器92げろぐぼ」「けけ(ヶ´∀`)」
ほんの一部ですけど、これ名前です。キラキラネームが嘲笑される現在にあって、自らヤバイ名前を付ける彼女たちの思考はどこに向いているのか……。本日のファッションテーマへの回答も「シェリーメイちゃんとなかよくお散歩コーデ」「派手派手☆カラフルお魚」「髪切ったぁ」なんて調子で、とっても自由。ここまで己のセンスに迷いがないと素直に好感を持ってしまいます。これら名前やファッションテーマの方向性を見ていると、彼・彼女らが皆一様にキャラクター化しているように見えます。自分じゃないどこかの誰かに、名前と服装でなりきる。強烈なテーマ性を持ったファッションも己をキャラ化する武器のひとつなのかもしれません。なんだか、コスプレとファッションの境目がグラグラしてきました。
■ケラ!ッ子にクリスマスは要らない
「KERA」のクリスマスページは他の女性誌とはちょっと違います。わずか2Pしか割かれておらず、内容も「ケラ!ッ子の実態を調査!! クリスマスは何してますかぁ~」という座談会のみ! 「とりあえずクリスマスネタやっとくか」なやっつけ感がレイアウトからもむんむんです。とは言え、これは実態調査企画。ケラ!ッ子の思考が発見できました。
17~19歳の4人の女子が、去年のクリスマスは何をしていたかを振り返り、「バイトしてました、ラーメン屋さんで…」「記憶がない…。たぶん、誰とも過ごしてないんだと思うんだよね」「マン喫でずっとマンガ読んでいました…」「自分に自分でクリスマスケーキ作って食べました」と明かしています。長らく続く「モテ」至上主義の中にあっては、この子たちはさぞ肩身の狭い思いをしているのでは……。勝手にそんな心配をしたものの、黒い口紅をつけたり、眉毛をなくしたり、髪の色をツートーンに染めたりするほど己の美学を持っている彼女たちに悲壮感は皆無。アンケート結果も「カップルじゃなくて大勢でパーティしたい」という意見の方が多いケラ!ッ子たちにクリスマス企画を出してもこりゃ意味ないですな。というわけで、編集部は「ビジュアルバンドのライブに参加するのもおすすめ!」と間違いないアドバイスをしているのでした。たしかに、己の美学と世界を共有できる仲間と集うクリスマスの方が彼女たちには自然で幸せなことなんですよね。
■読者へのケアが手厚い!
「いちばんリアルなファッションマガジン」と言えども、読んでいるのは地方在住者がほとんど。そしてそこへのケアも欠かさない「KERA」の優しさがみえたのが読者ページです。東京や神奈川からの投稿ももちろんありますが、熱量と頭数でいったら断然地方。「周りにケラ!ッコがいなくて寂しいです(泣)」という岩手県、「鳥取にケラ!ッコさんはいませんかぁぁぁぁぁあああ!?」という鳥取県、「全人類、V系に目覚めろ」という滋賀県、「偏見は犯罪です!!!」という佐賀県などなど、『学校へ行こう!』(TBS系)の「未成年の主張」よろしく、周囲に理解を求める若いエネルギーが炸裂しています。無気力な若者なんてここにはいませんよ。その切実な気持ちに、編集部はペンフレンドコーナーで応えています。Twitterもブログもある時代に、読者はハガキにせっせとイラストと友だちになる条件を書いて編集部に送っているわけです。この子たちに友だちができますように、と願わずにはいられない切実さです。
そして地方ともなれば、好みの洋服も手に入りにくいでしょう。「通販BOOK」は16Pも割かれ、地方にいたってケラ!ッ子になれる完全仕様です。周りに理解者や友だちがいなくてもアタシには「KERA」があるから! と読者が全幅の信頼を置ける優しさですね。
そして、冒頭でも触れたきゃりーぱみゅぱみゅは純粋なモデルとして5Pだけの登場でした。がっくり。そのため、きゃりーと「KERA」の親和性の高さについて発見するには至りませんでしたが、スナップページで感じた読者のキャラ化願望ときゃりーぱみゅぱみゅという名前&メディアでの売り出され方を見る限りでは、彼女が支持される理由も分かる気がしたのでした。いや~原宿という街に集う若者文化は面白いですね。
(二宮まい)
きゃりーの名前が普通に思えてくるわ
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