海外
[連載]海外ドラマの向こうガワ

リメークブームの中、設定とWキャストで圧倒的支持を得た『NIKITA/ニキータ』

2011/09/10 11:45
『NIKITA /ニキータ 〈ファースト
・シーズン〉 コレクターズ・ボッ
クス1』/ワーナー・ホーム・ビデオ

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 ハリウッドでは相変わらずリメークブームが続いている。火付け役は世界的に大ヒットした『ミッション:インポッシブル』シリーズであり、その後制作された『オーシャンズ11』『チャーリーズ・エンジェル』シリーズも社会現象を巻き起こすヒットになった。制作・配給会社の「すでに成功している作品をベースにすれば、大きく失敗することはないだろう」という思惑、監督・役者らの「オマージュとして制作している」という考え。多くの観客も、ハリウッドが古き良き時代の名作を現代風にアレンジ、リメークすることを歓迎している。

 ハリウッドの名作だけでなく、外国映画のリメークも次々と制作されるようになり、その多くがヒット作となった。『ザ・リング』シリーズや『ディパーテッド』などは素晴らしい興行成績を収めている。

 アメリカのテレビ界も、放送局の「より多くの視聴者を獲得したい」という切実な思いから、すでに知名度がある過去のヒット作をリメークするという流行に乗るようになった。しかし、観客を2時間ほど魅了すればよい映画と違い、テレビドラマの場合は半年間にわたり毎週視聴者に「続きを見たい」と思わせなければならない。視聴率が悪ければシーズン途中で打ち切られることもあるため、映画よりもテレビドラマのリメークの方が難しいとも言われている。

 その良い例が、2007~08年シーズンに放送開始された『バイオニック・ウーマン』(『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』のリメーク)と『Knight Rider』(『ナイトライダー』のリメーク)。2作とも確実にヒットするだろうと期待されたのだが、低視聴率にあえいだ末、ワンシーズンで打ち切られてしまった。視聴率アップを求めるあまりもっと派手に、もっと刺激的にと制作したのが裏目に出てしまい、目の肥えた視聴者から受け入れられなかったようだ。

 このシーズン以降、テレビ界はリメーク制作にとても慎重になったのだが、そんな中、リメークではなく続編として制作したドラマが話題と人気、そして視聴者を集めた。1991年に公開されたフランス映画『ニキータ』がオリジナルであるスパイアクション・ドラマ『ニキータ』である。

 物語の主人公は、アメリカ政府の秘密組織「ディヴィジョン」の優秀なスパイ暗殺者だったニキータ。心の底から愛した男性を、秘密保持のため「ディヴィジョン」に殺害され、3年前に逃亡。こつ然と姿を消した彼女は、水面下で組織への復讐計画を練っていた。組織に協力者を送り込むことに成功したニキータは、「ディヴィジョン」が担う仕事を阻止し、巨大組織を崩そうと奮闘する。

 オリジナルの映画『ニキータ』は、どこか頼りない情緒不安定な女が組織に拾われて特訓を受け、戸惑いながらも一人前のスパイに成長していくという作品であった。映画は世界的なヒットとなり、翌年、ニューヨークを舞台に香港映画版『BLACK CAT 黒い女豹』が制作。公式なリメーク作品ではなかったが、オリジナルにかなり忠実に描かれていると高く評価され、続編まで作られた。続けて93年にブリジット・フォンダ主演のハリウッド版リメーク映画『アサシン 暗・殺・者』が作られ、こちらも好評を得ている。97年には、映画の続きを描いたテレビドラマ『ニキータ 1997』がカナダで制作。プレミア放送はアメリカのテレビ局で行われ、シーズン5まで続く人気ドラマとなった。

 2010年9月に放送開始された最新版『NIKITA/ニキータ』は、オリジナル映画の3年後の世界が舞台となっている。物語の設定は基本的に同じだが、『NIKITA/ニキータ』には、オリジナルや他のリメーク作と大きく異なる点がひとつある。ニキータのほかに、もうひとりヒロインがいるのだ。『エイリアス』(2001~2006)以来、アメリカは女性スパイが主人公の本格的アクションドラマに飢えていた。そんなファンの前に颯爽と現れた『ニキータ』のふたりの美女スパイ。激しいアクションと息を飲むような駆け引きを繰り広げるダブルヒロインの活躍に、多くの人が心を奪われてしまったのである。

 メーンヒロインのニキータを演じるのは、ベトナム人とアメリカ人のハーフでハワイ育ちのマギー・Q。アメリカのテレビドラマの主人公を演じるには、あまりにも細過ぎる印象も受けるが、ジャッキー・チェン仕込みのアクションや堂々とした演技で圧倒的な存在感を放っている。『M:i:III』や『ダイ・ハード4.0』でハリウッドに本格的に進出する何年も前から香港映画で活躍しているが、アクションテレビドラマにレギュラー出演するのは初めて。人口が多いヒスパニックやラティーノから親しまれるエキゾチックな外見であることも、ドラマの視聴者獲得につながったと言えるだろう。

 もうひとりのヒロイン、アレックスを演じる若手女優リンジー・フォンセカは、美女ながらもアウトローなにおいをプンプン漂わせている。ほかのメーンキャラクターも美男美女ぞろいで、特定の役者目当てに『NIKITA/ニキータ』を見る人もかなりの数いると思われる。

 そして、製作総指揮を務めるマックG(『チャーリーズ・エンジェル』『ターミネーター4』)ならではの、ダイナミックで緊張感あふれる作風も見所のひとつだと言えよう。

 また、本作品で主人公が戦いを挑む相手が、「金のためなら何でもやるという危険なテロリストとなった政府の秘密組織」だという点も、アメリカ人の興味を引きつける要素となった。アメリカ同時多発テロ事件以降、テロリストは海外だけでなく自国にもいるのではないか、政府は国民に何か重大なことを隠しているのではないか、という不信感を持つアメリカ人が増えたからだ。現代のアメリカにおいて「あっても不思議ではない」と思えるような政府系テロ組織、その組織をぶち壊すため、権力に負けず正義を貫こうとする主人公の姿は、見る者を作品の世界観にぐいぐい引き込んでいったのである。

 ここまでオリジナリティーあふれるリメークテレビドラマは、今までなかったのではないだろうか。多くの人を虜にするスパイアクション・ドラマ『NIKITA/ニキータ』は、どこもかしこもリメークばかりでうんざりしている人にもオススメしたい作品である。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

『NIKITA / ニキータ 〈ファースト・シーズン〉 コレクターズ・ボックス1』

そのうち『日本昔ばなし』とかリメークされないか心配


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最終更新:2011/09/10 11:45
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