ネガティブな前田敦子と空回りする『情熱大陸』ナレーション
7月10日放送の『情熱大陸』(TBS系)で、AKB48の前田敦子が登場した。先日の選抜総選挙での1位返り咲き。この日は主演ドラマ初回放映日。そして映画『もしドラ』、歌手としてのソロ活動と、密着ドキュメントとしての見所、ドラマ性も高そう。冒頭のおなじみ「♪てて、てってって~」のテーマ曲が流れての紹介ナレーションも、
「前田はその中心にずっと立ち続けてきた」
「もはや現代の肖像ともいえる彼女、その胸には今、何が揺れているのか」
と、熱めにあおっていた。しかし、そんな前田の口から出るのが、どれもこれも、まあ見事に後ろ向き発言の連発だった。
「自分のことが好きじゃないですよ。かわいいとも思ってないですし」
「声がこんなんなんで」
「そんなに頭使えないんで」
「(高校は)通信だったんで」
「自分の感情を表に出すのが苦手で」
「あきられちゃうんじゃないか」
「みなさんの記憶に一生残るかというと、そうは思わないんですよ」
…………謙虚というんじゃなく、本気のネガティブ発言ぽい。総選挙の時の名言「私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」は、きっとそのまんまの気持ちなんだなぁと、つながった気がした。この番組は”自分うっとり度数”が高い人ほど語りが入っておもしろ発言連発になり、これまたうっとり度数の高いナレーションと相まって名(迷)作化すると思うのだが、それとは真逆ではある。主演ドラマ、『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011』(フジテレビ系)収録現場でも、所在なさげな彼女。
「居場所がなくて」
「まだ誰ともちゃんとしゃべれてない」
居場所がない主演女優って……。いろいろと、ほどがある。熱量の低い前田の一方で、ナレーションだけはいつも通りの切れ味を見せる。
「極度の引っ込み思案。いつも他のメンバーの陰に隠れていた」
「胸の内を言葉にするのが、苦手で他人との関わりに尻込みしてしまう。それはもしかしたら秋葉原に集うファンと相通じる心模様なのかもしれない」
「大人たちの言葉にも前田は流されない」
自分探し系アーティストの歌詞か!? サビで出会えたことや大地に感謝を始めそうだ。独特の番組だなぁと思うのが、取材対象者を困らせたり、怒らせたりすることが良し、という空気がありそうなところだ。それで真の姿を引き出したように思っているような。韓国系グループのCDを取り出した前田が、「参考になる」と説明する。取材スタッフに「具体的にはどんなところを?」と聞かれ、しばし沈黙。ここに入るナレーション。
「突然黙り込んでしまった。会話はそこで終わった」
そこまでたいそうな意味のある質問でもなさそうなので、前田も適当な受け答えをしてもよさそうなのに、真摯なのか、単に面倒くさい質問だったのか、前田はそのまま呼ばれて行ってしまった。スタッフも「相手に媚びない」的な姿勢なのか、相手が困っていても水を向けたり話題を変えたりもしない。やっぱり独特だ。
一番笑ったのは、ドラマ収録中にドラマ用カメラの他に、『情熱大陸』側のカメラが演技する前田の目線の正面に位置したことで、演技に集中できなくなってしまったというくだりでのナレーション。
「前田が怒っていた」
「怒っていた」っていうか、怒らせたんじゃないのでしょうか。しかし、
「まっすぐで不器用すぎるともいえる振る舞い。損得を考えない、彼女らしさの現れだった」
なんだか上手に前田敦子らしさゆえ、でまとめていた。そして番組最後に「もしAKB48に入っていなかったら?」という問いかけに対する答えもまた、やっぱり「らしい」ものだった。
「何もしてないと思う。大学にも行ってないです。普通に働いてたらいいほうじゃないか」
AKBじゃなかったら、プー。むき出しのリアルな名言で、番組を締めくくってくれました。
(太田サトル)
マスターピース
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