「やっぱり自分信じねぇーと」湘南乃風のがなり説法は、本当に若者の代弁か?
――タレント本。それは教祖というべきタレントと信者(=ファン)をつなぐ”経典”。その中にはどんな教えが書かれ、ファンは何に心酔していくのか。そこから、現代の縮図が見えてくる……。
もう、いまさらこんなことを言うのもこっ恥ずかしいのだが、いつの時代も若者は代弁者というもの求めている。尾崎豊しかり、村上春樹しかり、あの石原慎太郎だって当時は若者の代弁者だったという見方すらできる。
そういえば、先日「尾崎ハウス」が取り壊されるというニュースが流れた際、同時に「今の若者は尾崎に共感しない」という、くたびれたオジサンが書いたような記事が駆け巡った。そりゃそうだよ、大人へ反抗する際の言葉を奪われた世代なんだから。生まれたときにはゲームがあり、アニメがあり、マンガがあった世代は、わざわざ「反抗」なんてリスクを取らずに、大人が子どもを都合よくコントロールするための飴を選んだ。飴を選んだ子どもたちが大多数だったから、今アニメやマンガが「カルチャー」として昇華されているわけだが。
現在の「若者の代弁者」のひとりに、湘南乃風がいる。若旦那、RED RICE、SHOCK EYE、HAN-KUNの4人からなるグループで、特に若旦那に関しては強面なうえに、「高校時代は手のつけられない不良だった」(ウィキペディアより)そうで、「頭がいいのか悪いのかわからなくて、司法試験の勉強もした」(Yahoo!ミュージックより)というエピソードを持ち、「ムコ多糖症」という難病患者の支援や、被災者支援もしている。「アウトロー→弱者の味方」という、少年マンガが理想の男として繰り返し描いたような男だ。
楽曲の歌詞を眺めて見ると、「初めて一途になれたよ」「負けるな 親友よ」「夢をすてんな お前すげぇんだ」など、恋愛・友情・夢といったアプローチが多い。まあ、小学生にもカレカノがいて、2ちゃんねるで「ぼっち」(一人ぼっち)のスレが乱立する、夢も持てない世の中じゃ必然的ではある。決して「盗んだバイクで走り出す」ことも「夜の校舎 窓ガラス壊してまわった」りすることはない。大人に「理解してくれ」と叫ぶことではなく、無力な自分に自信をつけさせてくれる人を、時代はとったのかもしれない。
ここで湘南乃風の求心力を探るために『腹が減ったら歌え。落ち込んだら笑え。』(泰文堂)を見てみよう。もうタイトルからがなっているが、章タイトルは意外と脱力系だ。
「第一章 いどむ」
「第二章 しんじる」
「第三章 たたかう」
「第四章 あきらめない」
「第五章 つながっている」
危なく「第六章 おはしはみぎ、おわんはひだり」とつけたくなるような、ひらがなマジック。ところが本文、といっても1ページに巨大文字(Q数表で測ると44Q)で多くて9行ぐらいの分量だが、もう全力でがなっている。がなりすぎて、血痰がからまってそうなほど。
「待つな。つかみに行け!」
「やっぱり自分信じねぇーと。できるできないは後からついてくる。」
「拳を 拳を 拳を 掲げろ」
「ファイティングポーズ取ってろ。常に臨戦態勢だ。」
「休みなし!」
「ダチっていうのは毎日会ってもダチだし、1年に1度でもダチ。」
耳掃除しながらテレビを見ていることさえ怒られそうな気配だが、一転、湘南乃風は意外とチャーミングな面を見せる。「好きなことの先に何があるって断言できないけど 運命だったり出会いだったりキッカケはある。だから今を楽しんでください。」と突然敬語になったり、「元気のあるヤツは? オイッス!! 今楽しんでるか? オイッス!! ケガしてねーか? オイッス!! まだまだ行けるよな? オイッス!!」とソクラテス並みの問答法を繰り広げている。ただライブでタオルを振りまわしてるだけじゃないのだ、問答法まで習得している――それが湘南乃風。
先日開設されたばかりの若旦那のブログコメント欄を見てみると、10代のセンシティブな若者だけでなく、思いのほか30代・40代のファンも多いようだ。やれTPPだ、やれ年金問題だなどと問題が山積みな現代にとっては、湘南乃風の単純明快な言葉は一種の飴だ。恋愛・友情・夢を語る言葉は耳触りがいいけれど、問題は「自分の半径5m」に集約され、「地元」というぬるま湯に浸かりながら「本来あるべき自分」を夢見る。飴になれてしまった子どもたちはいつまでもモラトリアムから卒業できずに、近い将来自分たちを襲ってくる不況、雇用不安、年金、原発問題をアフリカ大陸での出来事のように遠ざける。湘南乃風からの卒業が、すなわちモラトリアムの卒業になっているといっても過言ではない。現代の「子どものまま大人になってしまった人たち」が飴を手放す時はくるのだろうか。
(西園寺のり子)
また写真がズルい感じなんだわー。
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