日本で売るための秘策は韓国経由!? カタツムリコスメブームの裏側
「カタツムリの粘液」がアンチ・エイジングや肌の再生化に効果的だと美容界では小さなブームを起こしている。2年ほど前に最新の韓国コスメとして紹介されてから少しずつ浸透し、昨年は国産のメーカーからも数ブランドが発売された。耳にしたことがある人も多いのではないだろうか? 今や一番注目の化粧品原料だといってもいい。
このブームの発端は韓国のテレビショッピングだった。カタツムリエキスを配合した「エスカルクリーム」が肌の老化や火傷などに効果があると一躍トレンドになり、その後韓国産のカタツムリ化粧品が数々生まれた。有名なカタツムリエキス配合の韓国コスメと言えば「エリシナ」や「イッツスキン」などで、高額コスメの部類に入る。最近ではBBクリームにこのエキスを配合させたものも登場し、好調な売れ行きを見せている。このブームが日本に入ってきたわけだが、実はこのカタツムリエキス、4年ほど前から日本の化粧品原料を取り扱う会社で既に存在していた。「B&O研究所」というコスメの製造から販売までを担う会社が、アルゼンチン産のカタツムリエキスとそれらを配合した化粧品を手掛けてきた。同社に話を聞くと、「韓国のテレビショッピングで販売されたカタツムリエキスはウチの化粧品」と驚くべき事実が判明。日本発のカタツムリエキスが”逆輸入”され、ブームになっていたのだ。
「韓国のテレビショッピングに話を持っていったのは、日本で製品を売るための秘策だった」と同社は明かし、カタツムリエキスが日本では売れなかったために策を講じたところ、これが当たったのだと語ってくれた。おかげでカタツムリエキスは、昨年『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)で韓国の人気商材として紹介され、数々の女性誌に注目の美容成分として紹介されるなど認知が広がり、国内の中堅どころのメーカーも製品化を検討しているらしい。もちろん同社の「エスカル」シリーズも、生協やネット販売を通して順調に売り上げを伸ばしているという。
しかしなぜ、韓国に持っていくことが秘策となり得たのだろうか? 韓国は美容大国としてのイメージが定着し、”韓国で売れている”というフレーズは消費者の心に刺さるものなのだ。そしてそれは韓国にとっても同じだという。「お隣でも日本のトレンドにはとても興味を持っているし、日本の化粧品や美容法というものは注目の的。美容業界も相互啓発している」(同社)。だからこそ日本発のカタツムリ化粧品は、韓国で注目を浴びたのだ。
カタツムリエキスが韓流ブームを辿ってヒットしたという点以外にも、着眼すべきところがある。それは化粧品を製造する会社が”原材料訴求型のヒット”を生み出した点だ。
一般的に言って、”北米売り上げ1位””セレブが愛用している”などはビジネスシーンの常とう句のようなものだ。通常このような販売PR、広報を担当するのは企画メーカーやPR会社である。メーカー以外の会社がPRに動くのは稀なケースで、コラーゲンにしてもプラセンタにしてもブームを作ったのはメーカー側だった。しかし、カタツムリエキスはこれらルートの外から生まれたブームなのだ。
化粧品を作る過程は、化粧品原料を供給する原材料会社、メーカーから委託を受けて製造するOEM、販売を手掛ける化粧品メーカーという構成で成り立っており、B&O研究所はOEM会社を親に持つ化粧品会社で、原料も扱いながら自身もまたOEM(受託製造)から販売までをこなしている会社だ。そこが自ら韓国に持ち込み、メーカー不在の状況でPRを果たし結果を生み出したことが新たな潮流を感じさせる。
このような事情の背景には、不況的な要因も絡んでいると言わざるを得ない。もとより、メーカー主導だった化粧品企画も数年前から、異業種の参入などもあって下請けのOEMメーカーの企画提案型に変わってきている。待っているだけではチャンスを逃すとばかりにOEMメーカーが躍進してきたわけだが、既に成功例の出たものしか作らない、といった保守的な傾向にあるメーカーの企画力の低下も背景にあるだろう。今回のカタツムリエキスのヒットから、意図せずして化粧品業界の現状も垣間見える。
それにしてもカタツムリといいハチといい、ミドリムシといい、最近は広義の意味での”虫”由来の生物原料がやたらと多い。漢方の冬虫夏草が、蛾の幼虫に寄生する菌類だと知って以来の衝撃を受けることも少なくない日々だ。この傾向は日本だけでなくヨーロッパ、アメリカなどグローバルなもので、人目を引くのも確か。合成原料では真似できない自然の生命力が神秘的な魅力を放っている。類似成分を作ることができない生物原料に、今後はどの生物が抜擢されるだろうか。
(庄司真紀)
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