元・夫と暮らす娘の言葉に、成長と寂しさを感じる母親なのだった
夏休み、ということで、元・夫と一緒に住んでる私の娘、フーちゃんが泊まりに来た。毎月会ってるにもかかわらず、毎月会うたびに「またでかくなった……」とびっくりする。現在小6、来年は中学生。時が経つのって早い。考えてみれば、いわゆる思春期って時期である。私が今のフーちゃんくらいの年のころには、もう親なんて大嫌いになってたはずだ。
友人漫画家の大久保ニュー姐さんも、確か小5か小6くらいの時に親と外で食事をした際、それがあまりにもイヤで仕方なく、熱出したってゆうんだから、ほんと思春期ってメンドクサイ時期だったりする。熱出すくらい、親と外食するのがイヤって、相当重た~い思春期である。
「頭ん中は、親のことよりも、好きな男のことでいっぱいの年頃なのよね~」
なんてニュー姐は言ってたが、フーちゃんもそうなんだろうか? 頭の中は、クラスの男子のことでパンパンなのだろうか? なんとなく寂しい……。
それにつけても、彼女が産まれた時、自分の人生がその後こんなふうになるなんて思ってもみなかったのでは、と思うのであった。なにしろ親が離婚しちゃって、その親がそれぞれ再婚して、そこにまたコドモが産まれて……ハラ違い・タネ違いの兄妹が自分の下に5人もいるんだから、なんてゆうか、まるで『犬神家の一族』とか、横溝正史の小説なみに入り組んだ人間関係&家系図ができそうである。
ところで先月、彼女は修学旅行で日光に行ってきたらしい。
「アタシも行ったよ、中学校ん時~」
「そうなんだ」
「あれ、見たの? あのサル」
「見たよ、三ザル」
「滝は見た? あの滝!」
「見たよ、華厳の滝」
「あの滝さー! 出るんだよね!! 写真撮った!? 写ってなかった? マジで出るから!」
「……」
「アタシが修学旅行で行った時さ、あすこで男子が写真撮ったんだけどさ、あの滝んとこに、小さい人の顔、いっぱい写っててさ! もう大騒ぎになってさ! ねえ、フーちゃん行った時は出なかったの!? 心霊写真写んなかった!?」
「……写ってないから」
彼女の父、つまりは私にとっての元・夫は、話す口調がクールな人であった。やはり一緒に住んでると似てくるのだろうか。フーちゃんのしゃべり方は、私の脳裏にふと元・夫を思い出させるのだった。
「旅館はどういうとこに泊まったの? やっぱ薄汚い感じの、安っぽいとこなわけ?」
「旅館だけど、ホテルっぽい感じのとこだよ。スパビレッジなんとかってとこだったから」
「そうなんだ……なんか、『出る!』って感じのとこじゃなかったんだ……」
「ホテルっぽいとこだったからね。そういう雰囲気のとこじゃないから」
「アタシが行った時は、すんごいきったない古い旅館でさー、床の間の鏡台とか、すげー恐くてさー、もう『絶対いるだろ!』って雰囲気ムンムンでさー!」
「……」
元・夫は「絶対、霊なんていない!」と言い張る、アンチ心霊野郎だった。やはり一緒に住んでると似てくるのだろうか。フーちゃんも彼の影響でアンチ心霊娘になってしまってるのだろうか……?
「でもさー! みんなで宿とか泊まったらさ、やっぱやるでしょ? 百物語! 恐い話とかしたでしょ? しなかった? 百物語!」
「……してないから。」
「なんでよ? なんでやらないの、百物語!」
「別にそんなの話す子とかいないから」
「……」
なんとか話を心霊方向に持っていこうと食い下がる母親を尻目に、あくまでもクールを貫き通す娘。
「別に百までとはいかなくてもいいから、せめてひとつくらい恐い話する子は……」
「いない」
……成長したな、と母は思った。意地になって何がなんでも心霊話をしたがる母親を彼女はどう思ってるのか。私のそんな思いをヨソに、彼女は(このクソ暑い中)黙々と毛糸で編み物をする……ゴーイングマイウェイな女に成長したのであった。
木原浩勝先生の新刊怪談本『九十九怪談 第四夜』(角川書店)を、「じっくりゆっくり、一話一話大切に読み進めていこう!」なんて目論んでたが、コドモらの世話に時間くって全然読めやしないのであった。しかし、意地でも読んでやろうと、赤ん坊を抱いてあやしながら読むと、逆に赤子に大泣きされる始末なのである……。