「LEE」の”女を捨てた”ファッションは、良妻賢母と同性へのけん制の証?
今月号の「LEE」はクリスマス前の12月号ということもあり、赤や緑、白を基調としたファンシーなデコレーションの特集があったり、冬ということでざっくりニットやノルディック柄セーターなど、現在の東京の気候を無視するかのような「北欧」具合。実際に底冷えのような寒さや雪が降って交通麻痺を起こすとみんな舌打ちしてるのに、「季節感って大事だよね~」という変な空気を流すのが女性誌の無責任なところ。いつの間にか、「季節感を大事にする私」がファッションになっちゃったんでしょうね。本当に季節感を大事にしたいなら、まずは二十四節気の日にちをカレンダーに赤丸つけることから始めてみましょう!
<トピック>
◎全部LEEマルシェで買える着回し! 良美の旬度アップ15days
◎おしゃれプレス20人の「マイ・ベスト・パンツ」
◎「ママ友づきあい 私たちの場合」
■リアルな「下町の密な人間関係」は嫌いでしょ?
今月の大特集は「おしゃれ賢者55人 『理由あってコレ買いました』」です。その中に、「全部LEEマルシェで買える着回し! 良美の旬度アップ15days」という着回し企画がありますので、見て行きましょう。着回し企画といえば、どの女性誌も架空モデルと設定を使って、かなりトリッキーな日常にコーディネートがお約束ですが、「肩肘張らない」「自然体」が売りの「LEE」ではそれもなし。岩崎良美(アニメ『タッチ』のエンディングを歌っていたあちらではありません)というモデルの「日常」に絡めています。しかし、その「日常」が「自然体」じゃないから面白い!
「大家さんのお宅へ足を運ぶ日は、きれいめを意識」
「あったかコートとチェコの絵本で ほっこり気分の午後」
「古民家カフェで静かにゆったりお抹茶で舌鼓」
「学生気分を香らせるダッフルコートで恩師に会いに行く」
大家さんの家に行く時のためのコーディネートがあるとは!! しかも「(略)大家さん宅へ、家賃を支払いに。引き落としじゃなく手渡し、というアナログなところが下町風でお気に入り」というエクスキューズ付き。家賃支払うためにファーを巻いて行ったり、チェコの絵本をおいているオシャレ雑貨屋の内装に合わせたコーディネートを考えたり、恩師に学生の頃の自分を思い出してほしいからダッフルコート着たり、「LEE」読者の日常は本当に忙しいようです。「CanCam」(小学館)読者が合コンのためにリボン&フリルのコーディネートで頑張るのと、「有意義な日常を送っている自分」を演出するために頑張る「LEE」読者はどちらが自然体なんだろうと考え込んでしまいました。
■女を捨てる=女の価値が上がるという不思議な公式
もうちょっとファッションページを見てみましょう。というのも、筆者が「LEE」を読んでいて、ファッション傾向に気がかりなことがあるんです。その傾向が顕著に出ていたのが、「おしゃれプレス20人の『マイ・ベスト・パンツ』」。ワイドパンツ、タックパンツなどパンツの種類ごとにコーディネートが紹介されているんですが、そのシルエットが見事に雪だるまなんです。例えば、ワイドパンツはどうしても下半身にボリュームがでるので上半身はタイトなラインを持ってくるのが「着やせ」の鉄板。ですが「LEE」の場合、だらんとしたニットや厚めのニットでボリューム2倍といった感じ。これはこの企画だけではなく、「LEE」全体の特徴のように思います。
たしかに「LEE」は子どもが登場する企画が多く、読者の大半は経産婦のよう。出産によって変わった体型を隠したいという潜在的願望を汲み取っているのかもしれないのですが、必要以上に「女らしさ」の代名詞である「ハイヒール」と「くびれ、身体のライン」を嫌います。「女らしさ」を捨て去りたいのかと思うほど。
男性が「妻が出産後に女を捨てた」と話すのが酒の肴になっているようですが、「LEE」読者はもう自らジャンジャン捨ててます。何のためかというと、「妻が出産後に女を捨てた」の裏側にある「女を捨ててまで子どもを愛情深く育てている良妻賢母」という評価を得たいからでしょう。もうひとつ、「自分は女らしさで戦わなくても、もう十分に家庭という地盤がある」と同性に誇示したいから。閉経後のおばちゃんがトラのセーターを着て落合信子パーマをかけるように、経産婦は「女らしさ」という鎧を脱ぎ捨て、雪だるまに。どちらも「女のお勤め」が一段落した時に出る症状のようです。そう考えると、男性に「異性として魅力的に思われたい」という心理は、女性にどれほどのストレスを与えているのか改めて考えさせられます。
■当事者になってみやがれ
モノクロページには「ママ友づきあい 私たちの場合」があります。同誌モデル・AYUMIがママ友を「毎年バレンタインは一緒です」という恐怖のフレーズともに紹介しておきながら、その上では「あなたにとってママ友とは?」という質問に対する回答、
「ハンカチ(なくてもなんとかなるけど、あったほうがいい)」
「深入りしないドライな関係」
「子供が卒園・卒業したら不必要になる関係」
と、「いいから話してみなよ」とこたつでミカン食べながらトラウマを聞きたくなる人まで登場させて、そのバランスのとり様は何だい? 興味深いのは、「『ママ友』と仲よくなったきっかけと、継続に必要になったことは何ですか?」「自分の中で『ママ友』と『(ママ友以上の)友だち』の線引きはありますか?」という質問。答えをまとめると、きっかけは「住んでいるところが近い」「子供の年齢が近い」という”状況”ですが、継続に必要なのは「性格が合う」「価値観が似ている」で、要は子どもではなく自分主体で関係が築けるかということです。当たり前のことを言ってるようですが、アンケートでは「ママ友」と「友だち」の線引きをしている人は53%、「ママ友」が「友だち」になった体験を持つ人は56%。約半数の人はいやいやながら「ママ友」と付き合っていたり、「ママ友」は「ママ友」と思ってそれ以上の関係を築かないんです。半数というのは非常に大きな数字。笑っていられるのは、当事者になっていないから。当たり前のことを見失わせるのが、ママ友という魔力です。
思わず白熱してしまった、今月の「LEE」。女の欲望やら自我やらが出すぎちゃって、もう「自我の交通渋滞」みたいな号でした。そして来月号の特集は「パリvs東京、重ね着上手に注目! 冬の街角おしゃれ対決」です。平均気温違くない? そしたら服装も違くない? という疑問はこの1カ月のうちに取っ払ってくださいよ!
(小島かほり)
男、女じゃなくて人間として生きたいわ
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