「女目線」を求めることが「男目線」、『ハタラクオトメ』が浮き彫りにした現実とは?
ビジネスの世界でもてはやされる「女目線」。「女目線のサービス」「女目線の経営」「女目線の家電」、果ては「女目線のヘルシースイーツ」など、「いやそれもともと女性の領域だったよね?」というものまで女目線で見なきゃいけない世の中。はっきり言って、少しも新鮮じゃありません。女性が自発的にやるのならともかく、男性にやらされているだけだったりすると、しらけるの一言。そもそも「女をウリにする」ということが、もはや「男目線」なんだけどなあ……。そんな「女目線」ビズに奮闘する女性たちを描いた小説『ハタラクオトメ』(桂望実・著)。
主人公は時計メーカーの総務部人事課で働くOL。身長157センチ、体重100キロ、自ら提案した「ごっつぁん」というあだ名で上司からも後輩からも慕われる「愛されデブ」の彼女が、上司の命令で女性だけのプロジェクトチームのリーダーとなって、「女目線」と「素人の視点」を活かした新商品を開発することに。
チームに集まったのは、営業部のバリキャリ、秘書室の美人、スキルアップを目指す経理部の先輩など、さまざまな部署に属するバラバラの個性の持ち主たち。最初は「なんで自分たちが?」とテンションは低く、チームのまとまりもいまひとつでしたが、徐々にそれぞれの役割が浮き上がってきます。
そもそも、会社の中では弱い立場の女性だけを集めたチームですから、よほどうまくやらないと、成功なんてできるわけがない。そこで威力を発揮するのが、メンバーのキャラを活かしたチームプレイなのです。
まずはなんといっても、デブのごっつぁん。ここでのデブキャラが意味するのは、「女をウリにしない」ための設定であるということ。冒頭でも書いたように、「女をウリにする女目線」を女性向けの小説に描いても、読者の共感なんか得られません。そこで、ごっつぁんのキャラ設定が工夫されているわけです。
ごっつぁんの必殺技は「食べニケーション」。ヒップバッグに入れて持ち歩いているお菓子を、自分が食べるついでに、職場の人にそっと手渡したり、しょっちゅう自宅に同僚を招いて得意の手料理をふるまったりして、人と円満な関係を築いていきます。
普通はこういうのは「女子力」とか呼ばれちゃうところですが、ごっつぁんの場合は「自分がおいしいものを食べたいから」という説得力のある行動、加えて「そこに誰かいれば分け与えるのが当然」という感じで嫌味がない。そりゃあ男女問わずに慕われます。全方位モテです。ごっつぁんは「女をウリにはしてないけれど、女を捨ててるわけじゃない」という、いわば中性的なキャラなのです。
もちろん、会社においては女性らしさも、立派な武器となりえます。その役割はごっつぁん以外のチームメンバーが担います。
例えば甘えるのが得意のごっつぁんの後輩・千香。いかにも女性らしいアイデアを取り入れた新商品を提案し、ここぞという時は彼女が甘えた声で言う「お願いしますぅ」が、おっさん上司へのダメ押しになります。
一方で、男性社会のルールを熟知したキャラも配備。秘書室のしっかり者の美人新入社員・亜衣は、仕事柄、取締役など重役の仕事ぶりを目にする機会が多く、このプロジェクトでも男性たちの仕事のやりかたにのっとって、商品化を決める重要な会議の前に上司へ「根回し」をすることを提案。これがプロジェクト成功のための鍵となります。
そう「女目線」の「女性だけの」プロジェクトだからといって、男性を無視するわけにはいかないのです。
新しいもの、特に女性が考えたもの「なんか」に対しては、必ず何か文句をつけねばならないと強迫観念のように考えている男性だけではなく、プロジェクト成功のために協力が不可欠な味方であらねばならない男性も存在するのです。
ごっつぁんが勤める時計メーカーの自社工場の製造部長、通称「筋右衛門」はその最たる存在。素人目線のハチャメチャなアイデアは、寡黙な職人タイプの筋右衛門からは一笑に付されます。カチンとくるごっつぁんたち。しかし、彼女たちの熱意に筋右衛門のものづくり精神が刺激され、徐々に歩み寄りを見せて、最終的には共にアイデアを形にしていくことになります。
そして迎える商品化の是非を決定する会議。これまでの努力が実るのか、伸るか反るかの勝負にかけるごっつぁんチームの気合いと上司との攻防は、男性のものと思われている世界で女性が活躍できるのか!? というドキドキ感をもって描かれます。
現実ではこんなに「女目線」という言葉に手垢がついちゃっている今でも、仕事で女性が活躍するというストーリーが「ドリーム」として描かれているのは、男女が共に平等に働くなんてフィクションだ、ってことなのでしょうか。
大好物の「逆転の発想」で「女目線」という概念を生み出したビジネスの世界が、そのうち、「男目線」「女目線」というのはダサい、「男女共同プロジェクト」が新しくてカッコイイ!! という流行りを打ち出してくるかもしれませんが、それがフィクションで終わらないようにしたいものです。
(萌えしゃン)
バリキャリって、世の中に本当にいるのかな?
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