朝ドラの”お約束”を無視する『カーネーション』、リアリティーのある脚本が面白い
今回ツッコませていただくのは、10月3日から放送されているNHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』。
コシノヒロコ・ジュンコ・ミチコという、コシノ3姉妹を育てあげた母の実話に基づくフィクションで、脚本を務めているのは、映画『ジョゼと虎と魚たち』や『天然コケッコー』、文化庁芸術祭大賞を受賞したNHK広島の単発ドラマ『火の魚』などを手掛けた渡辺あや。丁寧な脚本には定評があるが、連続ドラマ経験がない人だけに朝ドラという”長丁場”を不安視する声があったが……。
まず朝ドラのお家芸(?)というべき、「何でもヒロインのおかげ」「何でもヒロインが解決」パターンがない。「頑張りすぎのヒロイン」は、頑張りすぎて倒れてしまうのが”お約束”だが、『カーネーション』においては、高熱で職場に向かうも、「おまえ一人いなくても何も困らん」「それより風邪をうつされるほうが困る」と”本当のこと”を言われ、職場から追い返され、悔し泣きする。
もう一つのお約束「土下座」も登場するが、これまたパターンが大きく異なる。娘・糸子(尾野真千子)に洋裁を教えてほしいと、根岸良子(財前直見)に土下座する父・善作(小林薫)。それを慌てて制止する根岸先生に「今やろうとなさってるのは、まさか、あの土下座というもの……?」と聞かれると、ケロリと言い放つ。
「土下座くらいなんぼでもしますわ、商人は」
全体的にはリアルなストーリー展開だが、部分的には「矛盾」を指摘する視聴者の声もある。たとえば、呉服店を営む頑固な父親が、洋裁を応援し始める展開には、「急に良い父親になってしまった」という落胆の声があったり、妹にお金のことを散々説いたヒロイン・糸子が、初仕事の相手からお金をもらわなかったことへの違和感を覚えているなど。
だが、そのときどきの心の揺れや衝動的な感情、「ちょっといい気分になっている」心の動きなどによる矛盾があってこそ、リアリティーというもの。
特に父親は、本当にときどき「単なる僻み根性」で娘にいけずをしてみたり、横暴を働いたり、ひどく打算的だったりする。でも、常に一貫性があって良識ある登場人物より、よほど人間らしくて魅力的ではないか。
これは、実話をベースにしているから説得力があるという理由ももちろんあるだろうが、実話とフィクションとのバランスが実に上手い。
放送開始から1カ月以上経過している現時点で、まだ1回も「タルい」「要らない」回がなく、王道ドラマゆえの大雑把さもなく、かといって近年のドラマに多い、「伏線」だらけの脚本家の得意気が前面に出ているドラマとも違う。
ただひとつ惜しいのは、朝ドラの昔からの不思議――「毎日見たい顔ではない」などという声がけっこうあるように、ヒロインの器量の良し悪しのみで判断する層が多いこと。洋装でキリッときめたときの糸子は実に美しいので、その落差も含めて、楽しみたいものです。
(田幸和歌子)
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