ありがちで内容がない! 道端アンジェリカの本から学ぶフツーのありがたさ
――タレント本。それは教祖というべきタレントと信者(=ファン)をつなぐ”経典”。その中にはどんな教えが書かれ、ファンは何に心酔していくのか。そこから、現代の縮図が見えてくる……。
『ANGELICA Rules』(ワニブックス)は、道端三姉妹の三女・アンジェリカのファッション&ライフスタイルブックである。道端三姉妹といえば、長女カレンは二児を持つシングルマザー、次女のジェシカはイギリス人のF1レーサーと交際していることで知られる。で、アンジェリカはというと、スタイルは姉たちに劣らずいい。ま、モデルだからね。が、しかし、それ以外に特筆すべき点が何も思い浮かばない。
強いて挙げるとすれば、「下品」か。下品といえば、森泉や土屋アンナがすでにいる。では、「ぶっちゃけキャラ」か。それこそ掃いて捨てるほどいる。じゃ、たまに「ピコる」と言って宇宙人と通信できることだろうか。不思議キャラは酒井法子も釈由美子も小倉優子もみんな失敗した。近い将来、なかったことになるだろう。特徴がなくて、よくありがち。そんな彼女にファンはなぜ惹かれるのか。カレンでなくジェシカでなく、なぜアンジェリカが好きなのか。本書を読めば、その疑問が解けるはず――そう思って開いたら、冒頭の導入文からあまりにありがちな文でびっくりした。
「モノトーンベースのシンプルスタイルが定番としてありつつも、派手カラーも、プリントものも、ガーリーなスタイルだって、気になったものは積極的にチャレンジ。ブランドに縛られず、ハイブランドから古着まで、いいと思ったものを身につけます。そして、どんなものを着ていても、どこかに自分らしさがあることがアンジェ流の着こなしルール」
シンプルもしくは派手、定番もしくは何でもチャレンジ、ハイブランドもしくはこだわらないって、要するに「何でもアリ」だ。内容のなさを「自分らしさ」という通りのいい言葉でまとめているところも、J-POPの歌詞のようにありがちだ。さらに読み進めると、オシャレに大切なのは「自信」、ランジェリーについては「見えない部分だからこそこだわりたいよね」、スキンケアは「いうなればオシャレの一部だよね」、メイクは「自分の顔に愛情を持って、ナチュラルを楽しんでいきたい」、恋愛は「女の子にとってサプリメントのようなもの」。どれもこれもファッション誌ライターのPCにテンプレとして登録されてるんじゃないかと思わせるありがちな文章ばかりだった。結局、なにが「アンジェ流」なのかさっぱりわからなかった。さらに、内面に関する文章も謎である。
「これからのビジョン……まず仕事では、モデルとしてもっと成長していきたいし、テレビのお仕事もがんばりたい」
「ひとりの女性としては、自分をしっかり持った人間になりたい」
「アンジェは意外といろいろ気にしたり、くよくよしたりしがちなタイプだけど、寝て起きたらケロッと忘れちゃってたりもする(笑)」
実質は何も語っていない。ここまでくるとその真っ白さに気持ちがよくなった。そして、10代後半のころのスナップやプリクラを掲載したページを見て、「これでいいのだ」と深く納得した。10代のころの彼女は、典型的なギャルだった。金髪に日焼け、囲み目メイク、写真のポーズはすべてピース。高校時代はよく渋谷のセンター街で遊んでいたそうだ。ギャルになった理由を次のように振り返る。
「中学生の頃には、本格的にモデルとしてお仕事をしていたから、日焼けしないように、プールは禁止だったり、修学旅行もお休みしなきゃいけなかったり……みんなと同じことができないことに、フラストレーションがどんどんたまっていった。その結果、中学卒業後は、ギャル街道をまっしぐら(笑)。モデルのお仕事を離れることにきめた」
フツーでいるためにギャルになったアンジェリカ。あとがきにも、手書きのギャル文字で「私が一番伝えたかったのは素の自分。みんながイメージしているような私じゃなく、ただ一人の女の子だってこと。みんなと一緒でオシャレが好きで恋がスキ」と書いてあった。「みんながイメージしているような私」をアンジェリカ本人がどのようにイメージしているのか気になるが、そんな隙を残してしまうところも迂闊でいい。アンジェリカは元ギャル代表、ありがちな25歳の代表なのである。
ブログを見ても、芸能人ブログにありがちな、ごく簡単な私服紹介に食べたものの紹介がほとんど。特におもしろくはない。それに呼応するように、寄せられるファンからのコメントも短く単純だ。たとえば、10月4日の「私服☆」というエントリ。ブログの文は「昨日の私服だよっ♪ 昔のヤンキー系。笑(小物の購入場所が入る)んじゃ、チャオ~~~~ヽ(゜▽、゜)ノ」。それに対するコメントは「私服本当に可愛い~◎」「良くお似合いです」「アンジェリカちゃんはかっこいいし、めっちゃあこがれです!」「アンジェの私服大好き♪」。別の日を見ても「あんじぇ激かわだよ」「可愛いです(●´∀`)/」といったものばかり。このモデルにこのファンあり。「可愛い~」のひとことですべての好感情を表し、そこに個の主張はない。これでもいいんだ、となぜかホッとさせられた。
対照的なのが、道端ジェシカである。著書『JESSICA’S SECRET 道端ジェシカの秘密、教えます』(講談社)は名著といえる。「私のタトゥの数は恋に落ちた数」「赤い口紅には、女の子を美しくする3つの魔法がある」「私が香水をつける部分は胸」「可愛い女子はみんな肉好き!?」など、ゾクゾクするような名言の宝庫だ。しかし、読み物としてはおもしろいが、ファッションはあの顔とスタイルなくしては真似できないものばかりだし、ライフスタイルも野心に満ちていてついていけない。アンジェリカが渋谷で遊びほうけていた10代、ジェシカはアメリカンスクールに通う友達に「私にも英語で話しかけてね」とお願いして、独学で英会話を訓練していたという。一般女子高生には無理だぜ。
道端アンジェリカはモデルである。美脚の持ち主である。それ以外はただの元ギャルである。だが、それ以外に何が必要だろうか。テレビをつければ、腹黒もバカもボケも何もかもすべてキャラ化して演じて、商売しようとする芸能人がいる。ネットを見れば、一般人が賢いことや気のきいたことをブログやツイッターで語り合い、自意識をぶつけあっている。そんな中、賢く見せようともせず、バカに見せようともせず、ただフツーを保つことはけっこう難しい。フツーであり続けること、それこそが彼女の才能なのだ。
(亀井百合子)
一方、カレンの本は「レタスクラブムック」から出ているのが味わい深い
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